有事法制に対する中国側論調

2002.05.25

 日本の有事法制に関する中国側論調を人民日報インターネット版で検索してみた。4月16日に日本政府が有事3法案を国会に提出する閣議決定を行ってからだけでも、12本の記事がヒットした。その中で有事法制に対する明確な批判を行っているものを3本紹介することにする。これに加えて、2001年12月に海上保安庁の巡視船によって沈没させられた事件に関する文章(2月28日付中国日報)が有事法制に対する中国側警戒感の所在を端的に示しているので、これをも加えることにした。今回は、私のコメントは加えない。読者に、中国側の有事法制に対する関心の所在を自分自身の目で判断してもらいたいと思うからである。(2002年5月25日記)

1.不審船事件と有事法制

(出所)中国日報インターネット2002.2.28、華暁雷「不審船に名を借りて緊張を作り出す」)

〇(日本側にとって)船舶の船籍を確定することはもはや捜索の目的ではなく、重要なことは犯罪の手がかりを探し出して、この船を朝鮮船籍と確認し、犯罪行為があったことを確認することにある。最初に罪状を認定して後からその証拠を探すというようなことが法治国家としてあり得ることだろうか。

〇不審船事件の2ヶ月をふりかえってみる場合、日本がでっち上げた法律的な根拠のどの一つが成り立つだろうか。

−海上保安庁が船舶を追跡した根拠は、1999年に領海内に現れた船舶と似ていたというにすぎなかった。

−漁業法に違反とする点については、その船舶には作業道具はなかった。

−海上保安庁法に違反したという指摘に関していえば、その船舶は日本の領海に入っておらず、海上保安庁法を適用する余地はなかった。

−正当防衛の主張の荒唐無稽性については、自らが優勢に立っていてしかも先に武力を使用したことに現れている。

〇去年公海で武力を乱用し、現在また船舶を捜索することの目的は一つしかない。それは、「不審船」事件をでっち上げて緊張した雰囲気を作り上げ、軍拡の口実を探し、その軍事力の活動領域を広げることだ。このことは、自民党及び小泉政権が積極的に推進する有事法制のための口実であり、最終的には歴史が作り出した束縛を破って、「普通の国家」に回帰しようとすることにある。

2.日米の軍事協力強化と有事法制

(出所)北京青年報002.4.18、蘇北「日米は不断に軍事協力を強化する」

〇(有事3法案は)周辺事態法、テロ対策特措法に次ぐ、平和憲法に対する今一つの突破であり、自衛隊の今後の行動に対する制限がさらに弱められるものだと受けとめられている。

〇この10年来、日本は、軍事的に対外発展するために、不断に軍事関連の法律に大幅な改定や制定を行ってきた。1992年には「海外派兵法」を通過させて自衛隊が海外に出動できるようにした。その後も自衛隊法に多くの改定を行って、自衛隊が海外で任務を遂行するときの武器の使用基準を徐々にゆるめた。1999年には周辺事態法を通過させて、周辺事態に際して自衛隊が米軍と歩調を合わせて軍事行動を行うようにできるようにするとともに、将来に周辺事態が出現したときには、それに応じて軍事行動をとる法律的な根拠をも獲得した。これらの法律の制定と改定は、日本の軍事発展を加速させ、日本の軍事力が全面的に拡大し、海外での活動範囲をますます拡大させ、有事法制の正式な登場にも基礎を打ち立てることになるだろう。

〇指摘しておく必要があることは、有事法制における首相の権限がさらに強化されることだ。武力攻撃事態に際して、首相は地方自治体の首長に対して支持及び命令を出すことができ、「措置がとられない」時や「緊急の状況」のもとでは、首相は地方の首長に代わって直接指揮を執ることもできる。

これは、実質的に日本の中央集権特に首相の権限を大幅に拡大するものであり、必要があるときには、小泉が自ら自衛隊の海外派兵を決定し、周辺事態に対処することを可能にする、「出兵したいときには出兵する」ということを意味するものである。

〇日本のこのような動向は、日本がどういう道を歩むのかという問題にかかわっているだけではなく、アジアの安全保障環境にもかかわってくる。日本は第2次世界大戦において侵略戦争を発動し、特に今日に至るまで日本の政界や社会において侵略の罪状に対して認識が正確でないものやそれを否認するものもいる状態だ。日本の今日のこのような動きについては、かつて日本軍国主義の被害を受けたアジア諸国の不安を招かずにはおかないのである。

