映画「ふるさとをください」を観て

2008.03.01

きょうされん(前身:共同作業所全国連絡会)30周年記念に自ら制作基金を集めて製作した映画「ふるさとをください」の試写会に出かけました(3月1日)。和歌山県の精神障害者の共同作業所「麦の郷」を原像にしてジェームス三木が脚本を手がけたものです。精神障害者に対する偏見が充ち満ちている町の中で共同作業所を立ち上げ、偏見と差別に立ち向かいながら、最終的には周りの人びとの理解を勝ち取っていくという、ストーリーとしてはとても単純で、分かりやすい(それだけに物足りなく思うところも確かにある)作品です。

しかし、この作品において味わうべきは、日本社会特有の「異質なもの」(ここでは精神障害者)を警戒し、差別し、さらには排撃する土壌の存在がリアルに描き出されていることにあると思いました。観る者のだれもが自分の中に思い当たることがある「異質なもの」に対するまったく根拠のないいわれのない意識の有り様を、この映画は鋭く描写しています。

また、この映画は決して正面からの日本の貧しさを極める福祉政策への告発ではありませんが、しかし、国の貧困を極める政策に対する障害者(及びその人びとに熱い思いを寄せる人びと)による「共同作業所」という形での自助努力の重要な意義を語ることにより、国がもっともっと本気で障害者に対する心のこもった施策を行うべきではないか、という問題意識を観る者に感じさせてくれます。

障害問題なんて自分には関係がないと思う人が多いでしょう。しかし、先天的に障害を持って生まれてくる人たちだけではなく、原爆投下により、薬害により、公害により、そして交通事故により、私たちはいつ何時障害者になるか分かりません。しかし障害を持つことになっても、私たちが尊厳ある人間であることにはいささかも変わりはありません。私たちは、障害のあるなしにかかわらず、人間としての尊厳を全うする権利があります。政府はそのためにこそあるのです。その原点を改めて感じることができる映画でした。

なお、「ふるさとをください」というタイトルは、精神障害から回復しても帰る先のない人びとが自分のふるさとだと安心して思うことができるような環境を、作業所の周りの地域が理解をもって与えてください、という意味です。

今後全国で自主上映をしていくことになっています。このコラムを読んでくださる方も、是非自分のいる地域でこの映画を上映するように動いていただきたいと思いました。

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