岩国市民の運動に期待すること
  -衆議院山口2区補欠選挙結果を踏まえて-

2008.04.30

*4月29日に岩国市の集会で、「岩国市民の運動に期待すること」と題してお話しする機会がありました。その主な内容を以下に紹介します(4月30日記)。

1.なぜ市長選挙で井原候補は負けたのでしょうか:1782票差は逆転できていたはずです

まず、私が指摘したいことは、以下の要因が働いていたら、井原候補の勝利は堅かったということです。
 第一、「国際平和都市」を標榜する広島市及び広島市民が岩国問題に対して強い意志・連帯を示していたならば、はるかに力強い投票行動につながっただろうと思うのです。はっきり言って、今の広島には「核廃絶」はかろうじて生き残っているけれども、日米軍事同盟反対、米軍基地反対、9条を守れ、という声は、ごく一部の限られた人以外はほとんど聞こえてこない状況があります。「国際平和都市」の看板が泣く厳しい状況になってしまっています。JRでわずか30分の岩国基地の問題にさえ、広島は背を向けてしまっています。もし広島が本当に平和の問題を真剣に考え、行動するのであれば、岩国問題に無関心ではあり得ず、市長選挙を傍観視することはあり得なかったでしょう。そうすれば、選挙を巡る局面が大きく変わっていたことは確実です。(帰りに送ってくださった県会議員の方が、「少し岩国基地を回って見ましょうか」と言ってくださったので、お言葉に甘えて見学したのですが、その方の発言で何よりも印象深かったことの一つは、岩国(米軍基地)と呉(海上自衛隊基地)とは実質的に一体化しており、広島は基地に取り囲まれているのだという趣旨の発言でした。本当に岩国基地側から見ると、対岸の呉は目と鼻の先にありますし、左手(西側)の広島は、完全に海への出口を封鎖されて、基地に取り囲まれていることが手に取るように分かります。それなのにこの広島を覆う恐ろしいほどの無関心はいったい何なんだと改めて思いました。)
 第二、市長選挙では、対立候補(現市長)側がなりふり構わぬデマと中傷の選挙を展開し、残念ながらそれなりの効果を上げてしまったという要素も無視できません。井原候補はフェア・プレーに徹したのですが、相手側も民主的ルールを尊重した選挙戦をやっていたのであれば、1800票弱の差は容易に逆転できたと思います。
 第三、最近頻発する米軍兵士などによる犯罪がもっと目の前に突きつけられる状況(基地を抱え込むことの危険性が否応なしに自覚される状況)があったのであれば、これまた有権者の投票行動に影響を与えたに違いないということです。

2.勝負はまだまだこれから

福田市長は、45299票(得票率48.8%)の井原票の重みを無視することはできませんし、また、無視できないだけのプレッシャーをかけ続けることができれば、今後の局面展開は十分可能だということです。2月28日の施政方針では、福田市長は明らかにそういう民意に配慮せざるを得ない発言を行っていたのです。3月12日に上京した彼は、自らの行動でその発言を裏切りましたが、そういう彼の行動に対しては、今回の衆議院補欠選挙に関する共同通信が4月19、20日に行った世論調査が岩国市民の厳しい視線を伝えています(ちなみに、この共同配信記事をもっとも詳しく報道したのは、私が読んでいる地方紙の中では、沖縄タイムスであり、地元の中国新聞はごく簡単な扱いしかしませんでした。ここでも、基地問題に対する広島の関心の低さをはしなくも垣間見ることができるでしょう)。つまり、米空母艦載機の岩国基地への移転について、全体では51.1%が「反対」で、「賛成」はわずか25.2%でした。自民党支持層では反対」33.7%を「賛成」44.4%が上回っていますが、与党である公明と支持層ですら、「反対」75.8%で「賛成」9.0%を圧倒しています。民主党支持層は68.8%が「反対」、無党派層も半数が「反対」でした。
 岩国基地に関しては、これからますますいろいろな問題が出てくることは必至ですから、こうした反対派の声を盛り上げていく条件に事欠かないことも、私が勝負はまだまだこれから、と判断する理由です。
 例えば、岩国基地に負担を押しつける米軍再編が進めば進むほど、「第二の厚木」という事態を、岩国市だけでなく、広島県西部を中心にする周辺地域にもたらすことは避けられません。そうした深刻な事態を前にして、いかに無関心を決め込んできた人たちも声を上げざるを得ない状況になるに違いありません。
 また例えば、愛宕山開発地についても、財政難を理由に米軍住宅に転用するという案も取りざたされる状況がありますし、米軍再編に伴う「交付金」による「実益」をはるかに上回る住民生活の犠牲が顕在化していくでしょう。要するに、次から次へと問題が起こってきますので、政府・与党が既成事実を押しつけようとしても、それに対する反対のエネルギーを持続し、高めていくための条件が豊富に存在するのです。

