テロ対策特別措置法の批判的検討

2007.10.04

テロ対策特別措置法(以下「特措法」)の正式名称は、「平成十三年九月十一日のアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃等に対応して行われる国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動に対して我が国が実施する措置及び関連する国際連合決議等に基づく人道的措置に関する特別措置法」とあるように、9.11事件を受けた法律であるというのが最大のポイントです。特措法は、附則1で「公布の日(注:2001年11月2日)から施行する」とし、附則3で「この法律は、施行の日から起算して六年を経過した日に、その効力を失う」とされる時限立法でしたので、本年11月1日で期限切れになることになっているわけです。アメリカの「対テロ戦争」は泥沼状態に陥っており、それに伴って特措法延長問題が生じたのです。そこで政府・自民党は、附則4で、「前項の規定にかかわらず、施行の日から起算して六年を経過する日以後においても対応措置を実施する必要があると認められるに至ったときは、別に法律で定めるところにより、同日から起算して二年以内の期間を定めて、その効力を延長することができる」とあることを根拠に特措法の延長を狙って動き出したというのが問題の発端です。私は最近、特措法についてお話しする機会がありました。その時につくったレジュメに基づき、以下において、特措法にかかわって考えておく必要がある問題点を整理しておきたいと思います。(10月4日記)

1.特措法の問題を考える上で踏まえておく必要がある特措法の条文

特措法の問題点を考える上では、すでに紹介した特措法の正式名称と本文の第1条(目的)及び第2条(基本原則)において何が書かれているかを正確に見ておくことが必要です。正式名称をもう一度くり返しますと、「平成十三年九月十一日のアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃等に対応して行われる国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動に対して我が国が実施する措置及び関連する国際連合決議等に基づく人道的措置に関する特別措置法(強調は筆者。以下同じ)」とあります。内容的には強調の部分に要注目です。

第1条(目的)は、実に長ったらしいのですが、次の規定です。やはり強調の部分が要注目のところです。

「この法律は、平成十三年九月十一日にアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃(以下「テロ攻撃」という。)が国際連合安全保障理事会決議第千三百六十八号において国際の平和及び安全に対する脅威と認められたことを踏まえ、あわせて、同理事会決議第千二百六十七号、第千二百六十九号、第千三百三十三号その他の同理事会決議が、国際的なテロリズムの行為を非難し、国際連合のすべての加盟国に対しその防止等のために適切な措置をとることを求めていることにかんがみ、我が国が国際的なテロリズムの防止及び根絶のための国際社会の取組に積極的かつ主体的に寄与するため、次に掲げる事項を定め、もって我が国を含む国際社会の平和及び安全の確保に資することを目的とする。
一 テロ攻撃によってもたらされている脅威の除去に努めることにより国際連合憲章の目的の達成に寄与するアメリカ合衆国その他の外国の軍隊その他これに類する組織(以下「諸外国の軍隊等」という。)の活動に対して我が国が実施する措置、その実施の手続その他の必要な事項
二 国際連合の総会、安全保障理事会若しくは経済社会理事会が行う決議又は国際連合、国際連合の総会によって設立された機関若しくは国際連合の専門機関若しくは国際移住機関(以下「国際連合等」という。)が行う要請に基づき、我が国が人道的精神に基づいて実施する措置、その実施の手続その他の必要な事項」

第2条(基本原則)の規定についても見ておきます。

「政府は、この法律に基づく協力支援活動、捜索救助活動、被災民救援活動その他の必要な措置(以下「対応措置」という。) を適切かつ迅速に実施することにより、国際的なテロリズムの防止及び根絶のための国際社会の取組に我が国として積極的かつ主体的に寄与し、もって我が国を含む国際社会の平和及び安全の確保に努めるものとする。
2 対応措置の実施は、武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならない。
3 対応措置については、我が国領域及び現に戦闘行為(国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為をいう。以下同じ。) が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる次に掲げる地域において実施するものとする。
一 公海(海洋法に関する国際連合条約に規定する排他的経済水域を含む。…)及びその上空
二 外国の領域(当該対応措置が行われることについて当該外国の同意がある場合に限る。)」

