駐日イラン大使の日本国民へのメッセージ

2008.07.26

*7月14日にイラン大使館のアクラミ参事官(5月21日にアラグチ大使とともに広島平和研究所を来訪)からメールが入り、イスラエルがイランの核施設攻撃を想定した軍事演習を行うという挑発的行動を行ったこと及び洞爺湖サミットという国際的イベントを踏まえたアラグチ大使の日本政府及び日本国民に当てた文章(日本語)を送ってきました。参事官は、日本国民にも宛てたこの文章を私のこのサイトでも紹介することを歓迎すると付言していました。私は、その日本語について若干修正した方が良いと考え、その旨を提案するメールを返していたところ、25日に同参事官から異議ない旨の返信が入りましたので、以下にアラグチ大使の日本国民に宛てた文章をそのまま紹介します(7月26日記)。

神の御名において

この数週間における危機的な状況に鑑みて、イランの立場を貴国の政府と国民に伝えたいと思う。

6月19日、イスラエル政府が、イラン・イスラム共和国の核施設を標的とした軍事演習を行ったと発表された。間違いなく、これは深刻な挑発的行為(serious provocation)であり、戦争行為(act of war)とさえ見なすことができる。原子力施設への攻撃は、人類と環境に対する危険な行為であることも看過してはならない。従って国際平和に対するこの威嚇的行為は、ただちにまた強く国際社会の裁きを受けることを必要としている。国際平和と安全保障の最優先を主張しているG8が、このような明白な脅威を見過ごすとはいかなることか?国連安保理が、何の逸脱や違反も見受けられないイランの平和目的の原子力開発を、国連憲章第7条のもと国際平和と安全保障に対する脅威であると見なしておきながら、平和利用を目的とする原子力施設への攻撃というこの明白な脅威を、プレスリリースのような簡素な形でさえ発表していないとは、いかなることか?

この明らかな軍事的威嚇に応える形で、イラン・イスラム共和国は完全に合法的な防衛措置として、また牽制政策の一環として、今後ブッシュ政権またはイスラエル政府によるあらゆる予測不可能な行為の可能性を最小限にするため、中長距離ミサイルを用い対抗的軍事演習に踏み切った次第である。国連安保理は過去において、またサダム・フセインのイラン侵攻時に、侵攻に対し無力であったのみならず、何週間もの間、停戦要求をも提起することができなかったことは記憶にあると思う。この安保理は、イランの平和目的の原子力開発においても横道に逸れ、全く不公平に、一つの偉大な国民に対し、その科学的・技術的業績ゆえに、制裁を課したのである。従って、我々は自国防衛のためには、安保理やその他いかなる国や機関にも頼ることは決してない。また侵略に対しては、国力と民力の総力をあげて対抗する。

以上のような実情であるが、ここで再度強調させて頂きたい点として、イラン・イスラム共和国の軍事力、なかんずく我々のミサイル計画は、単に防衛力にすぎず、イラン・イスラム共和国の防衛軍事ドクトリンには、いかなる侵攻的また冒険的目的も規定されていない。

イラン・イスラム共和国は、軍事攻撃に対しては自衛する用意があると同時に、協力と協議のためのあらゆる提案を歓迎する。実際のところ我が国はこの点、先を行っており、本年5月には包括案を提示し、世界の平和と安定に参画する用意があり、集団的合意や責任の枠内において、自らの建設的役割を果す意思があることの表明をしている。我々は二国間関係上のすべての懸案事項(核不拡散、軍縮、テロ、麻薬、また地域上の問題、特にパレスチナ問題など)に関し、建設的な協議を開始し、自国の国力と影響力をそれらの問題の解決に資する方向で役立てていく用意がある。ジャリリ氏とソラナ氏は7月19日に会見する予定である。この会見を契機に、双方の包括案の共通項に基づく建設的な協議が開始されることを望む。またこの点イラン政府にその用意があることを、明確に宣言しておく。

最後に、G8サミットにおいて議長国として成功を収められたことに対し、日本の政府と国民の皆様にお喜び申し上げる。もっとも、G 8の経済大国が世界の主要な問題や危機の解決策を見いだすことができなかった点は見過ごすことはできない。食糧・エネルギー危機、地球温暖化問題、温室効果ガス問題、アフリカにおける貧困と開発の問題など、これらはすべて人類の未来に対する深刻な脅威であり、残念なことに世界の諸大国は、—時には自らこれらの問題や危機を引き起こす原因となっているが—、自らの責任を負い、また解決に向けて貢献する用意がない。

これはさておき、人類が直面している、また他のすべての問題の根源であると思われる二つの大きな危機は、公正・正義の欠如という危機、そして精神性の欠如という危機である。しかしこれらはG8には理解されていない。公正・正義という要素なしには、中東問題、アフリカ問題、政治、経済、環境、人権の領域、その他ほぼいかなる問題も最終的また継続的解決策に辿り着くことはないと言ってよいだろう。また人々が生活を営む上で、倫理や精神性を実現することなしに、平和と幸福を望むことは、無意味な期待であると言ってよいだろう。

世界に平和と公正・正義と精神性が確立され、地上すべての人々が幸福と繁栄を享受する日の到来を願いつつ。

イラン・イスラム共和国大使
セイエッド・アッバス・アラグチ

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