3.許されない衆議院補欠選挙のあり方

私は、4月27日に投票された衆議院山口2区の補欠選挙のあり方にもいろいろな問題を感じています。艦載機移転に伴い影響を受ける岩国市、周防大島、和木の両町の1市2町で有権者の半数を占める(4月28日付中国新聞)というのに、選挙戦で、自民党候補はもちろん、民主党候補も少なくとも前半戦の間は岩国基地問題を取り上げようとしなかったのです。もっとも4月24日付の沖縄タイムスによれば、「当初、平岡氏は「保守票を取り込むには、移転反対は薄めた方がいい」との分析で、移転問題への言及は控えめ。しかし27日の投票日まで1週間で方針転換。20日の個人演説会では「米軍再編推進法は天下の悪法」と力説し、集まった約350人から大きな拍手を浴びた。平岡陣営は「岩国市以外にも根強い移転不安票を取り込むには、反対と明言した方が得策」と判断。さらに自民党県議は「自主投票を決めた共産投票を取り込もうとしている」と警戒する。」と報道しています。しかし、この報道内容から明らかなとおり、民主党候補が基地問題を取り上げたのはもっぱら戦術的考慮に基づくものであり、また、民主党そのものが日米軍事同盟強化路線なのですから、期待を持つのは幻想を追うようなものであることは明らかです。
 また、私が読んでいる朝日新聞、中国新聞などの報道姿勢にも強い疑問を感じざるを得ませんでした。要するに、基地問題無視ということです。朝日新聞は4月19日と28日に社説でこの選挙を取り上げましたし、中国新聞も28日付で社説を発表しましたが、基地問題への言及は一切なしでした。
 何よりも残念に思ったのは、基地問題を争点として取り上げる立候補者が不在だったということです。28日付の中国新聞の出口調査結果によれば、共産党支持層の83%、社民党支持層に至っては100%が民主党候補に投票したといいます。29日付の朝日新聞が報じた出口調査では共産党支持層の9割以上が民主党候補に投票したと答えたとのこと。民主党候補11万6,348票、自民党候補9万4,404票と約2万票の大差がついたわけですが、28日付の中国新聞が指摘しているように、民主党候補は、「ガソリン税の暫定税率、後期高齢者医療制度(長寿医療制度)、年金記録不備問題の「3点セット」に加え、米空母艦載機の岩国移転の見直しにも触れ、民意をつかんだ」のは間違いないことだと思います。すでに紹介した共同通信の世論調査ともあわせますと、基地問題は間違いなく重要な争点だったわけです。ところが、その点を明確に争点化する立候補者がいなかったために、「二大政党の対決」だけが追い回され、朝日、中国両紙の社説が触れずじまいということになったのです。
 本論から離れますが、今回の補選に共産党が候補者を擁立しなかったことは、今後の国政選挙を考える際にいろいろな示唆を与えているのではないでしょうか。一つは、「二大政党対決の構図」となると、かなりの有権者が苦渋の選択を余儀なくされるということです。集会が終わったときにある女性が私に話しかけてきて、「私たちの投票が民主党候補を押し上げたんよ」と言っておられたのは印象的でした。しかし、その民主党からの当選者がどこまで忠実に基地問題で行動するかとなれば、何らの保証もないのです。確かに供託金没収ということは痛いでしょうが、共産党はもう少し本質的な問題を重視した選挙対策を考えるべきではないか、と私は考えます。そうでないと、ますます「二大政党政治」に埋没してしまう危険が増えるのではないでしょうか。

