マッケイン共和党大統領候補の核政策演説

2008.05.30

*アメリカ共和党の大統領候補が確実視されているマッケイン上院議員は、5月27日に核にかかわる安全保障に関して演説を行いました。全文を通読して得られる印象は、ブッシュ政権の核兵器使用の意図も公然と打ち出していた危険を極める核政策と比較すれば、核兵器使用は最後の手段であるとし、核兵器の世界的拡散はアメリカが取り組むべき最大の問題であるという認識を表明し、ロシアとの間で大幅な核軍縮を行う意図を表明し、レーガンの言葉を引用しながら核兵器廃絶は自分の夢でもあると述べ、2010年のNPT再検討会議にも言及するなど多国間協力に前向きであることなど、注目すべき内容がちりばめられているとは言えると思います。しかし、核実験の再開への意欲表明、新型核兵器開発の可能性への言及、NPT再検討会議をアメリカの都合のいい方向に持っていこうとする扱い方、北朝鮮、イランに対する決めつけ的強硬姿勢や、核戦略・政策を全面的かつ包括的に再検討するといいつつも、「安全で信頼できる核抑止力、強固なミサイル防衛及び圧倒的な通常兵力を展開し続けなければならない」と言い切り、相変わらず核抑止の考えに固執しているなど、アメリカを中心に物事を考える独善的姿勢は健在です。以下においては、つたない訳文ですが、この演説の要注目箇所を紹介しておきます(5月30日記)。

革新的でエネルギーあふれるアメリカのリーダーシップは、冷戦時代におけると同様、世界の将来にとっても不可欠だ。…21世紀において有力なリーダーであるためには、強いだけでは十分ではない。我々は、他のものにとってモデルでなければならない。ということは、我々自身の利益を追求するだけでなく、地球全体の人々と利益を共有していることを認識するということだ。…
今日、我々は楽観主義、エネルギー及び革新の精神を、ここ数十年成長してきておりかついまや山場に来ている危機である核兵器のグローバルな蔓延に対して振り向ける必要がある。45年前、ケネディ大統領は、もし核兵器が当時所有していたいくつかの国以上に多くの国々に広がってしまったら、世界はどうなってしまうか想像するようにアメリカの人々に問いかけた。…
ケネディの警告は、今日においてかつてないほど重要である。北朝鮮は核兵器計画を推進して、今日では、独裁者・金正日が核兵器を実験し、おそらく間違いなくさらに数発の核弾頭を所有するまでになっている。そして北朝鮮は、核及びミサイルのノウハウを、シリアを含む他の国々と共有してきた。北朝鮮の核計画を完全に、検証可能で、不可逆的に終わらせることは死活的国益である。同様に、イランは一直線に同じゴールを目指している。アフマドネジャド大統領は、イスラエルを地上から消し去ると脅迫し、地域のすべての国に対して脅威となっている。そのことを我々は無視できないし、過小評価もできない。
他の国々の中にも、自衛に限ってではあるにせよ、核兵器を持つ必要があるのではないかと考え始めているものがある。…しかし、我々は、より希望のある可能性、すなわち今日より核兵器ははるかに少なく、拡散、不安定及び核テロリズムの危険がはるかに少ない世界について考えるべきである。そういう世界こそ、我々が作る責任がある。
この問題について簡単な答えはない。過去20年間を振り返るとき、共和党であるか民主党であるかを問わず、核拡散をコントロールすることについて成し遂げたことに満足できるものはいないと思う。…過去20年にわたって敵対的な政府の核計画を終わらせるために話しかけたこともないかのように、大統領がすべきことは平壌及びテヘランの指導者と話し合うことだと多くの人々が考えている。軍事行動には恐ろしいリスクをはらんではいないかのように、軍事行動のみが我々の目標を実現できるとするものもいる。武力行使は必要かもしれないが、それはあくまでも最後の手段であり、最初にとるべきものではない。
私は、未来に向けて共通のビジョンを描くためにとるべきいくつかのステップを示したい。そのビジョンとは、アメリカがその偉大にして不朽の指導力に裏打ちされた革新的な思考、心の広い国際主義及び断固たる外交の伝統に戻ることによるものである。それは、アメリカが単独で行動するビジョンではなく、この死活的で共通の目的のためにすべての国々が一緒になる共同体を作り、参加するというビジョンである。

