映画「母べえ」を観て

2008.01.27

封切り初日の山田洋次監督の映画「母べえ」を早速観に行ってきました(1月26日)。前評判に違わぬ完成度の高い映画であり、内容的にも本当に考えさせられる作品でした。30代の母親役を演じる吉永小百合にはさすがに無理があるのではないかと思って観たのですが、まったく不自然さはなく、むしろ最後の場面で老いて衰えきった姿に違和感を覚えたほどです。やはり山田監督、と脱帽しました。

描かれているのは、主として昭和15年から16年までの、極めて良識的、そして自らに正直でありたいと懸命に生きようとした人びとを抹殺し、否定してかかる暗黒の時代です。母べえの夫は、良心的である故に思想犯と決めつけられ、アカ呼ばわりされて特高に連行され、獄中死するのです。その夫を愛し、子どもたちを守り抜き、自らも良心的に生き抜こうとする一人の女性を、吉永小百合が熱演しています。

私は単純なので、ストーリーの展開を追うことに心が奪われてしまったので、「ハウル」の時のように、もう一度じっくり見てみたいと思いました。しかし、山田監督のメッセージは痛いほどに伝わってきました。一言で言えば、今日の日本が再びかつての時代の二の舞を繰り返すことがないように、という警告ですし、この危険な時代状況に気が付きもせず、権力のし向ける方向に唯々諾々と従おうとしている今日の日本人に対する忠告です。そういう重いメッセージを、山田監督ならではの人間存在に対する温かいまなざしを通じて伝えようとしているのではないか、と感じました。すべての日本人にとって必見の映画であると思います。

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