北朝鮮の核開発と岩国の基地機能移転強化

2006.11.26

* 広島のある団体の機関誌に寄稿した文章を紹介します。北朝鮮の核実験と岩国基地の問題を結びつけて考える視点を持って欲しいと思って書いたものです。内容的には、これまで書いてきた範囲を出るものではありませんが、北朝鮮の核実験と岩国基地問題が無関係でないことを認識していただけたら、という思いで載せておきます(2006年11月26日記)。

2006年10月9日に朝鮮民主主義人民共和国(以下「北朝鮮」)が核実験を行ったという発表は、7月5日の7発のミサイル発射とダブって、既に長年にわたって「北朝鮮脅威」論が浸透してきた日本国内に大きな衝撃を与えた。北朝鮮に対して強硬な対応を一貫して主張してきた安倍首相は、一層対決的な対北朝鮮政策を進めようとしている。

 また、ミサイル発射直後の7月15日に広島県廿日市で開かれた広島県西部首長を中心とする岩国基地に関するシンポジウムでは、米軍基地機能移転強化問題に関し、北朝鮮の行動を踏まえて、機能移転強化に反対することに対する懸念表明が会場からなされたと伝えられた。ましてや、岩国市議選直前とも言える時期に北朝鮮が核実験をしたことは、さらにこの問題に対する市民の投票行動に影響を及ぼすことも十分に考えられた。

それにもかかわらず、10月22日の岩国市議選では基地機能移転強化に反対する候補が市議会の半数を占める(反対派17人、賛成派15人、中間派2人)という結果を出したことは重要な意味を持っている。すなわち、これだけ北朝鮮脅威論がマスコミを席巻し、岩国市民の投票行動を決定するに当たって何らかの影響を与えたはずなのに、岩国市民は、この問題以上に基地機能の移転強化に対してより強い不安と抵抗感を持っていることをはっきり示したと言えるからである。

私は、以下に述べる理由で、岩国市民の投票行動を高く評価したい。つまり、北朝鮮脅威論は虚妄であり、岩国への米軍の基地機能移転強化こそが岩国を含む日本の平和と安全に対して重大な危険を持ち込むから、岩国市民の態度決定は極めて賢明なものだった、と判断するからである。

1.北朝鮮脅威論の虚妄性

北朝鮮脅威論が唱えられるきっかけは、1993年の北朝鮮核開発疑惑とこれを受けた1994年の朝鮮半島一触即発の危機だった。その後、テポドン発射(1998年)、不審船(1999年、2001年)と続いて北朝鮮脅威論が高まったが、小泉首相の訪朝における北朝鮮側の拉致承認(2002年)で、「何をしでかすか分からない」北朝鮮というイメージが北朝鮮脅威論をすっかり定着させた。

しかし、「脅威」とは本来軍事的な意味で使われるものだ。日本と北朝鮮との関係でいえば、北朝鮮が日本を攻撃する「能力」と「意思」を兼ね備えた場合に初めて「北朝鮮の脅威がある」という。7月のミサイル発射で6発が正確に着弾したことは、ミサイル技術の精度向上を意味する。核実験も成功した(訪朝したアメリカの核問題専門家が「一定の成功」と評価)とすれば、北朝鮮は確実に対日攻撃能力を高めた、と言わなければならない。

しかし、問題は意思である。例えば、北朝鮮が日本に対して先制攻撃を仕掛けてくるとする。次の瞬間には、それを絶好の理由にしてアメリカが北朝鮮を大量攻撃で叩きのめすことは目に見えている。北朝鮮もそのことを知り尽くしている。したがって北朝鮮は、日本に対して攻撃を仕掛ける意思はない。北朝鮮脅威論は虚妄であるという所以だ。

では、なぜ北朝鮮は核兵器及びミサイル開発に手をつけるのか。それは、ブッシュ政権のアメリカが、北朝鮮を含む「ならず者国家」を先制攻撃の戦争で絶滅する意図を公然と明らかにしているからだ。例えば、2006年の米国防省「4年ごとの防衛見直し」(QDR)は、「アメリカは、必要であれば軍事力を行使する。このため、国家(筆者注:北朝鮮と読み替えよ)や非国家主体の大量破壊兵器の能力や計画について、その所在を突き止め、…破壊する大量破壊兵器絶滅作戦が重要となる。」と公言しているのだ。

北朝鮮側からすれば、このくだりは、アメリカによる北朝鮮攻撃が何時あっても不思議はないと判断せざるを得ない、血も凍る脅迫的内容と映っているに違いない。アメリカの先制攻撃の戦争を回避するための手段として、北朝鮮が核抑止力開発に邁進するのは、せっぱ詰まった事情があるのだ。北朝鮮の核開発には、私は強く反対する。しかし、北朝鮮をして核開発を止め、非核化の道に戻らせる唯一の道は、アメリカの北朝鮮に対する戦争政策を根本的に改めさせること以外にないことを、私たちはしっかり確認する必要がある。

2.岩国の基地機能移転強化

アメリカが岩国を含む在日米軍基地の再編強化を急ぐのは、ブッシュ政権の先制攻撃戦略と深い関係がある。日本は、対テロ戦略遂行上の要石であると同時に、朝鮮半島有事、台湾海峡有事に対処する上で不可欠の出撃拠点なのだ。以下では朝鮮半島有事に絞る。

アメリカが北朝鮮に対して先制攻撃の戦争を仕掛ける上では、在日米軍基地が決定的な役割を握る。遠い米本土から北朝鮮に戦争を仕掛けることはまったく非現実的だ。在日米軍基地がアメリカの思い通りになって初めて、北朝鮮に対する戦争発動が可能になる。岩国への基地機能移転強化が完成すれば、岩国基地は沖縄の嘉手納基地をしのぐ、極東におけるアメリカ最大の出撃拠点に生まれ変わる。朝鮮有事に際しても、岩国基地は米軍の全面的な出撃拠点の中心の一つとなるだろう。

話はそれだけでは終わらない。手負いとなった北朝鮮は、絶望的な反撃を日本に仕掛けることは間違いない。国民保護計画が想定する核ミサイルが飛来する事態、ゲリラ部隊が日本各地に潜入して原子力発電所などを破壊する事態が実際になる危険性がぐっと高まる。

そのような事態を起こさせないためには、アメリカをして北朝鮮に戦争を仕掛けることができない状況をつくり出さなければならないことが理解されるはずだ。つまり、岩国への米軍の基地機能移転強化を認めないことだ。岩国問題は、単に基地騒音被害問題にはとどまらない。アメリカの先制攻撃戦略の発動の可能性をなくし、日本の平和と安全を全うすることができるかどうかは、岩国市民を含む日本国民が在日米軍基地再編計画を白紙撤回させることができるかどうかにかかっている。つまり、私たちの自覚ある行動によって、アメリカをしてその戦争政策を見直させる確実な可能性があるということなのだ。

私たちの主権者としての判断と行動によって、アメリカは対北朝鮮政策見直しを迫られ、米朝対話が可能となり、北朝鮮が非核化の道に戻る展望が開けてくる。岩国問題で行動する私たちは、北朝鮮非核化を現実の可能性にたぐり寄せるカギをも握っているのだ。

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