ブッシュ大統領の対テロ戦略

2006.09.06

ブッシュ大統領は、8月31日にアメリカ(というより、ブッシュ政権)の対テロ戦略についての見解を表明しました。彼自身の発言によれば、「対テロ戦争における敵の性格、彼らの目的及び野心に関して得た知見、我々が味わった成功と失敗、そしてこの長期戦で勝利するための戦略」については、一連の演説で明らかにすると言っていますので、それらの演説が出そろった段階でまとめて私の分析を示したいと思っていますが、この8月31日の演説についても見逃せない点がありますので、それらについて簡単に指摘しておきたいと思います。

新聞報道でも紹介されたことですが、ブッシュが、「我々が戦っている戦争は軍事的闘争以上のものであり、21世紀における決定的なイデオロギー闘争である」と規定していることは、やはり重大なポイントであると思います。ブッシュは、「彼ら(つまりテロリスト)は、ファシスト、ナチ、共産主義者そしてその他の20世紀の全体主義者の後継者である」という認識のもとにこの発言を行っているのです。ファシスト、ナチと共産主義者を同じ次元に置くという浅はかな認識についてはともかくとして、ブッシュが念頭に置いているビンラディン以下の宗教的狂信者を政治的範疇で用いるべき「全体主義」とごちゃ混ぜにしている時点で、すでにブッシュ(政権)の愚かさが明らかになっています。こういう低劣を極める次元でしか物事を考えられない人物が世界唯一の超大国の最高指導者であるということは、本当に国際社会にとってこれ以上ない不幸と言わなければなりません。このような認識で事に臨む限り、ブッシュの言う対テロ戦争の将来展望は極めて暗いと言うしかありません。

しかもブッシュは、次の発言を臆面もなく行っています。「9.11以前の中東の政治状況は、危険であり受け入れられるものではないので、我々は新しい戦略を遂行しつつある。第一、我々はすべての国力を駆使してアル・カイダ…に立ち向かっている。我々は、テロリズムを法の執行という問題として扱うことをやめた。我々は常に攻勢であり続ける。我々は海外でテロリストと戦うことによって、国内で彼らと対決しなくても済むようにする。第二、我々はすべての国々に対して以下のことを明らかにした。テロリストをかくまうならば、お前たちはテロリストと同罪だ。お前たちは米国の敵である。お前たちに落とし前をつける。(第三は省略)」

なんという身勝手な言い分でしょうか。9.11以前の中東の政治状況は、誰が作り出したのでしょう?ひとえにアメリカの責任ではありませんか!?ビン・ラディンそしてアル・カイダは、優れてアメリカのイスラエルびいきの中東政策の落とし子ではありませんか。誰もが知っている事実を無視して、ブッシュはひたすらアメリカを正当化しなければ気が済まないのです。ちなみに、この点においてブッシュは、かつての戦争責任を決して認めようとしない日本の右翼の発想と酷似しています。

ブッシュの身勝手さはそれだけではありません。ブッシュ演説では、レバノンでイスラエルと対決しているヒズボラをもテロリストと断罪しており、その背後にイランがいるとも明言しているわけで、その脈絡から第二の発言箇所を見れば、それが公然としたイランに対する果たし状としての意味を持っていることが分かるのです。イラクでの泥沼状態からもまだ何も学んでいなとすれば、呆れることを通り越して、空恐ろしさすら感じます。

このようなスピーチの後に更にどのようなスピーチが付け加わるのか。すべてのスピーチが出そろった段階で改めて分析してみたいと思います。

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