北京の若い友人への返事

2005.04.12

*北京からの若い友人の緊急報告に対して、以下の返事を出しました。もっとじっくり考えた上での返事を出すべきなのですが、今の私には、時間的にこれが限界ですので、申し訳ありません(2005年4月12日)。

>>> ご存知の通り、今北京は大変な状態です。先生は日本におられて今回の一連の事件に ついてどのような感想をお持ちですか?

私の感想は、長い間心配してきたことがついに現実になってきたな、という言葉に尽きます。思えば、教科書事件(1982年)以来、中国側は、日本の歴史無視の体質(?)に危機感を抱き、国内的に歴史教科書を強める動きを本格化させるとともに、日本側に対しては、「過去を鑑として未来に向かった日中友好関係の構築を」というメッセージを常に発信し続けてきました。ところが日本側は、このメッセージの前段には目もくれず、ひたすら「未来志向」を唱えてやりすごしてきました。日本側が前段の部分を無視するだけにとどまっていたときは、中国側もそれなりに我慢する余裕があったと思うのですが、日本国内の右翼的ナショナリズムの高まり(「新しい歴史教科書を作る会」、自民党や民主党の若手を中心にした親台的動き、そして極めつきともいうべき2001年以後の小泉首相による靖国参拝、最近では2+2声明における台湾問題への公然とした言及)が、一連の事件(チチハルの毒ガス、西安での寸劇事件、珠海での集団回春事件)とあいまって、中国人の対日感情を強く刺激し、いつ何があっても不思議はない状況を生んでいたと思います(今から振り返れば、アジ・u栫毆)・カップはその予兆とみることもできますね)。

>>> 学生の立場から今回の反日デモを考えてみました。

>>> 日本を取り巻く環境も厳しいものとなっています。実は今回のデモには多くの韓国人が参加していました。連携しているんです。韓国人は「釣魚島は中国のものだ!」と 主張し、中国人は「独島は韓国のものだ!」と主張、メディアでは中韓は連携して反日運動を国際化する責任がある!といった感じです。

> 加藤さんのこの報告の中で私が一番注目したのは、この部分でした。私は、ノ・ムヒョン大統領の3月1日の記念演説、韓国安全保障会議の韓日関係に関する3月17日の声明文、そしてノ・ムヒョン大統領が3月23日に出した国民向け談話を注意して読んだのですが、韓国では大統領が対日批判の先頭に立つ事態になっています。3つを通じていえるのは、日本の曖昧を極める歴史認識をこれ以上許しておく訳にはいかないという切迫した状況判断ですが、特に23日の談話では、自衛隊の海外派兵や再軍備論議(改憲問題というと内政干渉になるので、こういう表現を使ったのでしょう)、靖国、竹島、歴史教科書(安保理問題については「日本が世界秩序を主導する国家になろうと思えば、国際社会の信頼を回復しなければならない」という間接表現)をあげて、これからは日本に対して毅然とした姿勢で臨むことを明らかにしたものでした。

> 私は、中国で起こったデモで掲げられているスローガン(テレビを通じて確認しただけですが)が、ノ・ムヒョン談話であげられたものと一致していることに注目します。加藤さんのメールが指摘するように、領土問題に関しては、中韓の連携も示されているのです。

> 私は以上のことから、今回の中国での反日行動は、韓国国内の動きに触発された中国人が計画し、インターネットという媒体を通じて呼びかけて実現させた、これまでにない注目すべき性格(国際性とメディア媒体の駆使)を持ったものだと思います。そこには、韓国では大統領が先頭に立っているのに、中国の指導部はまだに得きらない姿勢にとどまっていることに対する中国人の不満という要素も加わっているでしょう。反日行動に対する中国当局の対応がきわめて微温的なものにとどまった(今後がどうなるかは別ですが)のは、やはりノ・ムヒョン大統領の明確な政策・施政に対する、中国政府の「(対国民との関係での)後ろめたさ」が働いている可能性も感じます。

>>>日本はアジアで孤立化してしまうかもしれません。

> 韓国と中国における反日行動が客観的に持つ対日メッセージを正確に受け止めなければ、あなたのおそれる事態がこれから次第に日本外交に重くのしかかってくることは避けられないでしょう。残念ながら、日本政府はもちろん、日本の政界、財界、そして広く国民一般が、メッセージの核の部分、すなわち歴史認識を正し、自らの行動のあり方を全面的に再検討すること(つまり日本の外交の根本的転換)の必要性を認識する可能性は決して高くありません。

>>>アメリカも9月までの安保理改革については期限>>を延ばすと表明、その直後アナンが日本に対して、「常任理事国入りの前に、隣国と良好な関係を築くように」と警告、

> 今回の韓国と中国の反日行動は、歴史認識を正そうとしない日本が安保理常任理事国入りの資格に欠けることを浮き彫りにしました。アメリカの意見表明は、そういう対日認識に裏付けられているわけではない(もっぱら、アメリカの対国連、対アナン政策に基づくもの)ですが、アメリカと中国がアナンの提唱した、9月中に結論を、という提案に水をかけたことの客観的意味は大きいといわざるを得ないでしょうね。

>>> その直後に中米間での「高級官僚級における様々な領域に及ぶ会談の定期化」が結ばれ、中米の距離が一気に近くなった感じです。

> 米中関係については、最大のガンは台湾問題です。米中関係はこれからも紆余曲折が続くと思うので、一つ一つの動きによってあまり基本的判断を誤らないようにする必要があると思います。台湾問題が解決しない限り、米中関係が決定的に好転するということはまず考えにくいというべきでしょう。

>>> ただ僕は今回の一連の事件はある意味いい機>>会だと捉えています。日本の政府、政治家、メディア、そして国民などにとって、今後どう中国などのアジアと付き合っていくのか、日本という国家はどうあるべきなのか、日本の平和と発展という観点からどのような国際環境を自ら創造していくのかを考えるいい機会になればと思います。国民が反自民党デモを起こすほど今回の事態の重大性を深く強く受け止めることを心から祈っています。

> 本当に今の事態が深刻を極めるからこそ、「災いを転じて福となす」ということにしなければなりません。そのためには、何よりもまず日本人の歴史認識を正すことです。小泉首相の靖国参拝を肯定する人が否定する人の数を上回ったという世論調査の結果も出ているのです。本当に、ノ・ムヒョン大統領が述べた次の言葉を、日本人のすべてが重く受け止め、実践することが出発点にならなければならないと、痛感します。

> 「二つの国の関係発展には、日本政府と国民の真摯な努力が必要です。過去の真実を究明して心から謝罪し、賠償することがあれば賠償し、そして和解しなければなりません。それが全世界が行っている、過去の歴史清算の普遍的なやり方です。」

> 体にくれぐれも気をつけてお過ごしください。そして、日中関係の歴史的転換点の渦中に身を置いている、ある意味願っても得難い今のチャンスを最大限に有意義なものにしてください。

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