2.特措法の「国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動」にかかわる問題点

まず、特措法はアメリカなどの行動を「国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動」とみなしていますし、そういう前提だからこそ、その活動に日本が協力するのだという法律の構成をとっているのですが、そのそもそもの前提がなり立つのか、ということが問題です。

アメリカ自身がはっきり認めているように、アメリカは自衛権の行使と称してアフガニスタンに対する攻撃を始めました。より正確に言えば、9.11事件を引き起こしたテロリストの黒幕であるビン・ラディンとアルカイダが拠点とし、彼等に拠点を提供していたタリバン政権が支配していたアフガニスタンに対する自衛権の行使として、アメリカは自らの武力行使を正当化しようとしたわけです。

まず問題にしなければいけないのは、そういうアメリカの主張はなり立つのか、つまり、アメリカの武力行使は自衛権の行使と見なせるのか、という点です。

そもそも自衛権の行使というのは、外国からの侵略や軍事行動を排除するためのものとして認められているのであり、テロリズムのような国際犯罪を取り締まるための手段としては認められるものではありません。9.11事件でパニックに陥った国連以下の国際社会は、「これ(9.11事件)は戦争だ」と叫んだブッシュ大統領に引きずられて、安保理決議1368を通してしまい、アメリカ以下のアフガニスタンに対する武力行使を実際上認めてしまいましたが、このことがそもそも大きな誤りだったのです。スペインやイギリスでのテロ事件の際に出動したのは、軍隊ではなく警察だったことは、テレビなどでもご存じだと思います。アメリカは国際犯罪を戦争と断定する致命的な過ちを犯し、武力行使に訴えてしまったのですが、その結果は、テロリストを取り締まることに成功するどころか、アフガニスタン(及びイラク)を彼等の活動拠点にしてしまったのです。私たちは、まずこの点をしっかり認識し、アメリカに自らの過ちを認めさせ、原点に戻らさせなければなりません。

以上の点については絶対に目をつぶるわけにはいきませんが、仮に百歩譲ってアメリカの主張を前提にして考えるとしても、またすぐさま重大な問題が出て来ます。一つは自衛権の本質にかかわる問題です。

自衛権の行使といえるためには、急迫不正の侵害があり、これを排除するためにほかに適当な手段がなく、必要最小限の実力を行使する、という要件を満たさなければならないのは、福田官房長官(当時。現在の福田首相)が明確に認めたとおりです。すなわち彼は、特措法審議の国会で次のように答弁しました。

「今回の米国また英国、このとった行動というのは、国連憲章第51条に基づきます個別的及び集団的自衛権の行使、こういうことで安保理に報告をされております。
これは、一般国際法上は、自衛権というのは、…国家または国民に対する外部からの急迫不正の侵害に対し、これを排除するのにほかに適当な手段がない場合に、当該国家が必要最小限の実力を行使する権利である、こういうことになっております。
我が国としましては、米国から得た情報その他各種情報をもとに、今回の同時多発テロに対して米軍、英軍がとった軍事行動が自衛権の行使に当たると判断しております。いずれにしても、米国は、国際法上違法な武力の行使を行わない、こういう義務を遵守しなければなりませんから、米軍等の軍事行動が必要最小限度の実力の行使を超えるものではない、このように理解しております。」(2001年10月12日 衆・テロ特措法特別委員会)

直ちに問題になるのは、9.11事件が起こってからアメリカがアフガニスタンに対して武力行使を開始したのはかなり時間が経っているということです。「急迫不正の侵害」があったとは到底言えないのです。また、アフガニスタンに対しては、9.11事件が起こる以前から、特措法第1条で明記されている三つの決議などに基づいて様々な制裁措置がとられていました(ちなみに、第1条で引用されている決議1267(「憲章第7章のもとで行動」との文言あり)、決議1269(憲章第7章への言及なし)、決議1333(「憲章第7章のもとで行動」との文言あり)は、「国際的なテロリズムの行為を非難し、国際連合のすべての加盟国に対しその防止等のために適切な措置をとることを求めている」のですが、それらの措置はいずれも非軍事的措置であって、特措法にいう「アメリカ合衆国その他の外国の軍隊その他これに類する組織…の活動」としての軍事活動を含みません)。それらの措置の効果はあがりつつあったわけで、ほかの「適当な手段」が機能していました。アメリカが武力行使に訴えるのは許されることではなかったのです。「必要最小限の実力行使」という要件に至っては、アメリカのアフガニスタンに対する攻撃は、タリバン政権をつぶすという徹底したものであって、過剰な実力行使と言うほかありません。

