6者協議に関する二つの報道

2009.01

 以下に2008年12月に行われた6カ国協議に関する二つの報道を紹介します。一つの事実に関する伝え方には、個々の点では違いがありますが、12月の協議の進展を妨げたのが日本であることについては両記事の内容は一致していることがお分かりになると思います。日本のジャーナリズムの6者協議に関する報道には納得できないものが多いのですが、下記に紹介する共同配信記事は、細かい点は別にして、朝鮮新報の分析と本質において一致するものとして一読に値すると思います。
私が以下の二つの文章を紹介するのは、いわゆる「拉致問題」にしがみつくことによって朝鮮半島の非核化の進展そのものを妨げようとする日本政府のあり方、そしてそのことについてほとんど何の批判も起こらない日本国内の世論状況について、これが本気で核兵器廃絶」を世界に訴える日本なのかと根本的な疑問を感じずにはいられないという気持ちからです。
朝鮮側が試料採取を端から否定しているのではないことは両文章によっても確認できます。要するに、「行動対行動」つまり同時行動の原則についての朝鮮と日米の認識の相違(更にいえば、日本の異様な「拉致問題」への固執)に基づくことなのです。そして6者協議の最大の原則は6者のコンセンサスがなければ行動しないということです。朝鮮が了解しない限り、同時行動に移る余地はないのです。
 繰り返しますが、私もこの「コラム」で何度も明らかにしてきたように、「拉致」被害者がまだ朝鮮において生存しているのであれば、そしてその人たちが帰国を願うのであれば、日朝外交交渉を通じてその実現を図るべきだと考えます。しかし、日本の私たちが考えるべきことは、平壌宣言に基づく限り、そこで約束されたのは、朝鮮が再び「拉致」を行わないということであり、かつ、それに限られているということを、私たちは正確に認識しなければならないということです。朝鮮が現在では「拉致」を行っていないことは誰もが認めている(つまり平壌宣言を履行している)ことですから、解決されるべき「拉致問題」は存在しないのです。つまり、生存している人々の帰国問題は、平壌宣言の履行、つまり日朝国交正常化問題、とは切り離した別個の外交問題として解決されるべきなのです。  核兵器廃絶を真剣に世界に訴える日本であるならば、「拉致問題の解決なくして国交正常化なし」で済ませるような感覚でいてよいのでしょうか。ましてやもっともお隣の朝鮮半島における核兵器の問題がこんなに軽々しく扱われてよいのでしょうか。皆さんに本気で考えていただきたいと思います。

1.「進まぬ6カ国協議」


(2008年12月31日付長崎新聞所掲共同通信配信記事)

<仕返し>
 米朝の直接協議で事態打開が図られる図式が定着していた6カ国協議。米国は10月のヒル国務次官補の訪朝で検証方法に合意したとして、日本側が慎重な対応を求めていた北朝鮮のテロ支援国家指定解除に踏み切った。
 協議筋は、首席代表会合で日本が米国に対する「仕返し」に出たと解説する。テロ支援国家の指定解除では「最終的には米国内法の問題」との論理で押し切られた日本だが、「国際的な基準」にのっとることが必要と米国も主張する検証では、安易な妥協を許さない姿勢を貫く。鍵となる核施設からのサンプル(試料)採取などの米朝間の口頭了解を、書面に盛り込むことにこだわった。  一方、注文をつけ続ける日本に対し米側のいらだちも頂点に達していた。「実際に交渉をやってみたらいい。日本が北朝鮮から合意を引き出してきてくれたら、その結果に喜んで従おうじゃないか」。米高官から漏れる言葉は、“外野からの雑音”を嫌う米国の本音を示している。
 米国にとってせめてもの救いは、寧辺の核施設無力化作業として、実験用黒煙減速炉からの使用済み燃料棒取り出しが、1日15本というほそぼそとしたペースながら続いていること。国務省当局者は「劇的に進展しているわけではないが、後退しているわけでもない」と、現状に光明を見いだそうとするかのようにつぶやく。
<カード>
 核検証問題をめぐる駆け引きで歩み寄りの姿勢を全く見せない北朝鮮。試料採取など科学的方法による検証に対し、金桂冠外務次官はじめ北朝鮮関係者は「今後協議していく問題だ」と口をそろえ、交渉の余地があることは示唆している。
 個々には、検証も非核化プロセスと同様、段階的に対応することで、今後の6カ国協議で交渉カードを一つでも多く温存したいとの北朝鮮の思惑がうかがえる。核廃棄と核兵器の扱い、見返りとして北朝鮮が要求する軽水炉提供など難航が避けられない核施設無能力化後の議論に備え、足場固めを図ろうとしているとみられる。
 さらに、オバマ新政権と協議に取り組む「交渉課題」が必要な北朝鮮にとって、検証問題は現段階で決着させないことが得策との判断もあるようだ。任期切れ直前のブッシュ政権との駆け引きは、テロ支援国家指定の解除を引き出した段階で区切りをつけたとみられる。
 「ここで失礼する」。6カ国協議首席代表会合の最終日の十二月十一日、帰国便の都合で終了間際に退席したヒル次官補は各国の首席代表と握手を交わしながら、4年近く北朝鮮と向き合う場となった北京の釣魚台迎賓館を後にした。しかし、そこに金外務次官の姿はなく、米朝交渉の一つの幕切れを象徴する場面となった。