4.これからの運動を強めていく上で考えていただきたいこと

この点に関しては、本質にかかわるポイントを二つ、また、運動にかかわるポイントを二つ指摘させていただきたいと思います。
 本質にかかわる最初のポイントは、岩国問題の本質を正確に踏まえる視点を持つ必要性があるのではないか、ということです。岩国の住民の多くの関心が「騒音」など身近な問題に集中するのはやむを得ない面がありますが、そのままの次元にとどまることは、岩国問題の国民的課題としての本質(日米軍事同盟の変質・強化の重要な一環であるということ)を覆い隠してしまい、その結果、岩国問題がローカルな問題としてしか扱われず、国民的関心をいつまでたっても引きつけることができないという危険があるのではないでしょうか。もちろん、「騒音」問題に対する激しい怒りが運動の出発点となることは私としては理解できるのですが、厚木の問題が全国民的な問題となり得なかったという意味での負の国民的体験を踏まえるとき、やはり国民的課題としての本質をしっかり伝えていく姿勢が岩国の運動に求められていると思います。
もう一つの本質にかかわるポイントは、「札びら」で地方自治を締め上げるやり方は、憲法の根幹を突き崩すものであることについて、危機感を持って認識していただく必要があるということです。原子力発電に伴う放射性廃棄物の最終処分場を探している政府・与党は、ここでも「札びら」をちらつかせるやり方をとっています(高知県東洋町のケース)。それは、いわゆる「三位一体」改革で地方自治体の体力を弱らせておいた上で、その弱みにつけ込むという、実に卑劣な今の政治の本質を反映しているのです。そういう日本政治の本質を集中的に表しているのが岩国問題であるということについても、私たちは認識を深める必要があると思うし、そうすることによって岩国問題を他の地域の問題と関連づけて考える姿勢も生まれてくると思います。
運動のあり方にかかわるポイントの一つは、在日米軍の再編強化の本質を見据える必要性と多数派形成のために折り合いをつける必要性との兼ね合いということです。井原市政は米軍基地との共存を基本とする(しかし現状以上の負担には応じられないとするという点で、私や皆さんの基本的立場とは距離があると思うのですが、幅広い市民の支持がある井原氏による市政の回復を当面の目標に据えつつ、その中で住民の基地問題の本質に対する理解・認識を深めるように地道な努力を行うというアプローチをとることが運動論としては重要だと思います。
 運動論にかかわるもう一つのポイントは、基地問題を抱える他の地域との連携強化です。過去の歴史を振り返るまでもなく、日本の反基地闘争は、常にローカライズされ、分断されてきて、そのために国民的なエネルギーを結集することを妨げられてきました。私は、岩国の闘いを、沖縄や神奈川などの運動と意識的に結びつけていくという方向を大胆に追求していただきたいと願っています。

5.皆さんの運動の巨大な歴史的・人類史的意義

皆さんが自らの闘いに確信を高める上で、岩国の闘いが巨大な歴史的・人類史的意義を持っていることを認識することが大きな意義を持っているのではないでしょうか。
岩国市長選挙が全国的意味を持っていることは、選挙が全国の注目を集めた事実が雄弁に物語っています。また、皆さんが形勢を逆転することに成功すれば、日本の政治の流れ自体を変えるし、全国に励ましを与えるという巨大な意味を持っています(誠にやりがいのあることを皆さんはやっておられるのです)。さらに、岩国基地の米軍の再編強化を阻止することは、他の地域における闘いを励まし、在日米軍再編計画そのものを頓挫させ、ひいては日米軍事同盟の侵略性を強めようとする米日両政府の狙いに大きな打撃を与える意味を持ちます。そのことはとりもなおさず「力による」平和を基調とする権力政治から「力によらない」平和を基調とする脱権力政治へと、国際政治構造そのものを変えることにつながり、国際平和に対する大きな貢献となります。基地問題の本質は、人権問題であり、同時に平和問題であるということです。

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