ですから、結論として、アメリカ以下の武力行使を自衛権の行使として認めることはできません。だからこそ、アメリカの行動を正式かつ法的に承認する安保理決議はないのです。こうして、アメリカの武力行使は、政府答弁に即しても、自衛権の行使とは言えないということが明らかなのです。

仮にアメリカの武力行使が自衛権の行使に当たるとしても、それが特措法の主張するように国連憲章の目的を達成するための活動と見なせるのか、という点も大問題です。簡単に言えば、「自衛権の行使=国連憲章の目的達成」と言えるのか、という問題です。

国連憲章第1条は、国連の目的をいくつか掲げていますが、その第一に掲げられているのが、「国際の平和及び安全を維持すること。そのために、平和に対する脅威の防止及び除去と侵略行為その他の平和の破壊の鎮圧とのため有効な集団的措置をとること」です。だから特措法第1条では、9.11事件が「国際の平和及び安全に対する脅威と認められた」とことさらに言っているのです。

しかし、すでに「脅威と認められた」という文言に大きな問題が潜んでいます。国際の平和及び安全を維持し、そのために集団的措置をとるための具体的な内容は憲章第7章で定めており、それらに基づいて国際の平和及び安全に主要な責任を負わされている安全保障理事会(安保理)は、集団的措置をとる際には、その法的根拠となる決議を採択することになっています。その決議では、例えば9.11事件を例にして言えば、9.11事件を引き起こしたテロリスト及び彼等に隠れ家を提供したタリバン政権に対して軍事行動をとることが認められるためには、彼等が「国際の平和及び安全に対する脅威であると決定」し、「憲章第7章に基づいて」その脅威に対抗するための集団的措置をとることを「決定する」ことを明確に定めることになっています。ところが、特措法第1条で引用されている安保理決議1368では、そのような決定はありません。前文で「テロリストの行動で引き起こされた国際の平和及び安全に対する脅威に対してあらゆる手段で闘うことを決意し」と、抽象的な文章がおかれているだけです。ですから特措法でも、「脅威と決定された」とは言えず、「脅威と認められた」としか言えないのです。

以上は法的な形式要件に属する問題ですが、もう一つのより実質的な問題は、「国際連合憲章の目的」とアメリカの自衛権行使との間には超えられない溝があるということです。つまり、自衛権行使はあくまで相手側の不法な侵略、軍事行動に対してこれを払いのけるための、しかも安保理が集団的措置をとるまでの一時的、緊急避難的な行動としてのみ認められている(憲章第51条)のであって、「憲章の目的達成」のために行われるということではない、ということなのです。この点については、次の政府答弁自体から理解することができるでしょう。

「先般のテロ攻撃は、国連安保理決議において、国際の平和と安全に対する脅威と認められております。このテロ攻撃によってもたらされている脅威の除去に努める今般の米国等による行動は、国際の平和及び安全を維持することなどの国連憲章の目的達成に寄与する性格を有しております。」(2001年10月12日 衆・テロ特措法特別委員会 福田官房長官)

つまり、特措法の正式名称では「国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動」となっているのに、以上の政府答弁では、「国連憲章の目的達成に寄与する性格を有しております」としか言えないでいるということです。「寄与する」と「達成する」とでは大違いであることは、誰にでも分かるでしょう。そうです。「自衛権の行使=国連憲章の目的達成」という図式はなり立たないことを、政府自体も認めているのです。

こうして、アメリカの行動を正当化しようとした特措法の立論は総崩れ、と結論づけるほかないのです(ちなみに、アメリカその他の活動が、「国連憲章の目的達成のための活動」として正当化されるか否かについて、私の承知する限り、安保理においてまともな議論はまったく行われていません)。

