北朝鮮の対シリア核協力に関するブッシュ政権の発表

2008.04.

4月26日付朝日新聞は、ホワイトハウス(国務省ではない!)が24日に「07年9月にイスラエルが空爆したシリア東部の施設が、兵器級プルトニウムの生産目的で北朝鮮の支援を得て秘密裏に建設中の原子炉だった」と発表したことを報道しました。この点について同日付の同紙社説は、「ぞっとする核拡散の闇」と題してこの問題についての見解を明らかにしました。社説では、「空爆から7カ月もたって公表に踏み切った米国の真の狙いは分からない」と一応は断りながらも、ポイントは、「シリアへの拡散疑惑を素通りするような(北朝鮮の核開発計画に関する)申告では、とても受け入れられない。それは米国だけでなく、日本も含めて国際社会として当然の立場である」と北朝鮮を強くとがめ立てをすることにあることは明らかです。

この朝日新聞の社説のバランス感覚を占う上で、4月26/27日付のインタナショナル・ヘラルド・トリビュン紙が転載した「北朝鮮とのゲームのやりとり-なぜブッシュ政権はシリアにおける北朝鮮の古い映画を見せるのか?-」と題するニューヨーク・タイムズ紙の社説は実に興味深いものでした。その最初の文章は、「一貫して秘密主義のブッシュ政権が、北朝鮮の対シリア核結びつきについて知っていることを突然公にすることを決定したのはかなり疑わしい」というものです。社説は更に、「これは、情報は国家の安全のために秘密にしておかなければならない、しかし、政治的理由でその情報を公表するというまでは、という政権のやり口の今ひとつの例である」と痛烈な皮肉混じりの批判をブッシュ政権に浴びせています。

社説はこの公表のタイミングにあくまでこだわって次のように指摘しています。「なぜ今なのだ?北朝鮮の核兵器計画を最終的に閉鎖させようとする国務省が交渉している取引に、共和党の強硬派が激怒していることは秘密ではない。彼らはそれ(国務省主導の対北朝鮮取引)を止めようと必死で、ブッシュ大統領を引き留めるか、挑発に乗りやすい北朝鮮側を挑発して交渉に背を向けるというような愚かなことをするように仕向けたがっているのだ」と。

NYT社説も、北朝鮮がシリアに核関連のノウハウと技術を売りたがっていることは極めて憂慮されることだとはしていますが、イスラエルが攻撃したことでその脅威は取り除かれた(浅井注:攻撃したことの違法性に言及しないところはアメリカ特有の自己中心主義が丸見えですが)とし、今後は取引しないという北朝鮮の約束については厳重に監視し、検証しなければならないとしつつ、「(北朝鮮との)合意をいま台無しにしてしまうということは、透明性がますますなくなるということであり、平壌の核に対する欲望を増大させるだけだ」と冷静な対応を呼びかけています。そして結論として次のように述べています。「6年間もの間、ブッシュ大統領とチェイニー副大統領は、北朝鮮と真剣に交渉することを拒否した。その結果は?北朝鮮は核実験を行い、1個ないし2個の爆弾を作るに足るプルトニウムの保有から8個以上(の保有)ということになった。我々はその映画を見てきた。世界はその続編(を観るだけの)余裕はない。」

NYT紙の社説と朝日新聞の社説を比べるとき、前者のバランス感覚が後者には決定的に欠けていることがお分かりになるのではないでしょうか。ブッシュ政権が本当に信用ならない政権であることは、これまでの7年余の実績が示してあまりあるものがあります。NYTには少なくともそのことを学習して、過ちの歴史を繰り返してはならないという自覚が窺われます。朝日新聞には全くその学習と自覚がないのです。また、北朝鮮の非核化を実現するという大目的のために取るべきアプローチは何か、という点でも、NYTは6者協議及び米朝交渉を進める道以外にないということを明確に認識していることが理解されます。それに対して朝日新聞は、「国際社会」も自分と同じ立場だといわんばかりに、北朝鮮との交渉の敷居を高くすることに感情的に踏み込んでいるのです。

私も何故に今公表なのか、という点に強い疑問を感じています。2002年に北朝鮮のウラン濃縮疑惑をぶつけたブッシュ政権(それに反発した北朝鮮は翌年NPTを脱退)、そして2005年には6者協議において達成された共同声明の直後にマカオの銀行を通じた北朝鮮のマネー・ローンダリング疑惑をぶつけた同政権(結局、同政権は超法規的にその尻ぬぐいを行う羽目になっただけ)ですから、NYT社説同様、私も何らかの政治的意図に基づくものとしか考えられません。北朝鮮を非核化に持ち込むこと以外に外交的「成果」を望めないブッシュ大統領が、何の目的で事態を悪化させる行動に出たのか、追々事情は明らかになるでしょう。

北朝鮮がどのように反応するのか、現時点では全く分かりません。北朝鮮からすれば、韓国にハンナラ党の李明博政権が登場し、4月19日の米韓首脳会談で米韓軍事同盟強化の方向性が打ち出されたこと、日韓関係についても李大統領の訪日で「改善」したことなどは、明らかに警戒すべき事態の展開でしょう。ただでさえ疑心暗鬼になっても不思議でないこのタイミングでシリア問題(ウラン濃縮問題と並ぶ米朝交渉でのハードルの一つ)の扱いを更に難しくする「発表」ですから、北朝鮮が態度を硬化するとしても何ら不思議ではありません。NYT社説ではありませんが、北朝鮮が挑発に乗らないことを願うのみです。

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