25年前、レーガン大統領は、「我々の夢は、核兵器が地上から追放される日を迎えることである」と宣言した。それは私の夢でもある。それは、遠くて難しいゴールだ。我々は、自国の安全及び我々に頼る同盟国の安全に焦点を当てながらその目的に向かって慎重かつ現実的に歩みを進めなければならない。しかし、冷戦は約20年前に終わり、世界の武器庫にある核兵器の数を劇的に減らすためにさらなる措置を執るべき時が来ている。人類に対する核の脅威を減らすために動いたアメリカの大統領の伝統にしたがい、世界がアメリカに期待するリーダーシップをアメリカがとる時である。
我々の最高優先順位は、核兵器が使用される危険を減らすことでなければならない。核兵器は、我々や同盟国に対する大量破壊兵器による攻撃を抑止するために今もなお重要ではあるが、人類にとってもっとも嫌悪すべき無差別的武器である。…我々は、核兵器が二度と使用されることがないよう、なし得るすべてのことを探求しなければならない。
自国の安全保障を我々の核の傘に依存している同盟国と緊密に協力しつつ、私は、我が核戦略・政策のすべての局面について包括的な再検討を行うよう統合参謀本部に求めるであろう。私は、すべての責任ある提案に向き合う用意がある。同時に、アメリカ及び同盟国を防衛できるだけの、安全で信頼できる核抑止力、強固なミサイル防衛及び圧倒的な通常兵力を展開し続けなければならない。しかし私は、我が国の安全保障上の必要性及び世界的コミットメントと両立する限りの最小限の数に核兵器の保有量を削減したい。我々は、今日数千の弾頭を展開しているが、可及的速やかにはるかに少ない戦力にすることを希望している。

確かに深刻な違いはあるが、冷戦の終了により、ロシアとアメリカはもはや根っからの敵ではない。両国が圧倒的多数の核兵器を所有しているのであるから、その数を減らす特別な責任がある。我々が必要と判断する最小限のレベルまで核戦力を削減するべきだろうし、私が求める核の削減を反映した新しい軍備管理協定をロシアとの間に締結する用意がなければならない。さらに、信頼と透明性を高めるべく、START合意の下で現在有効な検証措置に基づいて、ロシアとの間で拘束力ある検証措置について合意できるようにすべきだ。同盟国と緊密に協議しつつ、私は、欧州における戦術核兵器の展開について、米ロが削減し、願わくば全廃する方途も探りたい。早期警戒のデータの共有やミサイル打ち上げに関する事前の通報などのイニシアティヴを通じるなどして、ロシアとの間でミサイル防衛計画に関する信頼も作り上げるように動くべきだとも考える。
大量破壊兵器に対する保護を強化するために、ロシアと協力できる分野は他にもある。準中距離核戦力条約を地球化するために協力しようというロシアの最近の提案を、私は真剣に考慮する用意がある。私はまた、核・化学・生物兵器がテロリストや非友好的な政府の手に落ちる危険を減らす両国共通の努力を強めるだろう。

私は、戦略問題及び核問題について中国と対話を開始するべきであると考える。我々は、中国との間に重要な共通の利害を有しており、核戦力の構成とドクトリンに関し、最大限可能な透明性及び協力を実現するための方途について議論を開始すべきである。核戦力の削減及び追加的な分裂性物質の生産に関するモラトリアムに向けて動くことを含め、中国がNPTの下で承認されたプラクティスに関して他の4核兵器国と適合性を確保することを奨励するべく、我々は中国と協力するべきだ。

我々はまた核実験をも取り上げなければならないと思う。大統領としての私は、実験に関する現行のモラトリアムを継続することを約束するが、我が核抑止力の安全性及び能力を損なわないようにするため、検証可能な方法で限られた実験をする方向に向かうことができる方途を見いだすべく、同盟国及び上院と対話を開始するであろう。この中には、CTBTが発効するのを妨げている欠陥を克服するために何ができるかを探るために、CTBTを見直すことも含まれる。私は、1999年にこの条約に反対したが、その際に、将来の動きに対しては偏見を持たないと発言した。

