朝鮮半島非核化に関する現状をどう理解するか

2008.09.07

*北朝鮮が核計画に関して申告を行ったのに対し、アメリカ政府が「国際基準」の査察を要求し、これに応じない北朝鮮をテロ支援国家リストから外す約束を履行しないことに関しては、日本のメディアは北朝鮮の行動を非難することに終始していますが、9月3日付のインタナショナル・ヘラルド・トリビュン紙(IHT)に掲載されたボストン・グローブ紙(BG)の社説は、「北朝鮮核取引は守る価値がある」とのタイトルで、非はアメリカ政府にあって北朝鮮にはないことを明快に論ずるものとして注目されます。私に送られてくるメールの中には、北朝鮮に関する情報や報道を紹介するものもあり、それらを通じて北朝鮮の主張・立場を理解することができるのですが、今回のBGの主張は、北朝鮮の主張が決して荒唐無稽なものではないことを裏づけるものです。以下では、BG社説の内容を紹介するとともに、アメリカ政府のテロ支援国家解除不履行に関する北朝鮮外務省スポークスマンの公式声明を全文紹介し、また、アメリカが「新しい要求」を持ち出した経緯についての興味ある論考も少し長いですが紹介しておきます(9月7日記)。

1.BG社説

北朝鮮は人権虐待者で乱暴なレトリックの常用者かも知れないが、非核化に関する合意に基づくアメリカの義務を破ったとしてブッシュ政権を非難したとき、真実は北朝鮮側にあった。
 政権が愚かにも朝鮮半島の非核化に関する取引の目的を守らなかったために、北朝鮮は、その唯一の原子炉の無能力化をストップした。
 ブッシュ大統領は、6月、6者の多段階合意に従って、議会に対して北朝鮮をテロを支援する国家のリストから除くことを求めると宣言した。
 アメリカは、北朝鮮の核物質及び活動のすべてと考えられるものの申告の提出に対応してこのステップをとることに同意していた。行動対行動という約束の原則に従い、北朝鮮はヨンビョンの原子炉の無能力化を開始した。
 最初は、中国、韓国、ロシア、日本そして北朝鮮及びアメリカの間の微妙な交渉から生まれた計画に従ってすべてのことが動いているように見えた。ところがワシントンのタカ派と疑い深い連中が、北朝鮮をテロ支援国家のリストから外す前に北朝鮮の申告の査察を求めて騒ぎ始めたのだ。
 アメリカの使節は、二つの敏感な問題、すなわちウラン濃縮の秘密計画及び核物質または技術の他国への移転、についての情報を北朝鮮側に求めた。
 これらの分野で北朝鮮が何をしているかについて査察したいということには十分な理由がある。北朝鮮の科学者にインタビューし、北の核申告でなされている主張についてチェックするために主要な核施設を訪問するという権利を要求することも正統なことである。
 しかし、6者の取引では、北朝鮮がテロ・リストから外される前に、ウラン濃縮や拡散活動について潔白になることを求めてはいない。ヨンビョンの無能力化と北朝鮮をリストから外すことが、約束の第二局面での相互的行動なのだ。査察問題は、これからの局面で解決されることが考えられていた。
 ブッシュは、北朝鮮がその核施設及び計画を廃棄することと引き換えに、同国に対して経済的及び外交的利益を与えるという取引を行うことの価値に渋々応じるようになったに過ぎない。(しかし)これこそが、決定的な国家安全保障上の目的を実現する唯一の現実的な道なのだ。
 大統領は取引を守るべきである。彼は自ら言ったように、北朝鮮をテロ・リストから外すべきだ。それにより、北朝鮮は原子炉の無能力化を完成することを義務づけられることになる。
 その時点になって、査察プロセスをどの程度まで進めるか、どれほど徹底的なものにするかといった、あらゆる懸案問題について交渉を再開することができるだろう。

2. アメリカ政府のテロ支援国家解除不履行に関する北朝鮮の公式声明

8月26日付のサイトKorea Newsによれば、朝鮮外務省スポークスマンは26日、全文次のような声明を発表しました。

米国が6者会談の10.3合意の履行を拒否したことにより、朝鮮半島核問題解決に重大な難関が生じた。
 朝鮮半島非核化に関する9.19共同声明履行の第2段階の行動措置を規定した10.3合意には、われわれが核申告書を提出し、米国はわが国を「テロ支援国」リストから削除する義務が含まれている。
 われわれは、去る6月26日に核申告書を提出したことにより自らの義務を履行した。
 ところが、米国はわれわれの核申告書に対する検証議定書が合意されていないという「理由」で、約束された期日内にわれわれを「テロ支援国」リストから削除しなかった。
 これは、合意に対する明白な違反である。

