サルコジ大統領の核政策演説

2008.04.03

*フランスのサルコジ大統領は、3月21日にシェルブールで第4隻目となる戦略原子力潜水艦の建造を祝う演説を行い、フランスの核政策について述べました。その内容については、3月22日付中国新聞が「仏の航空核戦力縮小へ」という見出しで21日発の共同電を掲載し、また、翌23日付の朝日新聞は「仏大統領「核で警告も」 威嚇使用の可能性言及」という見出しで報道しました。まったく異なる報道内容でしたし、その全文を見て確かめなければ、と思って検索していたところ、英文(全文)のテキストを見つけることができました。

その内容は、核抑止力を堅持する前提の下で、新しい時代状況を見据え、2010年のNPT再検討会議を視野に収めて核軍縮にも前向きの姿勢で臨むということを述べたものであることが分かりました。朝日新聞は前者の部分を、共同電は後者の部分を重視して報じたものであったということになります。

すでにこのコラムではイギリスの核政策について二度にわたって紹介してきましたが、サルコジ大統領は、イギリスの政策をも踏まえて、英仏が協力して2010年の再検討会議に主導権を発揮する意欲を示したものとしてそれなりに注目される内容を含んでいます。核抑止力堅持を前提にする点で、核兵器廃絶を目指す私たちの考え方とは根本的に異なりますが、2010年のNPT再検討会議に向けての私たちの取り組みのあり方を考える上では、英仏の動きを無視することはできないと思います。そういうことを念頭に置いた上で、サルコジ演説の主要部分を以下に紹介したいと思います(4月3日記)。

1.核抑止力堅持の基本方針の確認

〇あらゆる状況において、我が国の独立及び政策決定の自立性を保持する。核抑止力は、その最終的保証である。
〇フランスはもはや侵略の危険はない。しかしながら我が安全に対してはほかの脅威が存在する。核兵器の備蓄は引き続き増強しつつある。核・生物・化学(兵器)の拡散は、弾道及びクルーズミサイルの拡散とともに続いている。
〇今日、遠距離にある国家の核ミサイルでも半時間以内に欧州に到達するという事実に留意しなければならない。目下のところは大国のみがその手段を保有している。しかし、アジア及び中東にあるほかの国々が懸命に弾道能力を開発しようとしている。私が特に念頭に置いているのはイランだ。
〇拡散を前にして、国際社会は団結し、断固と対応しなければならない。平和を望むが故に、国際規範に違反する連中に対して弱腰であってはならない。しかし、国際規範を尊重するすべての国家が平和利用のための原子力エネルギーに対する公正なアクセスについて権利を有している。
〇我々は拡散以外の危険に対しても備えなければならない。西側社会の脆弱性を利用することに関しては、潜在的な攻撃者の想像力は無限である。そして明日には、技術的ブレークスルーによって新たな脅威が生まれるだろう。これこそが、我々が核抑止をかくも重視するゆえんである。それは厳格に防衛的なものだ。核兵器の使用は、国連憲章に基づく権利である正統な防衛という極限的状況においてのみ考え得るものだ。
〇我が核抑止力は、どこから来るにせよ、また、どのような形を取るにせよ、国家に由来する我が死活的利益に対する攻撃から我々を守る。我々の死活的利益とは、もちろん、我々のアイデンティティ及び国民国家としての存在を構成する要素並びに我が主権の自由な行使といった要素を含む。
〇我が死活的利益を脅迫するいかなるものも、フランスの厳しい報復によって、彼らにとって耐えることができない、彼らの目的とは桁外れの損害に身をさらすことになる。彼らの政治的、経済的及び軍事的中心が優先順位に応じて攻撃の対象となる。
〇敵側が死活的利益の限界やそれらを守る我々の決意について誤算する可能性は排除できない。そのような場合には、核抑止力の枠組みの中で、抑止を再確立することを目的とした我々の決意を強調する核の警報を送ることもありうる。
〇抑止力が信頼できるものであるためには、国家元首は脅威に対して広範な選択を持つ必要がある。M51大陸間ミサイル及び(航空機搭載)ASMPAミサイルは、そういう危機評価に対応したものである。私は、海洋型及び航空型の二種類の核戦力を保有することが不可欠であると確信している。
〇我が行動の自由を保全するためには、限定された攻撃に対するミサイル防衛能力は、核抑止力にとって、代替するものではなく、有用な補完手段となりうる。
〇我々はイギリスとともに重要な決定を行った。ほかの国々の死活的利益も脅かされないような状況で英仏両国のいずれかの死活的利益が脅かされるような状況はないというのが我々の判断である。大西洋同盟に関していえば、その安全もまた核抑止力に依拠している。イギリス及びフランスの核戦力はその安全に貢献している。これは、1974年以来のNATOの戦略概念の一部であったし、今日においても然りである。私は、同盟国に対し、フランスは北大西洋条約第5条に基づく誓約に対して忠実であるし、これからもそうであると述べる。

2.核軍縮に対する考え方

〇国際的な安全保障が改善すれば、フランスはその結果を導き出す。フランスは、冷戦の終焉に際してそのようにした。
〇我々は、国際的コミットメント、なかんずくNPTを尊重する。核軍縮に関し、フランスは、世界でもユニークな模範的な記録を持っている。フランスは、イギリスとともに、CTBTに署名し、これを批准した最初の国家である。フランスは、爆発目的のための分裂生物質の生産施設を閉鎖し、解体した最初の国家である。フランスは、太平洋における核実験施設を透明性を持って解体した唯一の国家である。フランスは、地上発射の核ミサイルを取り除いた最初の国家である。フランスは、原子力推進型弾道ミサイル潜水艦を3分の1自発的に減少した唯一の国家である。
〇フランスは、厳格な十分性(strict sufficiency)の原則を適用している。フランスは、戦略的状況と両立する最小限の兵器を維持している。この戦略概念に従い、私は、新しい軍縮措置を決定した。航空部分に関し、核兵器、ミサイル及び航空機の数を3分の1減少する。この減少により、我々の兵器庫は300以下の核弾頭となるだろう。この数は、冷戦期に保有していた弾頭数の半分となる。
〇私は、我が兵器は誰に対しても照準をおいていないことを確認することができる。
〇しかし、我々はナイーヴではない。集団的な安全保障と軍縮の基礎は相互主義にある。
〇今日、世界で8カ国が核実験を行ったことを宣言した。私は、核兵器国に対して2010年のNPT再検討会議に断固としてコミットすることを求める行動計画を国際社会に提案するつもりである。
1996年に署名した中国及びアメリカをはじめとして、すべての国家がCTBTを批准することを招請する。CTBTは批准されるべき時である。
核兵器国が、国際社会に対して透明性があり、公開された形ですべての核実験場を解体することを要求する。
核兵器目的用の核分裂物質の生産を禁止し、それらの物質の生産に関するモラトリアムを遅滞なく確立する条約の交渉を即時開始することを求める。
NPTで認められた5核兵器国に対し、透明性の措置について合意するよう招請する。
短距離及び準中距離の地対地ミサイルを禁止する条約の交渉開始を提案する。
フランスがすでにしたように、弾道ミサイル拡散防止に関するハーグ行動規約にすべての国々が加盟し実施することを求める。

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