2.「行動対行動」:朝鮮の外交的攻勢の法則 -原則に基礎を置く検証問題の解決方法-


(2008年12月11日 朝鮮新報 キム・ジヨン記者)

6者協議(12月8日-12日)において論議が多かった検証問題においても、朝鮮は「行動対行動」の原則に基づく立場を堅持して最後まで一貫させた。
<「一方的核武装解除」論>
 当初、日本、南朝鮮などは、協議において「試料採取」などをもっと含ませる検証文献を採択しなければならないと主張した。朝鮮は、10月に平壌においてアメリカ側と達成した合意外の要求を拒否した。双方の対立は、検証手段をめぐる技術論ではなく、6者(協議)の枠内で樹立した「行動対行動」原則に対する相対立する立場に起因していた。
 朝鮮は、以前、非核化過程で提起された検証を無条件で否定したことはない。原則に基づく段階論の立場を取ったに過ぎない。非核化の第2段階、すなわち、アメリカが「テロ支援国家」リスト(からの朝鮮の)削除という政策転換の第一歩を取るに過ぎない現時点では、朝鮮が推進する核計画の全体像を把握する端緒の提供を意味する「試料採取」の実施を拒否することは、それほど強引ではないのであり、同時行動の原則に照らして妥当な主張である。
 原則に外れることは、検証に「国際的基準」が適用されなければならないとする名目を立て、朝鮮側に言いつのってきた「試料採取」である。今回の協議において、日本、南朝鮮などの5者は、10.3合意を仕上げる前に、朝鮮が検証問題において一歩さらに進まなければならないという強盗の論理を押し立ててはばかることがなかった。アメリカという敵対国の脅威はいまだに残っているのに、これに対処するための朝鮮の核抑制力をすべて公開しなければならないとする「一方的核武装解除」論の変種が非核化第2段階を終えるための6者協議の場で繰り返されたことにほかならない。
 今回、協議においての議論と協議は、原則の貫徹の当否がカギとなった。合意文書に「試料採取」という文言が入るのか入らないのか、あるいは、何らかの異なる表現方法によって代置するのかということは、当初、本質問題ではなかった。各国の同時行動によって進展が成し遂げられる非核化のタイム・テーブルにしたがって検証の手順と方法を正しく規制するという問題がもっと重要だった。
 結果的に、原則に反する検証要求は排撃され、協議においては10.3合意の履行完結を目指す議長声明が発表された。
<非核化の第一歩のまとめ>
 朝鮮の地下核実験(2006年10月)以後に再開された6者協議は、「行動対行動」の原則を具現する共同計画の作成及びその履行のロード・マップであった。2年間の歳月の中で文書に反映された原則は、各国の現実政治にも浸透していった。本年6月、「テロ支援国家」リスト削除過程への着手を発表しながら、ブッシュ大統領も「Action for Action(行動対行動)」という言葉を引用した。  6者合意に一貫している同時行動の原則は、朝鮮半島の核問題が朝米敵対関係に起因しており、したがってどちらか一方の変化によるものではない相互信頼を醸成し、関係を改善していく過程で問題を解決するという発想から出ているものである。
 顧みれば、6者協議において合意された行動計画を履行することにおいて、絶えず先行したのは朝鮮側であった。10.3合意の履行過程においても、アメリカは、「テロ支援国家」リスト削除過程に着手すると発表していながら、その後、検証問題を口実にして削除措置の効力発生を延期した。朝鮮が原則的に対応して突破口を開き、朝米間に検証に関する合意が成し遂げられようとしたその後に、日本、南朝鮮が不満を表明したために合意履行にブレーキがかけられた。
 アメリカの政策転換を導く合意履行過程が平坦ではあり得ず、紆余曲折を経るであろうことは、2年前に6者協議が再開された時に予想することができた。おそらく朝鮮は、その時点において、2年の任期を残すブッシュ政権に対する要求水準を現実性があるように設定し、相応する行動を取る政策的決断をあらかじめ下していたということだろう。まさしくそれが第2段階において作業が推進されたニョンビョン核施設の無力化である。このように見てみると、朝鮮における「行動対行動」原則は、何らかの対価を願って動くという受動的な取引を行うということではない。(それは、)非核化を先行的に実行することで相手側の変化を促すという外交的攻勢の法則である。
 あるときには朝鮮を「悪の枢軸」と呼んでいたブッシュ政権も、最終的には「テロ支援国家」リスト削除措置を取り、アメリカが対朝鮮敵視政策を転換する出発点の口実にした。そして、オバマ政権が船出する。これから非核化第2段階が仕上げられれば、朝鮮は、新しい目標を達成するために次の段階の外交的攻勢を準備することになる。

RSS