台湾総統選挙について

2008.03.23

3月22日に行われた台湾の総統選挙の結果、国民党の馬英九氏が得票率58.45%(約766万票)で対立候補である民進党候補の得票率41.58%(約544万票)に大差をつけて当選しました。私は、この選挙の帰趨に関しては尋常でない関心を持って見守ってきました。私の最大の関心は言うまでもなく、台湾海峡がきな臭くなることはとりもなおさず日米軍事同盟が動き出し、有事法制に基づく日本全土の戦争巻き込まれが現実のものとなりかねないという心配があるからです。その視点から言えば、中国との平和共存を掲げる馬英九氏が当選することがとても重要だと思っていました。

いまや中台関係は、経済交流を中心にして相互依存が極めて深まっています。あえて言えば、中国にとっての台湾の重要性よりも、台湾にとっての中国の重要性の方がはるかに強いと言っても過言ではないでしょう。台湾経済の浮沈したがって台湾に住む人たちの経済的安定は、中国との安定した関係が維持されるかどうかによって大きく左右される段階に突入しているからです。

もちろん、中国としても台湾との武力衝突という最悪のシナリオを望んでいるはずがありません。台湾が「独立」に走らない限り、中国としては何十年でも現状維持ということで納得する気持ちがあることは間違いないことです。台湾の祖国復帰を妨げている最大の原因がアメリカ(及び日本)の「二つの中国」(あるいは「一台一中」)政策にあることを知り尽くしている中国としては、台湾が暴走しない限り、自分から軍事力発動に踏み切るという選択肢はありえないわけですから、そういう最悪の事態を未然に回避する現状維持は次善の選択として十分許容範囲の中にあるわけです。選挙戦における馬英九氏の発言から判断する限り、彼はそういう中国の原則的立場を十分に踏まえていることが読み取れました。

選挙戦のさなかに起こったチベット情勢の悪化が総統選挙の結果に影響を与えるのではないかという観測が多く流されましたし、私も重大な懸念を持って見守りました。少なくとも中国側の視点からすれば、チベットの騒乱が台湾総統選挙をも視野に入れて仕掛けられたのではないか、と疑う気持ちになるとしても、決して無理はありません。3月22日/23日付のインタナショナル・ヘラルド・トリビュン紙が報道しているように、ダライ・ラマの真意は誰にも分かりませんし、彼の下にあるといわれる亡命チベット人の中には公然と独立を要求する人びとがいることは隠れもない事実です。そうであるとすると、台湾の総統選挙期間中にチベット(及びチベット族居住地域)において事をしでかすという発想が起こったとしても、決して不自然ではありません。ノーベル平和賞に胡散臭さを常々感じている(あの沖縄「返還」を今日見る形で成し遂げた佐藤栄作氏がこの賞をもらっているのです!?)私としては、ダライ・ラマがその賞の受賞者であるということは、かえって彼に対する信頼感をもてなくなる理由の一つでもあります。しかし、台湾の人たちがチベット情勢によって目が曇らされることがなかったことは、冒頭に述べた選挙結果が如実に示しています。逆にいえば、チベット情勢によって民進党候補が急追と報じたマス・メディアは何を根拠にそのような判断をしたのか、ということを改めて問いただしたくなります。

この選挙結果に対するアメリカ政府及び日本政府の反応が気になりますが、今のところは静観というところでしょうか。アメリカ政府及び日本政府の対台湾政策の真意を知らないはずがない馬英九氏ですから、その対中政策も慎重であろう事は容易に想像がつきます。望むらくは、中台経済交流、人事交流から地道に歩みを進め、中台間の相互信頼を着実に進めることを、です。

最後に、台湾問題を考える際に、私たち日本人が特に注意しなければならないことを改めて指摘しておきたいと思います。1895年に日本が台湾の「割譲」を強要していなかったならば、今日の台湾問題はありえなかったということです。朝鮮半島の分断と同じく、かつての軍国主義・日本の侵略・植民地政策がいわゆる「台湾問題」の根源にあることを、私たちは片時も忘れてはならないと思います。その過去を消し去ろうとし、台湾の祖国復帰を妨げるアメリカの政策に肩入れする戦後保守政治の政策は犯罪ですらあるのです。

RSS