衆議院総選挙に思うこと

2005.09.03

*新聞のコラム用に書いたものです。今回の衆議院総選挙に関する最大の争点の一つは憲法改正問題と在日米軍の再編強化問題でなければならない、という問題意識を示したものです。このコラムを見てくださる人たちが、私の問題意識を共有してくださることを心から願っています(2005年9月3日記)。

郵政解散直後のメディアの報道ぶりを見て、本当に暗然とした気持ちになった。郵政反対派の選挙区にタレントまがいの「刺客」候補を送り込む小泉首相の、民主主義とは無縁な「劇場型政治」の手法に関心が奪われ、紙面は自民一色に染められた。しかも、今度の総選挙は「郵政改革を支持するか否か」のみが唯一の争点であるかのように描き出そうとする小泉首相の手法にも、多くのマスメディアが流されそうな雰囲気も醸し出され、本当にこの国はどうなるか、ということまで考えざるを得ない。

幸いなことに、この異常な雰囲気は次第に是正される方向に向かっているようだ。世論調査の結果を見ても、小泉首相の手法に対する国民の目は批判色を強めている傾向が窺われるし、他の政党が、自民党に対抗して、今回の総選挙の真の争点として掲げる問題に対するマスメディアの扱いもまずまずのものがあり、「郵政解散」の後遺症は払拭されつつある。

野党各党が強調するように、今回の総選挙の直接の争点は、4年強に及ぶ小泉政治に対する審判でなければならない。それほど、小泉政治になってからの日本社会は、弱者に厳しくなる一方での「改革」が進められてきた。こんな政治が本当に日本社会をよくすると、誰が本気で言えるだろうか。有権者の良識に期待する。

今回の総選挙の意義は、より根本的にいえば、この総選挙によって選出される議員から成る国会によってこれから4年間の国政が担われるということだ。一部の野党が指摘しているように、郵政問題が何らかの形で一段落すれば、待ちかまえている直近の問題は在日米軍の再編強化であり、より根本的には憲法「改正」問題である。自民党、民主党の2大政党(両党には9条改憲を含めた憲法「改正」論者が多い)が在日米軍再編問題、改憲問題にまったくと言っていいほど触れない選挙戦を戦おうとしていることは、どう見ても争点隠しであり、私としては到底承伏しかねる気持ちになる。

私はすでに数年前から、総選挙や参議院選挙のたびに、改憲問題、安全保障問題が最大の争点として位置づけられる選挙の必要性を主張してきた。今回やっと、共産党と社民党が改憲問題を総選挙の争点として前面に押し出す選挙戦を展開していることは、私の問題意識からいえば、遅すぎたという感を否めない。しかし、マスメディアもそれなりに両党の主張を反映した報道を心がけている節が見受けられるので、やっと改憲問題に国民の関心が向かうという状況が出てくるという意味で、それなりの前進であると評価できる。国会内の密議で改憲問題が扱われてきた極めて不自然な状況が、今回の総選挙を機会に改められる契機になってほしいと心から願う。

ただし、改憲問題を最大の争点の一つとして提起している政党からも、改憲問題と密接に関連している在日米軍基地再編強化の問題についてはほとんど主張が聞こえてこないのは遺憾というほかない。再編強化問題は、突然の総選挙の影響を受けて当面動きようがない状態に陥っているが、官僚たちの準備作業は着々と進んでいるはずだし、総選挙後は重要問題として浮上することは目に見えている。

憲法問題を重視し、この問題に関する判断基準に従って自らの投票を行うことを選挙民には望みたい。そして在日米軍再編強化を認めるのか否かをももう一つの判断基準として、自らの投票行動を決定してほしい、と心から願う。