平和憲法と日中・日韓関係

2005.05.11

*2005年4月17日にある集会でお話ししたものを主催者がテープ起こしをしてくださいましたので、かなり手を入れてまとめました。これまでにこのコラムで紹介してきた韓国及び中国の指導者の発言に関する私の理解を表したものとして紹介します(2005年5月11日)。

1 韓国と中国の『反日デモ』の危機感

お手元に用意したレジメに従ってお話しようと思っていたのですが、韓国と中国で、日本のメディアは「反日デモ」と言っていますが、そういう行動が激しく行われていて、この時期にこういう運動が行われるのは何故か、ということを考えなくてはならないと思われますので、必ずしも、レジメに沿わない形で話をしたいと思います。

韓国と中国のホームページにアクセスしまして、問題の所在が理解できるようになって来ました。日本では、昨日(4月16日)の上海での抗議運動を『暴徒化した民衆の行動』と報じて、見る者が中国に対して反感を持つほかないような報道がなされていますが、私はこういう報道姿勢に違和感を覚えています。もちろん私も、北京や上海で起こった中国の人たちの暴力的な行為には反対です。しかし、その感情だけに終わるのではなく、大事なのは、こういう運動がなぜ起こっているのかの原因を考えることではないのかと思います。

韓国では3月1日に、この3月1日というのは独立運動の記念日となっている日ですが、盧武絃(ノムヒョン)大統領が記念演説を行っています。3月17日には韓国の国家安全保障会議常任委員会の声明文が日韓関係について声明を発表しています。3月23日には盧武鉉大統領が国民に対して呼びかけを行っています。日本で進行している改憲への動き、自衛隊の海外派兵、「つくる会」教科書の検定合格、『竹島』彼らの言う『独島』の島根県による条例設定、これらの動きを危険な一体のものと捉えていることが、これらを見ていると、手にとるように分かるのです。

これらの演説などから感じるのは、日本国民に対して呼びかけるという姿勢が強いということです。民主国家であるはずの日本の主権者である国民が歴史の逆流を押さえ込む運動を進めてくれないと大変なことになる、という意味がこめられているのです。このような韓国側の問題意識は、私たちが、改憲を目指す人々に対して警戒感を持って受け止めていることと、内容的にぴったり一致します。韓国の日本国民に対する必死な呼びかけを受け止め、私たちの行動を強くしていく糧にしていくことが必要ではないかと思います。

日本と中国の関係については、温家宝首相が3月14日に全国人民代表大会のあと記者会見した時に発表した『中日関係3原則』がありますが、この2,3日の間にも、次々と新しい発言が出ています。4月12日には、唐家譴(中国の外務大臣をした人で駐日大使もしたことのある人ですが)が共同通信社長に行った長い発言が出ています。また、『恥ずべき歴史を勇気を持って認めるドイツ』と『日本はどのような反省が乏しいのか』という文章も掲載されています。中国政府寄りではない香港の『明報』という新聞でも、『日本の不健全な心情と中日間の紛争』という論評が出ています。日中間には東シナ海の石油採掘問題とかもありますが、根本において、日本の歴史認識の誤りを何とかして貰わないとどういう方向に進むかわからない。そういう日本に対して警戒感を持たざるを得ない』と書いています。

今、日本には、憲法に即して見ても、いろいろ考えなければならない問題があります。日本の改憲派の人たちを動かしているエネルギーは、昔の日本に戻すという間違った歴史認識でありますが、最近の日本側の一連の行動によって、日本の侵略・植民地支配を受けた韓国・中国に危機感を募らせていることを私たちは知らなければならない。いわゆる反日行動の根源にあるのは、単なる腹いせによる素朴な感情ではなく、これから日本はどこに行こうとしているのか、ということなのです。侵略戦争・植民地支配で近隣諸国に多大な被害を与えた日本としては、アジア諸国民の期待を裏切らないようにするためにも、憲法を守る行動をより強めなければならないと思います。

これから紹介する3つの文献については、韓国大使館のホームページを開けば日本語で出ていますし、中国のものも日本語版のホームページで見ることができます。是非ともこれらを見ていただきたいと思います。