   6者や朝米間のいかなる合意にも、われわれの核申告書に対する検証問題をリスト削除の条件として規定した条項はない。
 検証について言えば、それは9.19共同声明に従って全朝鮮半島を非核化する最終段階になって6者みながともに受けるべき義務である。
 南朝鮮とその周辺に米国の核兵器がなく、新たに搬入されたり通過したこともないことを確認する検証が、われわれの義務履行に対する検証と同時に行われるべきであるというのが、まさに「行動対行動」の原則である。
 現段階では、6者の枠組みに検証機構と監視機関を設けることにしたのが合意事項の全部である。

   しかし、米国はこの合意事項を悪用して突然、核申告書に対する検証に「国際的基準」を適用すべきであるという問題を持ち出して、わが国のどこでも意のままに探ってサンプルを採取し測定するような査察を受け入れるよう強迫した。
 米国の言う「国際的基準」とは即ち、1990年代に国際原子力機関(IAEA)が持ち出してわが国の自主権を侵害しようとし、結果的にわれわれの核拡散防止条約(NPT)脱退を招いた「特別査察」である。
 米国がわが国に対してもイラクでのように意のままに家宅捜索ができると考えるなら、それは大きな誤算である。
 米国がわれわれに対してだけ一方的に査察するというのは、9.19共同声明に伴う米国の核脅威除去を骨子とする全朝鮮半島非核化は放棄し、互いに銃口を突きつけている交戦一方であるわれわれだけ武装解除させようとする強盗的な要求である。

 われわれが朝鮮半島を非核化しようとするのは、わが民族に加えられている核の脅威を取り除くためであって、決してわれわれの核抑止力をもって駆け引きしようということではない。
 6者会談が今のように大国が小国をむやみに翻弄する場に転落すれば、そのような6者構図が果たして誰に必要であろうか。
 米国が今回、わが国が「テロ支援国」でないということを内外に公式に宣言しておきながら検証問題を理由にリスト削除を延期したのは、そのリストなるものが実際はテロと関連したリストではないことを自認したことになる。

   われわれは、「米国に従順ではない国」のリストにそのまま残しておいても構わない。
 現在、米国はわが国の自主権を重大に侵害しようとしている。
 米国が合意事項を破った条件の下、われわれはやむを得ず「行動対行動」の原則に従って対応措置を講じざるを得なくなった。

   第1に、10.3合意に従って進行中にあるわれわれの核施設無能力化作業を即時中断することにした。
 この措置は、去る14日に効力が発生し、すでに関係国に通知された。
 第2に、わが当該機関の強い要請に応じて寧辺核施設を直ちに現状どおり復旧する措置を考慮することになるだろう。

3. アメリカ側のアプローチの不自然性を指摘する論考

9月1日付のサイト・統一ニュースは、アメリカ側が土壇場になって査察問題に関する「新しい」要求を持ち出したことに関する経緯について、次のような興味深い論考を掲載しました。私たちの感覚からいうと、明らかに北朝鮮側の立場に立って物事を論じている点で警戒感が先立つ方もいると思いますし、読み慣れない日本語の文章なので抵抗感を抱く方もいると思いますが、内容的には、北朝鮮外務省スポークスマンの主張にそれなりの根拠があること(アメリカ側の新たな要求が事態をこじらせていること)について立ち入って考察していると思いますので、少し長いですが一部分を紹介しておきます。

