イラン大統領の米NBCテレビとのインタビュー

2009.08.03

*7月29日のイランの通信社IRNAは、その前日に行われたアフマディネジャド大統領のNBCテレビ局とのインタビューの内容を詳しく報道しました。その内容は、世界情勢に関する基本認識、「5+1」との核問題を巡る協議に対するイランの立場とイラン・アメリカ関係、原油価格問題、イラク問題、イランの核兵器保有の可能性など多岐にわたるものです。英語表現について分かりにくい部分もありますが、非常に興味深い発言ですので、イランについての私たちの認識を深める意味で、大要を紹介したいと思います。また、7月29日付のインタナショナル・ヘラルド・トリビュン紙(IHT)は、イランの原子力平和利用問題及びイラク問題に関するイランの影響力について2つの興味深い内容の署名記事を掲載していますので、アフマディネジャド大統領の関係発言の箇所で要旨を紹介しておきたいと思います(8月3日記)。

1.世界情勢認識

「世界のすべての諸国民は、今日の世界の現状について不満足である。なぜならば、現在の条件は人間の威厳に反しており、人間の尊厳以下であるからだ。」「恐怖、憎しみ、差別そして不正義の影が今日の人間社会を覆っており、そういう条件の下では、人類及びその安寧あるいは世界諸国の平和と進歩を本当に心配するものが、そういう望ましくない現実を変えようとするのはきわめて自然である。」世界の状況を根本的に変化させるためには、諸問題の根本的な原因を完全に理解する必要があり、「世界及び人間の状態を物質主義のめがねを通してみるならば、予言者の教え及び人間的諸価値を欠いた単独主義的なアプローチの採用につながり、今日の世界の現状につながっている。」「これらの問題の解決策は、人類の方向を諸価値及び予言者の教えを奉ずるように変えることにある。そうすることにより、世界は、愛、平和及び友情で満たされ、人々のあらゆる問題の根は枯れるであろう。」「この願わしい立場に到達するためには、人類の運命について関心のあるものすべてはその最善を尽くすべきであり、それがイラン国民のアメリカ人を含む世界諸国民に宛てたメッセージのあらましである。」
 (NBC側から、大統領の世界及びアメリカに宛てたメッセージは協力を内容とするものか、敵対的遭遇を内容とするものかとの質問に対し)「なんという偶然の一致か。その質問は、我々がアメリカの政治家に聞きたいものだ。彼らは、イラン国民に対してどちらのアプローチを取りたいのか。もちろん、アメリカの政治家たちは過去50年イラン国民に対して敵対的立場を採用してきたし、我が国民はそれに慣れて、生活をそれに適応させている。」「いま我々は、アメリカの政治家の側における新しい動きを見ているが、問題は、この態度の変更が正義の諸規則に基づいた丁寧なアプローチ採用の前触れなのか、おなじみの古くさい敵対的なアプローチの見せかけだけなのかということだ。」