2 韓国・盧武絃大統領の3月1日演説の内容

3月1日の盧武絃(ノムヒョン)大統領の記念演説については、島根県議会が『竹島の日』の制定を発表したことをきっかけに出されたもので、「これまで、わが政府は国民の憤怒を煽らないよう節制し、日本との和解・協力のために積極的に努力を払ってきました」、「私はこれまでの両国関係の進展を尊重し、過去の歴史問題を外交的な争点にしない、と公言したことがあります。そして今もその考えは変わっていません」、「しかし、われわれの一方的な努力だけで解決されることではありません。二つの国の関係発展には、日本政府と国民の真摯な努力が必要です。過去の真実を究明して心から謝罪し、賠償することがあれば賠償し、そして和解しなければなりません。それが、全世界が行っている、過去の歴史清算の普遍的なやり方です。」この言葉がキーワードのようになっています。

今「普遍的なやり方」は、ドイツだけではなくオーストラリア、ニュージーランド、アメリカ、カナダ、バチカン、フランスと広がってきている。そういう傾向に対して、日本だけは「普遍的なやり方」を受け入れていない。盧武鉉大統領は、「私は拉致問題による日本国民の憤怒を十分に理解します。同様に日本も立場を変えて考えてみなければなりません。日帝(注:日本帝国主義)36年間、強制徴用から従軍慰安婦問題に至るまで、数千、数万倍の苦痛を受けた我々国民の憤怒を理解しなければならないのです」と述べています。日本では、強制連行の問題、従軍慰安婦の問題はなかったことにしようとする、特に従軍慰安婦の問題については教科書に書かせない検定を行ったのですから、朝鮮の人たちからすれば、数千、数万倍の規模で日本はやっていたではないか、こういうことを本当に考える気持ちがあるのか、ということを韓国の大統領が言っているのです。

盧武鉉大統領は、次のようにも言っています。「日本の知性にもう一度訴えます。真実なる自己反省の土台の上に韓日間の感情的なしこりを取りのけ、傷口が癒えるようにするため、先立ってくれなければなりません。それこそが、先進国であると自負する日本の知性的な姿です。そうしなければ、過去の束縛から抜け出すことはできません。いくら経済力が強く、軍備を強化したとしても、隣人の信頼を得て国際社会の指導的国家となるのは難しいことです。ドイツはそれをしました。そして、それだけの待遇を受けています。彼らは自ら真実を明らかにして謝罪し補償するという道徳的な決断を通じて、EUの主役に乗り出すことができたのです」。

私は25年間、外務省で仕事をしてきましたが、日本が関わらないケースを含めても、2国間で、しかも首脳レベルで、これほど率直で、鋭い問題提起をした例を見たことはありません。しかし、どれだけの日本の人が、このメッセージを聞き及び、全面的な姿で理解し得たでしょうか。雑誌『世界』には載ったということですが、一番日本に近い隣国である韓国の大統領が、このメッセージを発していたのに、多くの日本人に何も伝わっていないということは、異常だというほかありません。

3 韓国国家安全保障会議常任委員会の3月17日の声明

                                      

次に、3月17日の国家安全保障会議常任委員会の声明ですが、もっと厳しい内容になっています。「我々は、不幸な過去の束縛から抜け出し、未来に向かって協力していこうとのメッセージを日本政府に継続的に伝えてきた。これは、過去の歴史問題をめぐり、被害当時国が加害国に度量を示したものであった。我々は、外部の圧力によらない、人類の普遍的な価値に基礎を置いた日本自らの努力を求めてきた。このような脈絡から、昨年7月の済州島定期会談で、現政府任期中には過去の歴史を外交の争点として提起しないという意思も明らかにした」と述べた上で、次にこう言っています。「我々は普遍的な常識に照らして、日本は我々の善意に対して、両国間の古来よりの繋がりを思い起こし、自らが過去の歴史問題を論点として取り上げるであろうという、当然の期待を持っていたのである。」

ここまで言えば、日本がどうするべきかは韓国側が一々言わなくても分かるでしょう、ということです。韓国側としては、「過去の歴史を外交の争点として提起しない」ということによって、日本が自分で自分の問題として処理することを期待していたのです、ということです。そういう期待が内にこもっていたからこその発言だったのです。

