アメリカとイランの関係の動き

2008.07.

7月16日にホワイトハウスは、国務省のNo.3であるバーンズ次官が19日にスイスのジュネーブで開催されるイランと「5+1」の会合に出席することを発表しました。またブッシュ政権がテヘランに利益代表部を設置することを検討中であることも報じられました(17日付イギリス・ガーディアン紙)。
これらの動きは、7月19-20日付インタナショナル・ヘラルド・トリビュン紙(IHT)が、イスラエルのベン・グリオン大学教授ベニー・モリス署名の「戦争回避のための爆弾使用」(Using Bombs to stave off war)を掲載し、その冒頭で「イスラエルは、ほとんど確実に4~7カ月以内にイランの核施設を攻撃するだろう。ワシントンそしてテヘランの指導者さえ、その攻撃が、イランの核計画の完全な破壊とまではいかなくても、少なくともその生産スケジュールの大幅な遅れを引き起こすに十分な程度に成功することを希望するはずだ。なぜならば、攻撃が失敗すれば、引き続いて起こるイスラエルの先制核攻撃またはイランが核兵器を獲得した後の核の応酬により、中東はほとんど間違いなく核戦争に直面することになるからだ」という極めて不吉な(そしてまったく厚かましく、私たちの気持ちをいらだたせる)観測を行っていることを背景にしてみるとき、ますます重要性を増しています。

19日の会合に関しては、20日付朝日新聞も国際面で大きく報道していますが、注目されるのは、イランの国営通信IRNAがイギリスの元イラン駐在のドールトン大使の発言を詳しく報道している点です。それは、アメリカの動きに関するイランの見方を反映しているものとも受け取れるからです。

それによれば、同大使は、アメリカが高官をジュネーブの会合に派遣し、また利益代表部をテヘランに置こうとしている報道があることを歓迎し、あくまでも多国間の協議で進展があればという前提の上ですが、「イラン及びアメリカの間の実質的協議」にもつながるだろうと述べたとしています。
利益代表部の問題については、同大使は次のように述べたと紹介されています。
「アメリカの利益代表部開設の背景に大きな政治的目的があるとは考えない。そういう動きは、双方の隔たりを狭めようとする小さなステップとして額面通りに受け止めるべきだ。」
「私自身の経験から政治的問題が如何に難しいことかを知っているし、イギリスについての場合以上にアメリカの場合はもっと難しいだろう。」(浅井注:このくだりは、ガーディアン紙を参考にしますと、イギリスが1997年の総選挙で労働党が勝利した後、イランに大使館を再開したことを指していると思います。)
アメリカ側のこのような動きに関するタイミングについて問われた大使は、イランとの間で異なるアプローチを試みようとしているからだろうと指摘した上で、次のように述べたと紹介しています。
「アメリカ側は、非常に慎重に物事を探求しようとしており、イランがそれに応じる用意があるかどうかを見極めようとしている。」
「もしイラン政府がアメリカの目指す方向に動く用意がないのであれば、アメリカがその方向に動くことを期待するわけにはいかない。」
「我々みんなが偉大な両国を分け隔てている巨大な懸隔が狭まることを希望している。そして、このイニシアティヴが長期的に見た時に最初のステップとなっていたとなることを期待したい。」
また、イランと「5+1」との会合についても、IRNAは、同大使がイギリス政府の立場に与して、イラン政府がウラン濃縮中止(suspend)要求を拒否し続けるのであれば、「結果を生む望みは減少する」と紹介した上で、見方によっては意味深長だと思うのですが、更に次の発言を紹介しています。
「イランに対する具体的な協力に関してなされた諸提案は、イラン人民の利益となる民用原子力の主権的開発というイランにおける民用原子力産業の発展との関連で巨大な価値を持つものだ。」
「もしイランがその見解を維持し、提供されている長期協力協定に背を向け続けるのであれば、最も不幸なことであろう。」
この部分は、イランがウラン濃縮に固執することがもたらす結果に対する警告をIRNAがそのまま紹介したものであり、IRNAが独自の判断で掲指したのかどうか、今後のイランの動きを注目したいところです。

話が前後しますが、ガーディアン紙は、アメリカはキューバとの間でも、1961年に関係を断絶した後、1977年に利益代表部をおいたことを紹介しています。アメリカとキューバの関係がその後進展したわけでもないことを踏まえれば、アメリカがイランに利益代表部を置くとしても、劇的な展開に直結するものではないということはドールトン大使の発言通りでしょう。イスラエルがアメリカの思惑通りに動く保障もない以上、まだまだ楽観は許されません。しかし、IRNAが以上のような報道をあえて行ったこと自体についてはやはり注目する必要があると思いますし、今後のイランの出方を見守りたいと思います。

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