長崎新聞・論説「佐藤首相の核使用要請」

2009.01.

 仕事始めの日に届いていた08年12月25日付の長崎新聞の論説(長崎新聞では「社説」に該当するものらしい)「佐藤首相の核使用要請」を読んで、広島に来て3年9ヶ月にしてはじめて「これぞ長崎」という気迫のこもった内容の文章に接しました。高橋信雄署名の論説です。とくに感銘を受けた2カ所の文章を引用します。

「非核三原則を唱えた首相自身が、国民の目の届かぬ外交の秘密交渉の場では、有事の際の核兵器使用を求め、核戦争を容認していた。非核三原則は当初から空洞化していたことになる。被爆国日本の国民を欺き、ノーベル平和賞に拍手を送った世界を欺く、許し難い二枚舌であったと言わねばならない。
長崎市は毎年の長崎平和宣言で、非核三原則の法制化を求めてきたが、政府はこれを拒み続けている。だが今回、公開された外交文書は、法制化の必要をますます強く感じさせることとなった。政府が掲げた三原則が、当初から国民の非核の願いを裏切る虚構の側面を持っていたことが判明した以上は、これを一刻も早く法制化して、看板と中身が正反対などという事態を二度と許さないようにしなければならない。40年以上前の秘密交渉の驚くべき内容が、実態不明のまま国是とされてきた非核三原則の再検証の必要性を痛感させ、被爆地長崎に、その法制化の取り組みの先頭に立つことを迫っている。」

世界に核兵器廃絶を訴えている被爆国日本の核政策が、このように過去一貫して秘密裏に決定されてきたことは、許すことのできない問題である。現在も非核三原則が空洞化しているのではないかという国民の疑念は根強い。政府が国民を欺き続けていると疑われるようでは、世界に核廃絶を訴えるどころではない。この際、日本の核政策の歴史をすべて明るみに出し、その上で、透明性のある政策論議をしていく必要があるだろう。」(強調は浅井)

翌26日付の同紙には、長崎県の被爆者5団体は、25日に「非核三原則」の法制化を求める共同声明を発表し、麻生首相、中曽根外相に送付したことも報道されました。声明文では、佐藤元首相の要請の事実を「国民への背信行為」と強く非難しているそうです(このように長崎の新聞及び被爆者団体からは本当の怒りの声が起きたというのに、同様の声が聞こえなかった広島には深い失望を味わったことはいうまでもありません)。

私もたまたま長崎新聞の上記論説が出た日(12月25日)に私のウェブサイトの「コラム」で佐藤元首相の核攻撃積極容認発言を取り上げ、外務省が公開した狙いの危険性を指摘しました。ちなみに私が定期購読している地方紙(中国、神奈川、長崎、沖縄2紙)社説でこの問題を取り上げたのは、上記長崎新聞の論説を除けば、12月23日付の琉球新報だけでした(琉球大学・我部教授の指摘を受けて、外務省の公開の真の意図は奈辺にあるのかを問いかける内容)。
私は長崎新聞の、長崎の新聞としては余りに当然な、しかし、広島・長崎のこれまでの中央政府に対して公然ともの申すことを余りにも自制してしまう風潮が強すぎる状況の中では、極めて勇気ある発言に深い敬意を表したいと思います。本来であれば、長崎新聞と広島を代表する中国新聞が連名で書いていたならば、もっとインパクトがあり、中央政界にも大きな衝撃を与えたであろうと思うと、非常に残念な気持ちになります。長崎の被爆者5団体の声明文についても同様で、広島の被爆者7団体と共同で出していたならば、中央に与えたショックはもっと強かったに違いありません。改めて広島と長崎の連帯強化を願わずにはいられません。
なお、日本被団協、原水協、原水禁のウェブサイトもチェックしましたが、佐藤元首相の要請に関する抗議声明を出したかどうかは確認できませんでした(1月7日午前段階)。やはりこれだけの深刻な内容なのですから、もっと国民が一丸となった怒りで結集しなければ、それこそ政府・外務省の思うつぼにはまってしまうでしょう。長崎新聞及び長崎被爆者5団体の勇気ある発言・行動を孤立した「出来事」にしないためにも、広島を筆頭とする関係者の猛省を促したいと思います。

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