2.「5+1」とのジュネーヴ交渉とイラン・アメリカ関係

(「5+1」が2週間前にジュネーヴで出したモラトリアムに関する質問に対し)「それは、我々がジュネーヴの話し合いから理解したことではない。」「あの会合では、「5+1」も我々もそれぞれのパッケージを提出し、話し合いは共通のワーキング・プランに焦点が向けられた。もし双方がコンセンサスに達すれば、見解の違うポイントについて合意に向けて道をつけられるだろう。」「もちろん、彼らが脅迫を続け、イラン国民に対して制裁を科すのであれば、我々の反応はきわめてハッキリしている。」「しかし、相互の理解及び協力に基づく道であれば、協力に適当な分野を決めるための話し合いが必要になるし、イランとしては後者のアプローチが好ましいが、その決定については相手側に任せる。」「イラン国民に対して制裁とかモラトリアムを押しつける言葉をはくことはできないし、そのようなアプローチでは問題解決に資さないだろう。」二つのパッケージの共通点に関して話し合うことが意思を近づけるためのよい方法である。
(NBC側が、イランが「5+1」の条件に従えば、テヘランとの協力のための世界の扉が開く可能性があるだろうと指摘したのに対し)「今日のイランは成長しつつある経済を擁する大国であり、いろいろな国々との間で経済的及び文化的な関係を有している。誰もが知っているように、イランの生存にとって、少数の侵略国家にへつらう必要はない。」「共通点に焦点を当てるのが、コンセンサスに達するためのよりよい方法である。」「今日の世界の状況からいって、数百万人規模の国家との話し合いででも最後通牒といった言葉をしゃべることはできない。ましてや、偉大なイランという国家に対してはなおさらである。」「さらに、そういう場面におけるいかなる動きにも、法的基盤があることが必要だ。ジュネーヴではモラトリアムについての言及はなかったし、そのようなこととは理解しなかった。もちろん、ジュネーヴでの話し合いは一歩前進だったし、同じ方向に向けてさらに新しいステップが必要である。」
「これらの会談にアメリカの代表がいたことを積極的に評価している。ただし、そのようなアプローチが正しい雰囲気の中で行われたとすればだが。」(イランがアプローチを変える可能性についての質問に)「我々がアメリカの代表の出席を歓迎したとき、我々はすでにそうした。もし彼らもまた近い将来同じ政策を続けるのであれば、我々は間違いなくよりよい方に変化するだろう。」「状況をより好ましい方向に変化させるための前提条件は、アメリカ人がイラン国民の諸権利を承認し、国際法を遵守し、相互尊重の必要性を認めることであり、そうすることは何ら難しいことではないはずだ。」「もしアメリカの政治家が自らの政策を変更するべき時だという結論に達するのであれば、彼らは公にそういう正しい決定を宣言し、それに伴い現実的な積極的政策を採用することが必要である。」「そうしたアプローチを採用することは、アメリカ政府のためになり、すべての世界諸国民の利益であり、イラン国民のためにもなる。」

(イランとの話しあいのレッド・ライン)
IHTでは、アナトール・リーヴェン及びトリタ・ペルシ(イラン系アメリカ人協議会会長)署名の「レッド・ラインを引く」という記事を掲載しています。その要旨は次の内容です。
「イランの指導者は、イランが兵器化以前の段階にとどまる限り、欧州及び多くのアメリカの軍人の多くはイラン攻撃を認めないことを知っている。…攻撃するとなると、アメリカと欧州間のみならず、アメリカの安全保障関係者内部で破滅的分裂が起こるからだ。」
「西側においてイランが認識できるレッド・ラインを設定するとすれば、二つの相互に関係することが必要だ。一つは、イラン側も公式に認めている国際的ルールに基づいていること、もう一つは、欧州側だけではなく、ロシア、中国及びインドの全面的支持が得られることだ。つまり、我々のレッド・ラインは、NPTに定められたことに厳格かつ検証可能な形で従うもので、イランが条約違反を犯して兵器化に動いた場合には国際社会の指導的なメンバーが取る詳細かつ具体的な厳しい制裁のリストを伴ったものでなければならない。」
「アメリカ国務省の人びとでさえ、イランの濃縮の権利及び現在の戦略が西側にとってもたらす帰結を私的には認め始めている。他方で、NPTは西側に何がレッド・ラインであるべきかについて規定している。それはすなわち、イランの兵器化以前の濃縮その他の核活動に対して検証可能な制限を科していることだ。これは、国連安全保障理事会のすべての国々が合意し、イラン自身も同意すると常に言っているレッド・ラインである。」
(浅井注)この記事は、アメリカ以下のイランに対するウラン濃縮の放棄の要求がNPTに照らして理不尽であることをアメリカ国務省においても認識し始めていることを示唆するものです。私たちは、アメリカが流す情報操作により、イランの「核兵器開発疑惑」に目が向きがちですが、イランはあくまでもNPT上の法的権利を主張しているのであり、その一線を守る限り、イランの主張の方に分があるという当たり前のことを、この記事は改めて確認させてくれるのです。