なお、アメリカ以外の諸国の軍事行動は「集団的自衛権の行使」として正当化されてきましたが、アメリカの軍事行動そのものが自衛権行使として正当化されるかどうかに根本的疑問があることを考えれば、アメリカ以外の国々の軍事行動を「集団的自衛権の行使」とすることにも根本的な問題があることも分かると思います。

3.日本の行動の法的性格:政府の苦しまぎれの説明

以上から明らかなように、アメリカなどの軍事行動は、国際法上正当化される余地のない違法なものですが、政府は、何が何でもアメリカに対する協力をしなければならなかったため、口実探しにずいぶん苦労したようです。集団的自衛権の行使は第9条の解釈として認められない、というのが政府・法制局の立場ですから、それに代わるものが必要でした。政府がひねり出したのは、武力行使はせず、また、戦闘地域(後述)では活動しないという限定づきの「国際協調」の支援・協力として、自衛隊の活動を憲法第9条の範囲内の行動として正当化する理屈でした。前に紹介した特措法第2条2及び3の規定は、そういう理屈づけのために用意されたものです。

その点について、特措法審議の国会答弁で、小泉首相(当時)は次のように言っていました。

「日本は、武力行使をしないと言っているんですよ。国際協調の観点から、テロ行為を根絶するために、防止するために、できるだけの支援、協力をしましょうと。個別自衛権とか集団自衛権の問題でこの新法を今考えているわけじゃない」(2001年10月04日 衆議院予算委員会 小泉首相)

話が飛ぶようですが、「国際協調」という言葉は、自民党の新憲法草案第9条の2でも顔を出します。この規定は、日本国憲法第9条第2項を削除し、その代わりに設けるとされているものです。その趣旨は、国際協調を理由として武力行使を認めようというものです。

つまり、国際協調は、武力行使・集団的自衛権の行使として行われる場合もあるし、武力行使・集団的自衛権の行使としてではなく行われる場合もある、ということになります。特措法に基づく国際協調は、集団的自衛権の行使ではなく、また、武力行使ではない形で行われる(自民党新憲法草案では、集団的自衛権の行使の場合にも立ち入るし、対米軍事協力のように武力行使も行うことになる)と言い抜けることを可能にするために、わざわざ特措法で第2条2の規定を設けたということです。

また政府は憲法解釈として、自らは武力行使をしなくても、武力行使を行っている軍隊と行動を共にしているとみなされる場合(「武力行使との一体化」)は、集団的自衛権の行使とみなされるから、それは憲法で禁止された行為だと答弁してきています。特措法では、その観点からの批判をかわすために第2条3において、「現に戦闘行為…が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる…地域」においてのみ自衛隊は活動するから問題は起こらないとする「戦闘地域」ではない「非戦闘地域」という概念を考え出しました。

特措法の国会審議の際、NATOが集団的自衛権の行使として決定した8項目の兵たんは、政府が自衛隊をして行わせようとしている「後方支援」と呼ばれるものであるから、自衛隊も集団的自衛権に踏み込むことになる、という趣旨の指摘に対して、福田官房長官は次のように答弁しました。

「今お示しになったNATOの集団的自衛権ですか、行使の中身、これは項目は同じようなものございますけれども、中身はもう根本的に違うんですよ。
それは、…武力の行使を伴うか伴わないか、このことが決定的に違うわけですね。NATOの方は伴うわけでございます。私どもの方のこの法案につきましては、武力の行使に当たらない活動、これが大原則であるわけです。その活動の地域も、我が国の領域及び現に戦闘行為が行われておらずかつそこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる地域に限られているという、そのことがNATOと決定的に違うんだということで御理解をいただきたい。」(2001年10月10日 参議院予算委員会 福田官房長官)

国際法上、兵たん活動は紛れもない軍事行動であり、集団的自衛権の行使の内容を構成するものです。それは、自らが直接武力行使をするか否かにかかわりません。従って、政府が「自分たちは武力行使しないんだから、集団的自衛権には当たらない」といくら言っても、国際的にはまったく通用しないのです。もともと法制局が第9条について行ってきた「解釈」は国際的には通用しない代物なのですが、日本語が国際語でないこと(従って、国会でどのような珍妙な議論をしても、国際的な注意を引かないこと)をいいことにして、政府は許されてはならない議論にしがみついているのです。

