アメリカによるイラク攻撃問題

2002.12.08

*以下の文章は、雑誌『クレスコ』の原稿として2度にわたって書いたものを一緒にしたものです。(2002年12月8日)

1.国連安保理の対イラク決議

アメリカの強引な工作によって、イラクに対する査察に関する決議が2002年11月8日に国連安保理で満場一致で採択されてしまった。従来の武力行使を容認する決議と同じく、イラクによる安保理決議の不履行と大量破壊兵器や長距離ミサイルの拡散は「国際の平和と安全に対する脅威と認め」、「国連憲章第7章にのっとって行動」することを明記したこの決議は、アメリカによるイラクに対する軍事行動を限りなく容認する内容になっている。

確かに決議は、①決議採択の日から7日以内にイラクが決議順守の意思を確認し、②同じく30日以内にイラクが大量破壊兵器の開発計画に関する「正確かつ全面的で、完全な申告を提出すること」を決定し、③決議の採択から45日以内に査察を再開し、④再開後60日後に安保理に査察委員会が最新情報を伝えること等の段取りを経ることを盛り込んではいる。

また、フランスやロシアのねばり強い対米折衝を経て、関連安保理決議の全面順守の必要性について検討するため、査察委員会の報告を受けて安保理は直ちに会合を開くことを決定している。しかし同時に、イラクによる「義務違反が続けば同国は重大な結果に直面するであろうと、再三警告してきたことを想起する」という文言も入っている。これは、アメリカによるイラクに対する攻撃を可能にする文言であると、広く理解されている。

この決議には重要な問題点が潜んでいることは、各紙が報道するとおりである。すなわち、フランス(そしてそれに従ったロシア、中国そしてアナン事務総長)は、査察団が困難に直面するなどの事態が起こったときは安保理の会合を開くという条項が入ったことにより、この決議はアメリカの武力行使を自動的に容認するものではない、と理解している。

しかし、武力行使を急ぐアメリカ(及びイギリス)は、軍事行動の権限はこの決議で与えられているから、再会合する安保理にはその行動を阻止する権限は与えられていないという立場をとっていることがくり返し明らかにされている。

アメリカ(及びイギリス)がイラクに対して軍事行動をとれば、イラクも捨て鉢の行動に出る可能性が大きいと見られている。来年2月にかけての国際情勢は、イラク問題を中心に緊張した日々が続くことになる。国際世論が米英の危険きわまる軍事行動を阻止するための時間的余裕はきわめて限られている。

2.アメリカのイラク攻撃

アメリカのイラク攻撃を当然視することは許されないことについて。

第一、「ごろつき国家」に対しては抑止力が働かないと言うアメリカの珍説について。

アメリカは、いわゆる「ごろつき国家」の指導者は自分の国民や財産を犠牲にする用意があるから、アメリカの抑止力は働かないと、国家安全保障戦略(02年9月公表)でいっています。こんなおかしい主張は耳を疑う外ないものです。どんな独裁者でも自分の権力基盤を失うことをもっとも警戒するものです。

かりに大量殺戮兵器(WMD)をもっており、先手をとってアメリカに一撃を与えたとしても、次の瞬間自らの国土は蜂の巣になり、命運が尽きるのですから、そんな馬鹿な選択を行うはずがありません。抑止の考え方は独裁者に対しても当然有効に働いているのです。

第二、「ごろつき国家」に対しては先制攻撃が認められるというアメリカの狂説について。

国家安全保障戦略では、WMDをもつ「ごろつき国家」はいつ何時アメリカに向けて発射するか分からないから、それを待つまでもなく、先制攻撃でやっつけてもかまわないのだ、という主張が公然と唱えられています。

国際法(国連憲章)では、武力行使に訴えられるのは自衛権行使の場合に限られます。その場合、自衛権行使の3要件(急迫不正、ほかに手段がない、必要最小限)の条件がかぶさることは、国際法におけるイロハです。アメリカの議論は、イロハすら顧みない点で、狂っているとしかいいようがありません。

第三、「ごろつき国家」は「国際の平和と安全に対する脅威」という独断について。

イラクに対する最終的査察と武力行使の可能性をちらつかせる安保理決議1441では、イラクの安保理諸決議違反とWMD保持とが「国際の平和と安全に対する脅威」を構成しているとしています。諸決議違反が「国際の平和と安全」に対する違反というなら、これまでの安保理決議違反の国々は何もイラクだけではありません。
より重大とされる問題は、イラクがWMDを保有していることにあることは明白です。しかしこの点をとるなら、アメリカをはじめとする5大国やインド、パキスタン、イスラエルももっていることは公知の事実です。なぜイラクだけが「国際の平和と安全に対する脅威」なのか、アメリカはもちろん同決議を満場一致で採択した安保理には説明責任があるといわなければなりません。

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