新型核兵器の開発に関しては、我が国の核兵器保有をさらに削減することを可能にし、グローバルな核の安全という目標に資することになる、抑止力にとって絶対に不可欠なもののみを支持するだろう。戦略的又は政治的に意味をなさないいわゆる地中貫通型核兵器に関する計画はすべて取りやめる。

不拡散の目標は我々の力だけでは実現できない。拡散と戦う既存の国際条約及び制度を強化せねばならず、必要に応じて新しい条約・制度を発展すべきだ。もっとも危険な核物質の生産を終了するために、他の国々とともに分裂性物質カットオフ条約を交渉するべく行動するべきだ。国際社会は、拡散に対する安全保障構想(PSI)の下で核兵器及び核物質の拡散を阻止する能力を改善する必要がある。…

2010年には、NPTを再検討するために国際会議が開かれる。私が大統領であれば、不拡散体制のあらゆる分野を強化し、高めるためにその機会をとらえるだろう。NPTの義務に違反しまたはNPTから脱退する国に対しては、平和的原子力協力の利益として受け取っていたものを返還するか解体することを要求することにより、いわゆる「平和のための原子」の取引の実施を強化する必要がある。IAEAの資金量を増やし、IAEAが受け取る情報支援を高める必要がある。ある国家がNPT上の約束をだましているかどうかに関して、挙証責任を逆転する必要もある。つまり、IAEAは、ある国家が遵守しているかどうかを証明する猫とネズミ遊びの役回りを演ずるべきではない。違反を疑われる国家が遵守していることを証明するべきだ。取り扱いに慎重を要する核技術の国際的移転についてはIAEAなどの国際機関に事前に開示しなければならないという要件を国連安保理により確立するべきであり、開示されない移転については不法であり、差し止めの対象とするべきことを要求する。条約上の義務を実施するため、IAEA加盟国は、IAREAから脱退しようとする国に対して進んで制裁を科すべきである。

我々は、核拡散に対する世界の戦いにおける協力者を求める必要がある。世界最大の民主国家との関係を強化する方法として、また、拡散に対する戦いにインドをさらにかかわらせるために、米印民間核協定を支持する。…

不法な核計画を捕獲し、取り消すための国内及び多国間の装置を改善すると同時に、私は、民用核エネルギーが地球温暖化に対する闘いにとって大切であると確信している。民用原子力は、アメリカその他の責任ある国々がエネルギー的独立を達成し、及び外国の石油・ガスへの依存を減らすための方途を提供する。しかし、民用原子力を利用するためには、民用にとどまることを確保するためにしっかり仕事しなければならない。国によっては、核兵器計画を隠すために民用核計画という口実を使うものもいる。我々は、こういうごまかしを暴き出し、そうする国々が責任を負うようにしなければならない。我々は、表面上民用と称してウランの濃縮や再処理を行う国々が兵器計画を進めるのをぼんやりと見過ごすようなことを続けることはできない。
このようなごまかしを防止する上で最も有効な方法は、濃縮及び再処理がこれ以上広がることを制限することだ。濃縮及び再処理を思いとどまらせる上で、そうしない国々に対して核燃料の提供を国際的に保障し、これらの国々が参加できる多国的核濃縮センターを設立することを支持したい。…これは、ロシアその他の国々がイランに対して行っている提案である。不幸なことに、イラン政府は今のところこの提案を拒否している。外部からの強力な圧力及び奨励があれば、イランは、遅くなりすぎる前に意思を変えるよう説得される可能性がある。
使用済み核燃料に関しては、これらの物質を収集し安全に保管する国際的保管場所を設立したい。…

以上は、我々がとるべきステップの長いリストである。長いのは、この危機に対する簡単な答えはないからだ。長いのは、この挑戦に単独で対応できる国はないからであり、しかもその結果に対しては誰も無関心ではいられないからだ。アメリカは、核兵器の拡散を単独の行動では阻止できない。我々としては、多国間の協調したかつ一貫した努力を指導しなければならない。アメリカは強力であるとは言え、我が国及び同盟国を核攻撃の脅威から防衛する能力は、効果的な国際協力を推し進める我々の能力にかかっている。…核拡散の脅威ほどアメリカ及び世界に対する大きな問題はほかにない。…

(参考)
マッケインの演説です

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