「非戦闘地域」とは具体的にはどのようなものかを考える上では、次の国会答弁が参考になります。

「輸送等はすべて後方地域、いわゆるその活動の期間を通じて戦闘が行われない、あるいは現に戦闘が行われない、そういう地域において活動するわけでございますので、そこまでの輸送は考えておるということでございます。」(2001年10月05日、衆議院予算委員会 津野法制局長官)

「自衛隊の活動というのは武力の行使に該当しないことが重要であります。同時に、もし、同意を得た自衛隊が派遣されて日本以外の地域で活動する場合、その外国の領域や公海及びその上空で実施する場合には、現に戦闘行為が行われていない、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われないであろう、そういうことが認められる地域に限定しているということを今考えております。」(2001年10月04日、衆議院予算委員会 小泉首相)

要するにこういうことです。自衛隊の給油艦が給油を行うときは、給油を受けるアメリカなどの艦船が給油の最中に戦闘に従事するはずがありません。ですからそこは非戦闘地域ということになります。しかし、給油が終われば、その相手側の艦船は直ちに戦闘体制に戻るでしょう。だから、今まで非戦闘地域だったところはそのまま戦闘地域になるのです。まったく国民を愚弄するのも甚だしいと言わなければならない「戦闘地域」という概念、ということがお分かりになるでしょう。

結論として、特措法に基づく自衛隊の活動は正真正銘の憲法違反の軍事行動であることがお分かりだと思います。特措法もそれに基づく自衛隊の活動も憲法違反であり、自衛隊の活動を続けるための新法も許されることがあってはならないことも理解されると思います。

4.法律違反の給油活動

この問題については、9月24日付、28日付、30日付及び10月3日付のしんぶん赤旗や、9月15日付の中国新聞が報道した共同の配信記事等を綜合すると、次のような事実関係が浮かび上がってきます。

まず、アメリカ海軍HPなどによれば、海上自衛隊が給油する米艦船の任務として、アフガンのテロ勢力の洋上移動を防ぐ「海上阻止行動」、対テロ戦争としての「不朽の自由作戦」に加え、イラク戦争である「イラクの自由作戦」を明記しているとのことです。つまり、アメリカははじめからイラク作戦用にも海上自衛隊の給油を織り込んでいるということです。

現実に、市民団体ピースデポが入手した米海軍資料によると、2003年2月25日に補給艦「ときわ」が空母キティホークに給油しましたが、当時のキティホークの任務はイラク南部監視作戦である「サザンウオッチ」と「イラクの自由作戦」のみで、対テロ戦争としての「海上阻止行動」「不朽の自由作戦」には言及がなかったというのです。つまり、明らかに特措法の目的外の使用が行われていたということです。

海上自衛隊の給油活動の実績・実態についても、防衛省が小出しにする資料からいろいろなことが分かってきています。2001年12月の給油開始から2007年8月30日までに、計11カ国の艦船に計777回、約48万キロリットル(約220億円相当)を給油しています。その国別内訳は、アメリカ351回(約38万5千キロリットル。全体の79.5%。金額としては162億円で全体の73.6%)、パキスタン141回(1万9千キロリットル、約13億円)、フランス94回、カナダ43回、イタリア40回、イギリス33回、ドイツ29回、ニュージーランド15回、オランダ11回、スペイン10回、ギリシャ10回です。国民の税金が220億円も使われているのです。政治家の金まみれの実態に憤りを示す国民は多いですが、これだけのもの大金が使われているという事実だけからも、もっと国民はこの問題に厳しい目を光らせる必要があると思います。

補給艦向け給油は、その補給艦からどのような艦船にさらに給油されるかが分からないという点で問題が多いものですが、777回の給油のうちの105回を占めています。しかし、給油量は約26万7千キロリットルで全体の約55%を占めています。その内訳は、2001年度42回(全体58回)、02年度46回(130回)、03年度3回(168回)、04年度2回(146回)、05年度2回(102回)、06年度8回(136回)、今年度2回(37回)となっています。全体の49%に当たる23万7千キロリットルが01年12月から03年3月の間に米英の補給艦に給油されたそうです。

