北朝鮮の核開発疑惑問題

2003.01.13

*北朝鮮のNPT脱退宣言により、再び北朝鮮問題が注目を集めています。とくに日本では、被拉致者およびその家族の帰国問題についてマスコミが大騒ぎしているさなかで起こっているだけに、余計に「北朝鮮は何をするか分からない」という文脈での取り上げ方が少なくありません。ここでは事実関係に基づいて、マスコミ報道の偏向ぶりを正しておきたいと思います(2003年1月13日記)。

(1)問題を考える出発点である枠組み合意

この問題を考える上での出発点は、1994年10月21日にアメリカと北朝鮮との間で合意された枠組み合意です。枠組み合意の第1項は次の内容からなっています。

〇アメリカ主導による軽水炉提供および黒鉛炉凍結に伴う重油提供

〇上記確約受領の上で北朝鮮は黒鉛炉を凍結し、最終的に解体することに応じていること

〇黒鉛炉の凍結期間中、IAEAは凍結をモニターすることを許され、北朝鮮はそれに全面協力するとしていること

枠組み合意の第3項では、米朝双方が朝鮮半島非核化に基づく平和と安全について協力することを定めています。その内容としては、核に関して次のように定めています。

〇アメリカは核兵器による脅迫およびその使用をしないことについて北朝鮮に公式の保証を与えること

〇北朝鮮は、半島非核化に関する南北共同声明の実施のための措置をとること

枠組み合意の第4項では、国際的核不拡散レジームの強化について協力することを定めています。その内容として、北朝鮮はNPTに留まり、そのセーフガードの実施を許すことを定めています。

以上の枠組み合意から出てくる、私たちが踏まえるべき内容としては、次の諸点があげられます。

まず、北朝鮮側にはそれなりの言い分があるということです。

第一、北朝鮮から言えば、すべての合意の出発点にあるのは軽水炉提供と重油供給であり、その点についてのアメリカの合意違反が最中心問題であること

第二、IAEAによるモニターはその前提が満たされている期間中のみに許されること。換言すれば、アメリカが合意を守らなければ、北朝鮮としては、IAEAのモニターを許す義務から解放されること

第三、文面による限り、北朝鮮は半島非核化の南北共同声明のための措置をとることも第1項が守られて初めて真剣に考えられるとしているとも読めること

第四、これまた文面による限り、北朝鮮がNPTに留まるのも第1項次第であると考えているとも読みうること

以上のことから考えれば、北朝鮮がこれまでにとった措置は何ら非合理的なものでなく、アメリカの重油提供中止という枠組み合意違反から出てくる必然的な行動であると読めるのです。

(2)北朝鮮のNPT脱退声明の注目点

北朝鮮は、2003年1月10日にNPT脱退声明を発表しましたが、同国の核開発に関して、次のように言及していることも要注目点です。

〇「我々は、NPTから脱退するが、我々は核兵器を製造する意図はなく、この段階での核に関する活動は電力生産などの平和目的にのみ限定される」

〇「もしアメリカが共和国を押し殺そうとする敵対政策をやめ、核の脅迫を停止するならば、共和国は、両国間の別途の査察によって、核兵器を作らないことを証明する用意がある」

(3)いかなる対応が妥当なのか

以上の枠組み合意とNPT脱退声明から考えなければならないのは、私たちは北朝鮮を一方的に批判することでいいのか、ということです。

まず考えなければならないのは、北朝鮮がNPT脱退を表明するに至った問題の発端は何だったか、ということです。問題の発端になったのは、北朝鮮がウラン濃縮技術を手に入れていたことを認めたというアメリカ側の発表でした。しかし、北朝鮮側はその点を肯定していません。北朝鮮側の2002年12月12日付の外務省スポークスマンの発言によれば、アメリカ側の発言を「核開発計画を認めた」という表現で表すとともに、、それにたいして、「ばかげた試み」、「アメリカ側代表が勝手に使った表現であり、北朝鮮としてはそれについてコメントする必要を感じない」とし、と一蹴しています。

ここでまず出てくる疑問は、アメリカ側が上記の点から重油提供中止に踏み切ったことは正当といえるか、ということです。北朝鮮側は、アメリカとの枠組み合意をすべての出発点としていると考えていても不思議ではないことは、上記枠組み合意の内容からも窺えることです。ということは、アメリカ側発表を前提にしても、上記枠組み合意の内容からは、アメリカの重油提供中止が正当化されるとは考えにくい、ということがいえるのです。

つまり、北朝鮮のNPT脱退(さらにはミサイル発射実験再開示唆)の不当性を指摘する前に、物事の出発点はどこにあるのか、北朝鮮のロジックを正確に踏まえる必要があるということです。また北朝鮮は、核兵器開発製造の意図はないことを明言しており、それを証明するための措置をアメリカとの合意でとる用意があることをも明らかにしています。従って、北朝鮮のNPT脱退宣言をもって北朝鮮が核兵器開発に向かうと断定するのは早計すぎることも分かります。

結論として最低限いえることは、北朝鮮を危険視する論調を支持する動きに乗せられないことが必要であること、ということです。また、今のマスコミには望むべくもないことですが、この問題を扱う場合の基本的前提として、1994年の枠組み合意や、北朝鮮側の公式の言明などについても、私たちは十分に目を通した上で、物事を判断する必要があるということについても注意喚起しておきたいと思います。

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