声明文は、さらに次のように言います。「しかし最近、日本が取った一連の行動は、東北アジアの平和勢力として、隣国と共存する意思があるのだろうかという根本的な疑念を我々に抱かせている。むろん我々は、日本国民の多数が過去の反省を忌避し、一部の国粋主義者らの言動に同調しているとは見ていない。しかしながら、日本の指導層の一部に時代錯誤的な歴史観を土台とした一種の退行的な言動がむしろ増加していることは、厳然たる事実である。そして、過去の侵略と強権の歴史を美化する歴史教科書が、是正されないまま中央政府の検定を通過するという事態に大きな懸念を抱いている。そして日本政府は、過去の植民地侵略過程において強制編入し、(1945年の)解放によって回復された韓国領土に対する領有権を主張している。」これは竹島のことです。「これは単純な領有権の問題ではなく、解放の歴史(日本の植民地政策が否定された歴史)を否定し、過去の侵略を正当化する行為に相違ない」としています。

そして声明文は、「未来志向的な関係構築のため、韓国政府が過去の歴史に対する新たなアプローチを模索している時期に、逆に日本国内でこのような退行的な動きが続いていることを我々は非常に遺憾とする」としています。「これは韓日善隣友好関係に対する深刻な毀損行為であるとともに、東北アジアの平和繁栄を望んできた近隣国家すべての願いに逆行するものである。」したがって、「このような認識と立場を土台として、(韓国)政府は今後韓日関係に臨むこととする」として、次の4点を挙げています。

  • (1)「政府は今後、人類の普遍的な価値と常識に基礎を置いた韓日関係を構築する。」つまり、日本の勝手な歴史解釈は許さないということです。続けて「このような次元で、<徹底した真実究明、真の謝罪と反省、そして許しと和解>という世界史的に普遍な方式に立脚して、過去の歴史問題を解決していく。」これまでのような日本の自分勝手な対応は見過ごさないとしているのです。
  • (2)「政府は、最近、日本の一部地方で起きている、独島(竹島)や歴史についての一連の動きを、過去の植民地侵略を正当化しようとする意識を内在した、重要な問題とみなし、断固として対処する。」
  • (3)「政府は、我々の大義と正当性を国際社会に堂々と示すために、あらゆる努力を払い、その過程で日本の態度変化を促す。」
    盧武鉉大統領は、3月20日にアメリカのライス国務長官と会談した際に、竹島をめぐる韓国の立場の正当性について熱弁をふるい、日本の歴史教科書の問題も取り上げたと報道されています(4月2日付朝日新聞広島版)。上記(2)及び(3)の声明文を踏まえれば、決して思いつきの発言ではないことを認識することができます。
  • (4)「政府は、東北アジアの平和と繁栄を追求するために、現在および未来においても、宿命的なパートナーである日本と、すでに合意され、予定されている外交的な興隆を継続し、経済・社会・文化・人的な交流は変わりなく増進する。」日本に対して原則的な姿勢で臨む一方で、冷静な外交・交流は続けると言っているのです。韓国側が感情に流されて、日本に対して強い姿勢で臨もうとしているのではないことがここから理解することができます。

声明文は、以上の基本的態度の下で、当面の韓日関係に対応する方針を5点に整理して述べています。その中でも、日本国民である私たちとして特に傾聴しなければならないと思うのは、「国際社会及びに日本の良心的な勢力と連帯し、時代錯誤的な歴史歪曲を正し、同時に、歴史についての正しい共同認識を形成できるよう、可能なあらゆる手段を活用して対処する」としている点です。すなわち、韓国側の対日政策・認識に中に、私たち国民と連帯して事に当たりたいとする強い気持ちがあることは明らかだということです。この呼びかけに対して私たちがどう考え、どのような答えを出すかを真剣に考えなければ、韓国側の期待を裏切ることになると思います。付け加えて指摘しておく必要を感じるのは、日本のどのメディアも、これだけ正面からの韓国側の真剣な日本国民に向けた呼びかけがあることをまったく伝えていないということです。

4 盧武鉉大統領の韓日関係に関する3月23日の対国民談話

盧武鉉大統領の韓国民に対する談話は、日本に対する国民の怒りともどかしさを「少しでも和らげよう」という思いから書いたものです。大統領は国民に対し、「今回はこれまでと違う形でいくつもりです。正しい対応を取っていきます。もちろん感情的な強硬策はとりません。戦略を持って慎重に、かつ積極的に対応していきます。途中でうやむやにすることもありません」と約束しています。

大統領は、「日本はこれまでに自衛隊の海外派兵の法的根拠を整え、今や再軍備に関する議論を化発に進めています。これらは我々に苦しい過去を思い出させ、未来を不安にさせています」と切り出しています。過去を清算しない日本の軍事大国化へ向けての動きに対する深刻な憂慮の表明です。