クリストファー・ヒルの異常な行動

6者会談が非公開会談である上、今回の6者会談をこじれさせた核検証交渉も公開されず、交渉全貌を外部からのぞき見ることは難しいが、幸いにも真実に会うのになくてはならない重要な情報の一端が目を引く。2008年7月10日から12日まで北京で開かれた第6次6者会談首席代表会談に関する情報がそれだ。その会談で行われた核検証交渉の結果は、7月12日に第6次6者会談首席代表の言論発表文を通じて世に知られた。
ところが、会談場に現われたアメリカの首席代表クリストファー・ヒル(Christopher R. Hill)の行動が異常だった。 彼は会談が開かれる直前、他の首席代表にあわてて文書を回した。 その文書はホワイトハウスの対策会議が作成した四ページの核査察方針の提案書だ。ホワイトハウスの国家安保会議副補佐官ジェフリー・ジェイムズ(Jeffrey James)が主宰するホワイトハウス対策会議は、国務省、国防省、中央情報局の次官級官吏が参加した中で実務を処理する重要な会議だ。
ヒルが他の首席代表に検証議定書草案(verification protocol draft)を回したというマスコミ報道は誤報だ。 検証議定書草案には政治的に非常に敏感で実務的で複雑な内容が入って行かなければならないので、それを作ろうとすれば相当な時間と努力を投入しなければならないのに、当時のホワイトハウス対策会議に与えられた時間は足りなかった。
6者会談で核検証問題に合意する正常な手続きは、検証議定書草案を他の首席代表に送って前もって検討する時間を与えた後に6者会談を開いて合意する式に進めるものだ。ところが、異常にも、ホワイトハウス対策会議は検証議定書草案ではなく核査察方針提案書を急いで作成したし、6者会談が開かれる前にあらかじめ他の首席代表に送って前もって検討できるようにしなければならないのにヒルは会談開会直前に突然提案書を出したのだ。彼らの異常な行動にはそんな理由があった。

ホワイトハウスを慌てさせた北側の義務履行

ホワイトハウスの国家安保会議は慌てざるを得なかった。北側が非核化日程を果敢で速かに推進することはできないと予想した彼らの予想が崩れたからだ。
ホワイトハウスの国家安保会議を慌てさせた北側の非核化推進日程は次の通りだ。2008年4月14日に北側外務省はアメリカ国務省に2ページ分の非公開覚書(confidential minute)を送った。 その覚書には、アメリカが北側のウラン濃縮疑惑とシリアに対する核協力疑惑を憂慮していることを北側が“認知する(acknowledge)”と言う内容、そして双方が互いに満足できるように見解の違いを解消して行くために北側が“協調する”と言う内容が入っていた。ウラン濃縮疑惑とシリア核協力疑惑は、ホワイトハウスの国家安保会議が作り出した疑惑であって事実ではないので、彼らがでっち上げた疑惑に対して北側が解き明かさなければならない義務はない。それなのに北側が‘認知’と‘協助’に言及した非公開覚書を彼らに送ったのは、ホワイトハウスの国家安保会議が執拗に疑惑を提起するせいで、もとの場所でくるくる回わる非核化過程をどうやってでも進展させようとする主動的な措置だった。
非公開覚書を送った後、北側の義務履行には加速度がかかった。2008年5月8日に北側はアメリカ国務省の官吏に1万8千800ページ分の核関連文書を渡してやったし、6月10日に北側外務省は反テロ義務履行に関する声明を発表することによって、もう2001年11月12日に二つの反テロ国際協約に署名した北側が、テロ支援活動と無関係だということをもう一度明らかにした。また2008年6月26日に北側は、6者会談の議長国である中国に核申告書を送ったし、明くる日には寧辺核施設にある冷却塔を爆破することで断固たる非核化の意志を物理的に立証した。
その頃北側の核技術者は、国際原子力機関(IAEA)要員の現場接近を許容した中で、寧辺の8つの核施設を不能化する作業を既に終わらせたし、残りの3つの核施設を不能化する作業を順調に行っていた。

