イランイスラム共和国の建設的交渉のためのパッケージ提案

2008.06.25

*前にこのコラムでイランのアラグチ駐日大使から直接聞いた話の内容を紹介しました。その中で大使は、イランが5月にアメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランス及びドイツ(いわゆる「5+1」)に対して包括的なパッケージ提案を行ったことを紹介しました。その際私は、大使に対し、イランの立場を広く理解されるためには、そのパッケージ提案を公表することを考えるべきではないのか、と発言し、大使も「考慮に値する考えだ」と述べていました。数日前に大使から便りがあり、その中にパッケージ提案が同封されていました。
私は、このパッケージ提案は、客観的に見てもバランスが取れた内容(注:この点については、NPT及びIAEA上のイランの法的権利を無視し、イランが核兵器開発に向かっていると決めつけ、何が何でもイランを自分たちの意向に従わせようとする「5+1」の一方的なアプローチと比較する必要があります。これは決して私の思い込みではなく、ハンス・ブリックスが委員長を務めた大量破壊兵器委員会『大量破壊兵器 廃絶のための60の提言』55-56頁(岩波書店の邦訳による)でも、「NPT加盟国は、同条約の第2条と第4条を完全に遵守しつつ、核燃料サイクル活動のあらゆる段階に参加する権利を有すると理解するのが、法的にも正しくかつ賢明である」と述べていることによっても確認されるところです)であり、また、地域大国としての自負と責任感に基づいたイランの対外政策の基調・性格を理解する上でも貴重な資料であると思いました。特に、「今や他国に対する内政不干渉原則は古くさい」(第二アーミテージ報告)という態度で国際関係を支配しようとするアメリカなどいわゆる先進大国に対し、イランが主権尊重を繰り返し主張していることは、民主的な国際関係のあり方を考える上で重要なものであると私は思います。
そこで私は、この提案を日本語に翻訳し、私のウェブサイトで紹介したいと問い合わせたところ、大使から「喜んで同意する」との返信メールが送られてきました。そこで、以下のように全文を訳し、紹介します。私は常々、イランに関する日本国内の報道は、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)や中国に関するものと同じく、あまりにも偏っているのではないかという印象を持っています。このコラムを訪れる方たちが、イランからの「肉声」に接することにより、同国を公正に観察する手がかりを得る一助になれば、と期待しています。私の訳は決してうまくないので、参考までに大使が送ってきた英語の原文を末尾に載せておきます(6月25日記)。

イランイスラム共和国は、正義、法の遵守、諸国家の諸権利の承認、諸国家の主権の尊重、地域的及び国際的な平和の強化、独占的な行動及び脅威の抑制という諸原則が重視されるべきことを強調し、かつ、諸国家の諸権利に対する不正義及び無法な行為を拒絶して、安全保障問題、地域的及び国際的な発展、原子力、テロリズム、民主など、協力のための実質的な可能性を提供する広範な課題があると確信する。
以上に加え、麻薬管理、環境保全及び経済・技術・商業(特にエネルギー)協力などを含め、建設的な協力の豊かな可能性及び経路を提供する他の分野が存在する。
そうであるが故に、国際的に及びこの地域をまたがって展開してきた諸発展に鑑み、相互作用のための新たなかつ先進的な計画が求められている。この新たな交渉ラウンドにおけるイランイスラム共和国の主たる目的は、集団的善意に基礎をおき、関係国間の長期的協力を確立することを助長し、持続的で強固な地域的及び国際的な安全保障並びに公正な平和に資する包括的な合意を達成することである。我々はまた、交渉の後の段階においては、能力を有し、関心を持つ他の国々が交渉に参加し、このパッケージの範囲の中で協力の可能性を探究する余地があると確信している(浅井注:この部分は、パッケージ提案が「5+1」に宛てられたものであり、イランとしては日本その他の国々の参加の可能性を残しておく趣旨であると思われます)。この新たな交渉ラウンドの主たる成果は、経済、政治、地域、国際、原子力及びエネルギーにかかわる安全保障問題について協力する「集団的義務」に関する協定となるであろう。
したがって、我々は、以下の問題に関する広範囲でかつ包括的な交渉を開始したい。

A 政治及び安全保障上の問題
1 人類にとって最も重要な関心の一つは、人間の諸権利及び尊厳を保全する必要並びに他国の文化に対する尊重である。このことを適正に実現するための対話が必要である。
2 この地域及び世界において公正な平和及び民主の向上を強固にするための協議。この協議は、以下の原則に基づいて行われる。
 -諸国家の諸権利及び国益の尊重
 -民主的手段に基づく諸国家の国家主権の支持
 -テロリズム及びこれを助長する要素の防止
 -暴力及び軍国主義の防止
  イランイスラム共和国は、以上の基礎の上に、不安定、軍国主義、暴力及びテロリズムに苦しむ諸地域において、公正な平和を強化し、安定及び民主促進を強固にすることに関する協力のための協議に入りたい。この協力は、中東、バルカン、アフリカ及びラテン・アメリカをはじめ、世界の様々な地域において行うことができる。60年にわたるパレスチナ問題を解決するため、パレスチナ人民が持続的、民主的及び公正な包括的な計画を見いだすことを支援する協力を行うことは、この種の協力の象徴となりうる。
3 共通の安全保障上の脅威との闘い並びに安全保障上の脅威を助長し及び創造する要素と闘うことに関する集団的協力。その要素とは、次のものを含む。
 -テロリズム
 -麻薬
 -不法移民
 -組織的犯罪

B 経済問題
1 エネルギー供給並びにその生産、供給、輸送及び消費といった諸分野における安全に関する協力
2 貿易及び投資に関する協力
3 開発途上国における貧困との闘いに対する支援及び社会的階級間の分裂の緩和のための共通の努力
4 激しい価格変動の衝撃を緩和すること並びに世界各国を利するように世界の通貨及び金融の取り決めを再編すること

C 原子力問題
イランは、原子力問題に関し、包括的にかつNPT及びIAEAの積極的及び影響力ある一員として、以下の問題を考慮する用意がある。
1 様々な国々による原子力活動の非転用に関するさらなる保証を得ること
2 世界の様々な地域(イランを含む。)において濃縮及び核燃料生産の合弁企業を設立すること
3 平和的核技術へのアクセス及び利用に関する協力並びにすべての国家による利用を容易にすること
4 核軍縮及びフォロー・アップ委員会の設置
5 様々な国々の原子力活動に対するIAEAの査察活動の改善
6 原子力の安全及び物理的な保護に関する協同的な協力
7 各国が核物質及び原子力施設の輸出を管理することを奨励する努力

D イランイスラム共和国は、このパッケージの範囲内で、明確な結果を生み出すための真剣なかつ対象を絞り込んだ交渉を開始する用意がある。その交渉は、一定期間(最大6ヶ月)後に、その継続について決定するために評価することができる。

(参考)
イランのパッケージ提案(英文)

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