4年ごとの防衛見直し(QDR)

2006.02.12

*2月6日にアメリカ国防省が発表した「4年ごとの防衛見直し」は、「2001年のQDR発表以後の変化の過程を反映する」(ラムズフェルド国防長官の巻頭言)ものであり、2001年のQDRのように目をむくような新しい内容があるわけではありません。しかし、「序文」には極めて深刻な国際情勢認識及びアメリカに関する自己規定が行われており、到底見過ごすことはできません。こういう発想が先制攻撃の侵略戦争を正当化する思想的根拠になっているからです。それらの点を中心にしてQDRを検証します(2006年2月12日記)。

序文の最初の文章は、「米国は長期にわたる戦争の中にある国家である」(The United States is a nation in what will be a long war)です。そしてこの文章を説明するものとして、次の文章が続くのです。「2001年9月11日の攻撃以来、我が国家は、武器としてテロリズムに訴え、我々の自由な生活スタイルを破壊しようとする暴力的な過激勢力に対して世界戦争を闘っている。敵は大量破壊兵器を求めており、彼らがそれに成功すれば、世界中の自由な人々との闘いにおいてその兵器を使おうとするだろう。現在、闘いの中心はイラクとアフガニスタンだが、我々は長年にわたって地球上でわが国及びその利益を防衛するために準備を整えていく必要がある。」

序文では、ブッシュ政権が21世紀をどのように認識しているかについて、次のように言っています。「ブッシュ大統領が2001年に政権についたとき、この国(筆者注:アメリカ)はまだ多くの点で冷戦の勝利の余韻を楽しんでいた。…しかし大統領は、我々が予想もできず予見もできない時代に入りつつあることをよく理解しており、国防省の見直しを指示し、新しい世紀に我が軍事力がより適合したものに変革するように求めた。9月11日のテロリストの攻撃によって、国防省を変革する緊要性が強く認識された。」

その結果として米国の世界的な軍事態勢の見直しが行われることになったとも、この序文では指摘しています。すなわち、冷戦時代の「古くさい静的な防衛」から「地球を股にかけた紛争地域に急派できる能力」への転換ということです。序文では触れてはいませんが、在日米軍再編計画がその一環であることはいうまでもありません。

以上の文章から私たちが読み取らなければならないのは次のことだと思います。

ブッシュ政権は、21世紀の国際社会について「予想もできず予見もできない時代」と位置づけているということです。序文では、「新しいとらえどころのない敵」に対決しなければならない「不確実性と不意打ちで特徴づけられる時代」とも形容しています。アメリカという世界唯一の軍事超大国が不信に満ちた目で国際社会をとらえ、アメリカが敵と見なす存在(アメリカが敵と見なせばそれで決まってしまうのです!)には軍事力で襲いかかる姿勢をむき出しにしているのです。

米ソ冷戦時代には、アメリカが野心をたくましくしようとするときにはソ連が牽制し、ソ連が野心をたくましくしようとするときにはアメリカが牽制するといういわゆるバランス・オブ・パワーが働いており、極端な軍事力行使が抑制される結果になっていました。しかし今や、唯一の軍事超大国・アメリカの行動をチェックするだけの機能を国際社会は持ち合わせていません。そういう状況におけるこのアメリカの国際認識及び軍事力行使をいとわない姿勢ということは、本当に危険なことだと思います。

本文では、中国と北朝鮮に対する露骨な警戒心が表明されています。

中国については次のように言っています。「中国の軍現代化は、台湾有事シナリオに対する軍事的な選択肢の幅を広げるという中国指導部の要求に応じて、1990年代中頃以降加速している。中国の軍事力増強は、すでに地域の軍事バランスを危うくしている。」いつ戦争があっても不思議ではないといわんばかりです。QDRには中国を総合的に見る視点が欠落しています。

北朝鮮との関連では、次の文章があります。「米国は、可能なときはいつでも平和的協力的方法を用いるが、必要であれば軍事力を行使する。このため、国家や非国家主体の大量破壊兵器の能力や計画について、その所在を突き止め、…大量破壊兵器絶滅作戦を行うことが重要となる。」「国家」とあるところを「北朝鮮」と読み替えれば、北朝鮮に対して先制攻撃の戦争をふっかけることにためらいがない意図があけすけに見えてきます。

在日米軍再編計画そしてその基礎にある日米軍事同盟の変質強化は、正にそういうアメリカの攻撃的な戦略を可能にするために進められているということを知らなければなりません。

憲法「改正」を目指す動きは、日本を「戦争する国」にし、対米軍事協力にのめり込む道を選択しようとするものです。それは、国際社会を平和で安定したものとするのではなく、疑心暗鬼に満ちたアメリカの国際情勢認識に基づいて暴力で世界を取り仕切ろうとするアメリカの動きに無条件で従おうとする危険きわまるものなのです。QDRは、そういうアメリカの意図を余すところなく示しているという点で、改憲問題の是非を考える私たちとして、決して無視することができない文書であると思います。

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