ホワイトハウスの制御行動を暗示した大統領声明

北側がそれ程果敢で速かに非核化を推進するなどとは予見ができなかったホワイトハウスの国家安保会議は、自分が遅らせた非核化日程だけつかんでいたが、外交的にひどい目に会うのではないかという不安感を感じた。北側が果敢で速かに非核化を推進すると、ホワイトハウスの国家安保会議は、テロ支援国指定を解除しなければならないし、それによって朝鮮半島の平和会談を開催して、朝米修交会談を始める連続的な関係正常化の日程に入るようになる。その連続的な日程はぎっしりとかみ合っていて、一旦そこに入れば後に退いたり、違うところに逃れにくい。
連続的な関係正常化の日程は朝鮮半島の根本問題を解決する情勢変化の過程なので、ホワイトハウスの国家安保会議はその過程に気軽に入る意思や準備がなかった。彼らが非核化の進展速度を遅らせる制御行動に出た理由がそこにある。
国務省がテロ支援国の指定解除を連邦議会に知らせた日から45日になる2008年8月11日に国務長官コンドルリザ・ライス(Condoleezza Rice)が、指定解除の発効を確認する最終通報を連邦議会に送ると、指定解除が完了するのに、ホワイトハウスの国家安保会議は最終通報を送らずに非核化進展速度を遅らせる制御行動を取ることに決めた。その決定に従って、ホワイトハウスの対策会議が急いで作ったのが核査察方針提案書だ。
元来その提案書は非核化の進展速度を遅らせるために作ったものなので、北側が到底受け入れることができない、だれが見ても荒唐無稽な核査察方針が入って行った。荒唐無稽な核査察方針とは、1次検証で疑惑が解消されない場合は追加で他の疑惑対象を検証するのみならず、寧辺核施設以外に高濃縮ウラン疑惑と核拡散疑惑に対しても検証するといういわゆる特別査察(special inspection)だ。 特別査察の意味するものは、言うまでもなく、ホワイトハウスの国家安保会議が恣意的に疑惑施設を名指しすれば、アメリカ視察団が査察したい対象を思う存分査察するということだ。
北側首席代表がそれ程荒唐無稽な提案を拒否したのは当たり前の事だ。北側首席代表が提案を拒否すると、核検証交渉は論難に陥ったし、結局一般的な事項だけを含んだ言論発表文を出して会談を終わらせたのだ。
ホワイトハウスの国家安保会議が非核化の進展速度を遅らせる制御行動に出たと言っても、6者会談の議長国である中国に核申告書を送った北側の義務履行を制御する道理は無かった。 仕方なく、ブッシュは北側が核申告書を中国に送った時刻に合わせて、2008年6月26日にホワイトハウスのバラ園(Rose Garden)で記者会見を開いて、気乗りしない大統領声明を読んだ。
ブッシュが読む声明を聞きながらも、人々はホワイトハウスの国家安保会議が非核化の進展速度を遅らせる制御行動に出たことに気づくことができなかった。ただ声明に入っている文章の1行が制御行動を暗示しただけだ。声明でブッシュは、“もし北側が正しい選択を続けて行うなら、北側はリビアが過去に数年かけて達成したように、国際社会との関係を改善できるようになる”と指摘した。
大統領声明でリビアを挙げたのは、模範的な非核化の事例を挙げて見せたのではない。それはアメリカが主導してイギリスと国際原子力機関(IAEA)が同参した視察団が、リビアで実施した核査察及び核廃棄を北側でも繰り返そうという意図を仄めかしたものだ。

15年前に破棄された国際基準

近頃ホワイトハウスのスポークスマンは北側が国際基準に合う核査察方針を受け入れなければならないと語る。彼らの言う国際基準とは‘国際原子力機関(IAEA)の安全措置に対する追加議定書(Additional Protoco to the IAEA Safeguards Agreement)’に入っている二つの致命的な毒素条項、すなわち核物質を直接扱わない未申告施設に対する特別査察と疑惑施設に対する随時査察を意味する。一口で言って、国際基準に合う核査察とは、未申告施設特別査察と疑惑施設随時査察だということだ。
しかし北側は核拡散禁止條約(NPT)脱退を留保した1993年6月11日の措置を2003年1月10日に撤回したので追加議定書の適用を受けない。ホワイトハウスのスポークスマンが追加議定書ではなく国際基準という曖昧な概念を使うしかないわけがそこにある。
注目すべきことは、国際基準に合う核査察を受けたリビアでは、アメリカが未申告施設までひたすら査察して核廃棄作業を皆終えた後になって初めてリビアをテロ支援国指定から解除してやったという点だ。2003年12月にリビアがアメリカの圧迫に屈服して大量破壊武器(WMD)開発計画を無条件放棄するという政治的降参宣言を出すと、アメリカ国務省は自国民のリビア旅行禁止措置を解いて、ワシントンとトリポリにそれぞれ利益代表部を持ち出すという‘政治的補償’を与えながら、国際基準に合う核査察に入って行った。アメリカがリビアをテロ支援国指定から解除した時は、核査察は言うまでもなくて核廃棄作業まで終えた後の2006年5月15日だった。
国際基準に合う核査察を受けた国は三つの国だけだ。ルーマニアは1990年1月に社会主義体制が崩れた時から2年後の1992年5月に市場開放と外資誘致のために自ら進んで特別査察を受けた。湾岸戦争で敗れたイラクはアメリカの圧力に屈服して1991年4月から1998年10月まで最長期の特別査察を受けたが、アメリカ国家情報機関が特別査察を利用してイラク国家機密を隅隅まで密かに探ったりしたのは既に知られた事実だ。またアメリカの圧迫攻勢に押されて行動対行動の原則を放棄したリビアが、自国の市場を開放して特別査察を受けたのは、アメリカによって事実上武装解除された悲劇の始まりだった。だからホワイトハウスの国家安保会議が取り出した国際基準に合う核査察は、北側がルーマニア、イラク、リビアの悲劇に従ってくれるように願う実に荒唐きわまりない提案だ。
事実、ホワイトハウスの国家安保会議は、北側が国際基準に合う核査察方針を拒否するだろうと言うことを明らかに知りながらも提案した。非核化の進展速度を制御しようとする目的に従って計算された行動だった。
しかし彼らの制御行動はつまらないまねだ。何故ならば、特別査察と随時査察を要求する国際基準は朝米関係で既に破棄されたからだ。その根拠は次の通りだ。
1993年6月2日から11日までニューヨークで進めた朝米会談で、クリントン政府は特別査察と随時査察に固執して来た自分たちの核査察方針を放棄すると北側に公約した。1994年10月21日にジュネーブで採択された朝米基本合意には、その公約に従って特別査察と随時査察が入らない代わり、“北側と国際原子力機関(IAEA)間の安全措置協定によって臨時及び一般査察を再開する”と言う規定だけ入って行った。