3. 原油価格

(NBC側が1バレルの原油の適正価格に関する大統領の見解を尋ねたのに対し)「この問題は、当然のこととして経済的環境の下で分析する必要がある。市場は本当に自由である必要があり、競争は適正な条件の下で行われる必要がある。」「今日、市場での諸条件は非現実的であり、価格も現実的ではない。それは、いくつかの国々が市場を表面的な成長の方向へ引っ張っているからだ。現在の原油価格もまた、市場における自由競争の結果ではない。」

4. イラク問題

「長い目で見れば、イラク国民は自らの問題を克服するだろう。しかし、短期的には、情勢はアメリカ政府の行動如何だろう。」「もしアメリカの政治家が論理的で人道的なアプローチを採用すれば、イラク情勢は短時日で改善するだろう。しかし、もしアメリカ人が彼らの意思を押しつけ続けるのであれば、歴史的経験に鑑みれば、イラク国民は、圧政及び不正に屈するよりは抵抗を選ぶだろう。」「そういう状況の下では、イラク国民はさらなる損失を受けるだろうが、最終的には勝利を勝ち取り、イラク人を尊重しなかった連中にも損失を受けさせるだろう。」

(イラクの対米姿勢の強硬化) IHTに「イラク、ブッシュそして「時間的地平」」を掲載したセリグ・ハリソン(IHTによれば、ハリソンは国際政策センターのイラン・プログラムの主任であり、2007年6月、2008年2月及び6月にテヘランを訪問しているとのこと)は、その豊かなイラン側との接触を踏まえて次の諸点を指摘しています。まず、ホワイトハウスは7月18日、イラク駐留米軍の撤退時期に関する努力目標を設定することでイラク政府と合意したと発表したのですが、ハリソンは、ブッシュがこの時間的地平(=撤退時期)を受け入れた背後にはイラン外交があったことを指摘しています。彼によれば、もともとイラクのマリキ首相は、3月17日に撤退時期が含まれていない米・イラク協定に署名したのですが、そのことがリークされて、5月にイラン側の知り、激怒することになり、マリキは6月7日~9日にイランに召喚され、対米強硬姿勢に転じ、アメリカも譲歩を余儀なくされたということです。
ハリソンは、イランの筆頭外務副大臣が、米軍の確固とした撤退日程表の重要性を繰り返し強調したこと、その理由として、イラクが米空軍基地として「イラン以下の隣国の安全保障を害するプラットホーム」になることをイラクが「許さない」ことが必要という認識を表明したことを紹介しています。イラクが独自の空軍を擁することになれば、そのこともイランにとって危険ではないかという疑問が起こるのですが、ハリソンによれば、イラクにシーア派の政府ができた以上、その心配はないというのがイラン側の認識であるということです。最後にハリソンは、「イラクのいかなる政府も、1000マイルの国境線を共有し、1000年前にさかのぼる緊密な歴史的、経済的及びシーア派の宗教的結びつきがある強大な隣国(イラン)の安全保障上の正統な関心を無視すれば生き残りはできないだろう」という言葉で締めくくっています。

5. 核兵器開発問題

(イランは核兵器を手に入れようとしているのではないかとの質問に対し)「我々は、核兵器を手に入れようとはしていない。我々はそうすることに何ら意味を認めない。なぜならば、そのことは政治的関係を規律することに直接効果がないからだ。」「ジオニスト政権は、数百の核兵器を持っているが、レバノンでの戦争で勝利することに役立っているだろうか。核兵器は、旧ソ連が崩壊するプロセスを食い止めるのに役立ったろうか。アメリカの核兵器は、イラクとアフガニスタンでの戦争に勝利することに役立ったか。」「核兵器は、20世紀の産物だが、我々は新しい世紀に生きている。確かにいくつかの国々による核エネルギーに関する見にくい動きにより、核エネルギーを核兵器そのものとして人類社会に導入したことはある。」「しかし原子力エネルギーは非常にクリーンな資源であり、世界のすべての諸国民はその利益を享受するべきだ。」「核兵器は悪いものであり、いかなる国家も保有するべきでない。その点で我々と一致するものは、自らの核兵器の絶滅を始めるべきである。」

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