小泉首相の行動に対しても、盧武鉉大統領は、率直な認識を表明します。「厳密な意味で、謝罪は真の反省が前提になるものであり、それに相応しい実践が伴わなければなりませんので、小泉首相の(靖国)神社参拝は、これまでの日本の指導者らが行ってきた反省と謝罪の真意を損なうものです。」

そういう憂慮・認識があったけれども、韓国政府が外交の争点としたり、対応措置を取らなかったのは、「日本の指導者らが口癖のように繰り返す『未来志向的韓日関係』のためでした」という盧武鉉大統領の発言からは、小泉首相の無責任を極める口癖である「未来志向」に対する痛烈な皮肉が混じっているのを読み取ることは難しいことではありません。

しかし、竹島問題や教科書問題によって、「今はこれ以上見過ごすことのできない事態となってしまいました」と、盧武鉉大統領は言います。なぜならば、「これらの行為は、一つの地方自治体や一部の非常識な国粋主義者らの行為にとどまらず、日本の執権勢力と中央政府のほう助の下で行われて」いる、と大統領が正確に事態の本質を捉えているからです。だから、「我々はこれらを日本の行為としてみなすしかありません」し、「こうした行為は、これまでの日本の反省と謝罪を全て白紙化に戻す行為」である以上、「韓半島と東北アジアの未来がかかっている問題」として、「断固として対応」するという決意表明になっているのです。

盧武鉉大統領は、「これらの行為は、日本のほとんどの国民の考えと異なるもの」と、一応日本の「執権勢力」と一般国民とを区別する認識を示しています。しかし続けて、「政治指導者が煽り、間違った歴史を教えるようなことが続けば、状況はすぐに変わりうるでしょう」とも述べています。日本国民の流されやすい国民性をも見据えた発言として、私たちとしては襟を正す必要があるのではないでしょうか。

大統領は、まず外交的に「断固とした対応」を取るとし、「(日本政府によって)聞き入れられるまで、休まず粘り強く要求」することを韓国の国民に約束します。さらに大統領は、「国際世論を説得」することに言及しています。そこには、国際政治の現実は権力政治が支配していることを認めながら、「しかし他方では、国際社会は、互いに尊重しなければならない普遍的価値と秩序を強調する方向へと漸次的に進んでいるのも事実」という認識に立って物事を考えようとしている大統領の国際観の裏打ちがあります。このような国際観こそ、平和憲法が基礎をおくものであり、盧武鉉大統領がわざわざ述べる以前に、私たち日本人が率先して実践していなければおかしい、と私は本当に心が痛む思いがしました。

極めつけは、次の盧武鉉大統領の言葉です。「何よりも重要なのは日本の国民を説得することです。究極的な問題の解決のためには、日本国民が歴史を正しく理解し、韓日両国と北東アジアの未来のために、日本が取るべき道は何であるのかを正しく理解しなければなりません。それによってこそ、日本政府の政策が正しい方向を定めることができるのです。」

私は、盧武鉉大統領のこの言葉を読んで、韓国における民主主義の成熟と、形だけは民主主義かもしれないけれども、内実がまったく伴っていない日本の実情とを痛切に感じる思いでした。大統領は韓国の民主化の成熟については何も言っていませんが、韓国では国民がすでに政治の主人公になっているという確信が大統領にあればこそ、同じレベルでの日本国民の政治意識を当然視した上での発言だと理解したからです。

5 中国の唐家譴国務委員の共同通信への見解

4月15日の中国のホームぺージで紹介されている中国の唐家譴国務委員の発言は、共同通信の社長と会談した際のものです。共同通信から配信された中国新聞にも、この会談のことは出ていました。しかし唐家譴が述べた発言の詳しい内容はなぜか出ていませんでした。しかし、この会談の中で唐家譴は、日中関係に関する中国側の主張をはっきり述べているのです。

冒頭「中日関係は歴史的な岐路に差しかかっている」として、「歴史問題と台湾問題は中日関係の主な問題である」と指摘しています。そして「国民相互間の感情は悪化している」という認識を示しています。今年は日本では終戦60週年ですが、中国側から見れば中国人民の抗日勝利60周年であり、中国側には中日関係を発展させる誠意と決意があるけれども、そのためには日本政府の協力と努力も必要としていると強調しています。