物静かな対応にはそれだけのわけがある

非核化の進展速度を制御するためにわざわざ荒唐きわまりない核査察方針を取り出したホワイトハウスの国家安保会議は、北側がその提案を拒否したといいがかりを付けながら、テロ支援国指定を解除しなければならない義務を履行していない。非核化の義務をまじめに履行して来た北側が、ホワイトハウスの国家安保会議の約束違反と詐欺劇に怒るのは当たり前の事だ。
それなのに北側は案外と物静かに対応した。2008年8月26日に出た外務省代弁人声明からそんな雰囲気を感知できる。代弁人声明は2008年8月14日から“核施設の無力化作業を直ちに中止”したし、“寧辺核施設をすぐに原状どおり復旧する措置を考慮”すると明らかにした。北側は寧辺核施設の原状復旧に取り掛かるのではなく考慮するとだけ言ったし、北側核技術者が不能化作業をする寧辺核施設への接近が許容された国際原子力機関(IAEA)要員を国外へ追い出していない。
北側が物静かに対応したわけは何だろう? その訳は、未申告施設に対する特別査察と疑惑施設に対する随時査察を北側が何らの代案無く無条件反対するのではないからだ。ホワイトハウスの国家安保会議が国際基準に合う核査察方針を提案したことに対応して、北側は9.19共同声明に根拠した核査察方針を準備した。
驚くべきことに、9.19共同声明に根拠した核査察方針は、北側が既に16年前に提案したものだ。1992年6月26日に北側外交部(当時の名称)が発表した代弁人声明を再度読んで見る必要がある。
“共和国政府は核査察が公正に行われようとするならば、我が国が国際原子力機関(IAEA)の査察を受ける時、我々も南朝鮮にあるアメリカの核兵器と核基地に対する査察を進めなければならないということを一貫して主張して来た。 (中略) 我が国での核脅威は南朝鮮に配備されたアメリカの核兵器によって生み出されたものなので、非核化を検証するための南北査察を通じてアメリカの核兵器と核基地に対する全面査察が行われなければならない。”
一口で言って、9.19共同声明に根拠した核査察方針とは、特別査察と随時査察を朝鮮半島全域で実施することだ。
2008年7月10日から12日まで北京で開かれた6者会談首席代表会談で北側は、9.19共同声明に根拠した核査察方針を逆提案した。2008年7月15日のアメリカ連邦下院外交委員会の非公開聴聞会に出たクリストファー・ヒルが首席代表会談の中で北側が在韓米軍基地に対する核査察を要求したと証言したことや、2008年7月17日の外交消息筋を引用したマスコミ報道で、北側が在韓米軍に対する核査察を許容しない検証体系に同意できないという立場を明らかにしたと指摘したこと、そしてまた別の言論が北側が在韓米軍基地についてだけではなく韓国軍基地についても核査察を要求したと報道したことは、北側が9.19共同声明に根拠した核査察方針を逆提案したことを語ってくれる。

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