私たちとしては、特措法が憲法違反の、そして「国際貢献」とはまったく位置づけることもできない海上自衛隊の活動の根拠とされていることから、特措法の延長はもちろん、給油・給水にしぼった新法にも絶対に反対しなければなりませんが、法律そのものにも違反する給油活動が行われているという事実をも軽視するわけにはいきません。かりそめにも国会の承認を得て成立した法律が、アメリカ等の都合によって法律に違反する目的のために使用されてきたということは、法律成立を推進した政府・自民党の重大な政治責任です。もちろんだからといって、法律に即した給油・給水ならばいい、ということではありません。私たちが見て取らなければならないことは、アメリカべったりの政府・自民党に対して私たちがきびしい判断力を持たないと、彼等はどんなことでもやりかねない、ということです。

5.世論操作に気をつけよう

特措法に対する世論の動きには気になるものがあります。安倍首相の辞任表明前とその後の各種世論調査を見ると、大きな変化を見て取ることは難しいことではありません。朝日新聞の緊急世論調査(8月29日付)では、特措法延長に賛成が35%、反対が53%だったのですが、9月14日付では自衛隊のインド洋での活動継続に賛成が35%、反対が45%となり、賛成は変わっていませんが、反対が減っています。日経新聞の世論調査(8月29日付)では賛成が30%、反対が53%だったのが、9月27日付になると、給油活動を「続けるべきだ」が47%、「続けるべきではない」が37%と逆転しています。産経新聞とFNNの合同世論調査も同じ傾向を示していて、8月30日配信では賛成が34.2%、反対が54.6%だったのが、9月28日配信では賛成が51.0%、反対が39.7%となりました。共同通信の電話世論調査(8月29日配信)でも賛成が38.6%、反対が48.2%だったのが、9月27日付中国新聞によれば、給油活動を「延長すべきだ」が49.6%(対9月中旬比+1.7ポイント)、「延長すべきではない」が39.5%(同-3.0ポイント)とやはり逆転しているのです。

どうしてこのような変化が起きているのかについては、今の段階では推測するほかありませんが、いくつかの理由を考えることができます。一つは、安倍首相が辞任に追い込まれるほどの問題だということで、世論が影響を受けたということが考えられます。もう一つは、安倍辞任表明を受けた自民党総裁選で、福田、麻生両氏が異口同音に給油活動継続の重要性を訴えたことに世論が一定の反応を示したということが考えられます。

しかし、私はもう一つのポイントがあるのではないかと考えます。それは、国際的な圧力に弱いという国民心理です。政府・外務省はこの点を知り尽くしています。政府・外務省は、国連安保理に働きかけて給油活動の「正当化」を演出しました。それが安保理決議1776(9月19日採択)で、「NATOのリーダーシップ及びISAF 及びOEFに対する多くの国々の海洋阻止を含む貢献に対する評価を表明」(海洋阻止とは、海上自衛隊の給油活動を指します)という文言を盛り込ませたことです。9月22日付しんぶん赤旗によれば、9月21日の日本記者クラブ主催の討論会で、麻生氏は、「国連が期待しているという実態をぜひわかるようにしてもらいたいという話はした」と認めているのです。

また、9月27日、米英パキスタンなど11カ国(海自の給油提供国数と一致)の駐日大使らが都内で会合し、海上自衛隊の活動を「力強い貢献」と謝意を表明し、「日本が今後も、この重要な貢献を継続することを希望」との声明を発表したのです。声明は「アフガニスタンでの平和や安定、繁栄のための国際社会の努力に不可欠な給油活動に対し、日本は独自の重要な貢献を行った」としたといいます(9月28日付しんぶん赤旗)。

今後も政府・外務省は、世論を動かすためにあらゆる手段を使ってくると思います。そういう世論の変化があれば、参議院で否決されても衆議院での強行突破を図る展望が出てくる、という読みを政府・外務省が持つ可能性は十分にあるでしょう。私たちとしては、こういう動きに十分警戒を強める必要があると思います。

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