台湾問題では、日本政府の最近の傾向に強い警戒感を示しています。いわゆる2+2会合で、台湾海峡の平和と安定が日米共同の戦略的目標だとしたことは、中国側からすれば、著しい内政干渉であると受けとめています。いざ「台湾独立」などということになれば、米中戦争は不可避である。その場合、日本はアメリカの側に立ち、戦争に参加するだろう、と見ています。

次に小泉首相の靖国神社参拝を挙げています。「もしもわれわれが両国関係の改善を望むならば、靖国神社参拝の問題は避けて通ることは出来ない。日本の政治首脳、小泉首相自らが政治的決断をすべきである」と言っています。また教科書問題については新しい歴史教科書をつくる会の教科書が検定に合格したことを、日本の残虐行為を美化するものと見ておりますし、その核心は、軍国主義時代の侵略の歴史を正しく認識し、対処できるかどうかであり、日本の将来、世界の人々の日本に対するイメージと関わる、としています。

ガス田開発の問題にも触れていますが、日本の国連安保理常任理事国入りをめぐっては、「中国としては、日本が政治的信頼性を勝ち取り、近隣諸国の支持を得ることによって国連常任委員会の永久議席を得ることを望んでいる」としています。常任理事国になることに絶対反対ということではないのです。近隣諸国の人民の政治的信頼を得ることが何よりも必要であるということは、韓国の主張と共通しています。

6 ポツダム宣言と憲法9条

以上の韓国及び中国からの問題提起を見るにつけても、日本が無条件降伏した際に受け入れた『ボツダム宣言』は何を日本に要求したのか、について改めて考える必要があるのではないでしょうか。

ポツダム宣言は、「日本国国民ヲ欺瞞シ之ヲシテ世界征服ノ挙二出ズルノ過誤ヲ犯サシメタル者ノ権力及勢力ハ永久二除去セラレザルベカラズ」と言っています。軍国主義の要素を清算することが対日要求の根幹に座っていたわけです。これを受け入れて、日本は無条件降伏をしたのです。

国立国会図書館のホームページに『日本国憲法の誕生』というページがあります。その中では、『マッカーサー3原則』について、次のような説明があります。最初に政府が作った憲法草案(松本委員会案)は、「民主主義的傾向ノ復活強化二対スル一切ノ障害ヲ除去スベシ」というポツダム宣言の趣旨に沿っていなかった。明治憲法の焼き直しであった。それでマッカーサーは、GHQの民生局に対して憲法草案の作成を命じたのです。その際マッカーサーは、「マッカーサー3原則」と呼ばれる指示を出したのですが、その一つが第9条の原型でした。

過去を繰り返さないことを韓国も中国も求めています。ポツダム宣言を受け入れて生まれ変わることを国際社会に誓ってできたのが平和憲法ですから、かつての「戦争する国」への復帰を目指す改憲の動きは決して受け入れてはならないことが理解されるはずです。それは国家を挙げての国際社会に対する誓約にも反するものです。その重みを原点にさかのぼって認めるならば、憲法前文と9条を変えさせてはならないことが分かると思います。

7 平和憲法に対する正しい認識を

私たちの間には、「平和憲法があったから、日本はこれまで平和であった」ということが言われますが、私の認識は違います。平和憲法があるにもかかわらず、日本は朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争に参加してきました。確かに日本人は戦争で直接手を汚していないかも知れませんが、日本がアメリカに基地を提供していなかったならは、ベトナム、イラクにおける戦争は防ぐことができたかも知れないのです。

平和憲法があったにもかかわらず、私たちは戦争をして来たのです。しかし、これ以上、アメリカの血にまみれた政策についていくわけにはいかない。そのためにはやっぱり平和憲法に戻らなければならない。そのような認識を確立しなければならないのではないか、と私は強く思います。

平和憲法と国連憲章との関係ですが、国連は正義の味方である、その国連が武力行使を認める場合がある。そのために妨げになるのなら第9条も見直すべきではないか、という議論が幅を利かせています。しかし、国連憲章は武力行使については各国に一切の義務を課していません。国連は正義の味方だということも、無条件に正しいわけではありません。国連も間違ったことをしてきています。あくまでわれわれの判断基準は日本国憲法であり、弟9条であるということです。平和憲法に基づいて事の是非を判断する観点を確立すれば、「軍事的国際貢献」論に起因する憲法改正論に対しても、堂々と戦えると思います。

RSS