アメリカとの接し方

2004.10.16

*この文章は、ある地方紙に寄稿した原稿です。実際に紙面に載るものは、原文にある過激性(?)をかなりやわらげるものになりました(保守性の強いその地方の読者にあまり刺激的な表現ではまずい、という趣旨の編集者の親切な忠告に、私も素直に従いました)。しかし、このコラムには、私の当初の原稿をそのまま掲載することにしました。

10月14日に、小泉首相は報道各社のインタビューに答え、「他国の選挙に干渉したくないが、ブッシュ大統領とは親しいからね。頑張っていただきたいね」と発言したそうです(10月16日付『しんぶん赤旗』)。まさに、私がこの文章で言及したブッシュ大統領と小泉首相の確信犯としての共通性を自ら認めるもので、失笑してしまいました。ケリーが勝利したら日米関係をどうするつもりか、という子どもでも分かるような初歩的な外交感覚すら持ち合わせていないこの発言は、小泉首相が一国の指導者として完全に失格だという重大な問題を露呈していることも併せて触れておきたいと思います(2004年10月16日記)。

アメリカはもともと、理念の国だと言われてきた。最近読んだコラムニスト(ロジャー・コーエン)の文章にこうあった(9月4−5日付インタナショナル・ヘラルド・トリビュン紙)。「長い間、アメリカは、自由を脅かす敵に対抗して、自由を世界中に広めることを天職だと自己規定してきた。その敵とは、ナチスであり、次には共産主義者であり、今や聖戦の戦士(筆者注:テロリスト)である。」そこには、確信犯的な自由信仰に陥りやすいアメリカ人の一つの顔がある。

しかしアメリカ人には、もう一つの顔がある。それは、理性に基づいた自由を重視する人々の存在だ。もう一人のコラムニスト(ポール・クルーグマン)はこう言っている(同日付同紙)。「今や明らかなことは、ブッシュは、(大統領選挙)キャンペーンを恐怖心(を煽ること)に基づいて行おうとしているということだ。少なくとも私の見るところ、それは功を奏している。彼らが権力掌握を確固としたものにした時に何を行うのかを考えると、私は心底怖くなる。」

こういう良心的な考え方の持ち主が今の日本に極端に少ないこと(確信犯・小泉首相の言動に疑いももたず、流れに身を任せる人が日本にはいかに多いか)をダブらせて考えるとき、クルーグマンの言葉を読者に提供するアメリカに、私はまだ一抹の希望を覚える。しかも、大統領選が大接戦の様相を呈していることは、少なくともアメリカ人の半数近くが、確信犯的な自由信仰に潜む危険性を自覚的あるいは本能的に察知していることを示している(この点でも、時流に押し流されることに不審感すら覚えない人が多い日本とは大違いだ)。

こういうアメリカと、私たちはどう接することが求められているのか。

理性に基づいた自由という観念を我がものにしている西欧諸国(筆者注:ソ連の圧政から解放された旧東欧諸国では、抽象的自由の象徴としてのアメリカに対する期待感がまだ働いている)では、ブッシュ(確信犯的な自由信奉者の代表)に対する不信感はきわめて大きい。米欧関係は、かつてない亀裂の度を深めている。民主党のケリー候補に対する積極的な期待感(ケリーの優柔不断な言動は決して安心材料とはなっていない)よりも、ブッシュが更に4年間も世界最強のアメリカの大統領職にとどまったならば世界は一体どうなってしまうか、という不安感が西欧諸国を覆っていると言っても過言ではない。

私は、確信犯的な形で自由を奉じるブッシュ以下の人々によって支配されるアメリカ政治に対して示される、上記クルーグマンの恐怖感とまったく同じものを、小泉政治に代表される日本政治の前途に対して感じている。自由に建国の理念をおくアメリカと、自由という観念すら健全に育っているとは言えない日本とでは、政治的土壌はまったく異なる。しかし、確信犯という点で、ブッシュと小泉首相は非常に共通する体質の持ち主だ。しかも、ブッシュ政治に対して警戒感を覚える国民が約半数を占めるアメリカとは異なり、多くの国民が保守政治の危険性に気づいていない日本の前途は、アメリカ以上に危険に満ちている、と言わなければならない。

そういう日本の現状を踏まえつつ、アメリカといかに接するか、という課題を考えるとき、私は、そのもっとも根本的な答えは、「まず足元を固めることから始めることだ」と言いたい。あるいは、「人(アメリカ)のふり見て、わが(日本)ふり直せ」と言い換えても良いだろう。

日本政治の危うい現実を直視する確かな目を我がものにしてのみ、アメリカ政治の危険性を肌身で感じる(西欧諸国と同次元に立つ)ことにつながる。そして、アメリカ国内の約半数を占める良心的な人々との連帯を考えることができることになる。

今日私たちが直面しているアメリカとの接し方という問題は、アメリカが世界を破壊し尽くす物理的力を持ってしまっている以上、単に日本だけの問題にとどまらず、本当に世界的な課題であるというべきだ。私たちは、アメリカ国内、西欧諸国の良心的な人々との連帯を強め、アメリカ(及びアメリカに追随する日本)の確信犯的な行動にストップをかけることに全力を挙げなければならない。

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