3.憲法違反の有事法制

(出所)新華ネットワーク2002.4.20、王大軍「日本が平和憲法に背くのは憂慮されることだ」

〇ハッキリ言えば、有事法制とは戦時法制ということだ。ある国家が戦時法制を作るということは、本来であれば何らおかしいことではない。しかし、日本の状況は特殊である。日本は第2次世界大戦で侵略戦争を発動し、今日に至るまで真剣にかつ徹底して反省しておらず、清算もしていない。

〇数十年来、平和憲法は日本に平和な環境を与えてきたが、その手足を縛ることはなかった。戦後まもなく日本は警察予備隊を作り、後になって自衛隊と名前を変え、今日ではすでに先進的で現代化した装備をもった軍隊になっており、日本の防衛費は世界のトップクラスであり、憲法の「戦力と交戦権」を保有しないという規定は空文になっている。日本はいま有事法制を提出したが、このようなやり方は平和憲法に完全に背くものだ。

〇誰にも明らかなことは、平和と発展が主流のこの時代に、日本に対して武力攻撃を発動するような国家はないということだ。現在日本が直面している脅威は外国からの侵略ではなく、地震などの自然災害や起こりうるテロリズムの活動だ。これに対しては、日本の強大な警察力とすでにある法律で完全に対応することができる。

であるならば、日本は何のために「戦時法制」を急いで作ろうとするのか。答えは一つ。日本はひたすら世界の政治大国になろうとしているということだ。日本の中には、世界の政治大国になるためには、それ相応の軍事力を持ち、世界の舞台で役割を発揮することができるようにする必要があると考えているものがいる。「有事法制」を作る目的はここにあるのだ。

〇有事法制の中には、自衛隊が出動して排除するべき「有事法制の対象」として2つの事態があると書いてある。一つは「武力攻撃される事態」であり、もう一つは「武力攻撃に遭うことが予測される事態」である。後者のきわめて曖昧な表現は、この定義に引っかかる事態があまりにも多いがゆえに、不安を呼び起こさずにはすまない。

中谷防衛庁長官は最近、「周辺事態」も「有事法制」の対象だと明確に述べた。「周辺事態」とは、日米両国が90年代後半にガイドラインを改定するときに提起した新しい軍事干渉の対象である。日本政府の解釈によれば、「周辺事態」とは、「もし放置すれば日本が直接武力攻撃を受けることに発展する事態」であり、隣国に大量の難民が発生したり、大規模な争乱が起こる事態なども含まれる。この協力の指針によれば、仮にアメリカがこのような事態に対して軍事干渉を行えば、日本の自衛隊はアメリカ軍に対して後方支援を行うことになるのだ。

非常にハッキリしていることは、「周辺事態」は大幅に自衛隊の活動範囲を拡大し、自衛隊がアメリカの行う世界規模での軍事活動を支援することを可能にするものである。今日の「有事法制」は、実際上は「周辺事態法」と連続するものであり、自衛隊の海外作戦に対して法律的根拠を一層確実にするものだ。

〇第2次世界大戦が終わって半世紀以上たった。日本が平和憲法の原則と精神をまっとうするのであれば、もっとほかの行動をもって他国の憂慮を軽減するようにするべきであろうし、一日も早く外国軍隊のいない、誤った歴史観と決別した普通の国家になるべきである。しかしながら遺憾なことは、日本はこの方向には背を向けた道の方へますます歩んでいこうとしている。

4.軍事大国化と有事法制

(出所)人民日報・華南新聞002.4.22、徐ヒョウ川「日本は故意に軍事大国に邁進する」

〇冷戦が終結してから、日本は積極的に「有事立法」を準備し始めた。1999年5月に国会は「周辺事態法」を通過させ、海外派兵に大きく一歩を進めたが、これは、日本の「有事法制」における第1歩というべきものだった。その後、1999年3月と2001年12月に発生した船籍不明船舶の侵入事件は日本が「有事法制」を作るための口実を与え、「9.11」事件はさらにそういう機会を提供した。2001年10月には、日本の国会は反テロを名目にしてテロ対策特措法、自衛隊法改正及び海上保安庁法改正を通過させた。この3つの法律は、日本が世界のいかなる地域にも派兵し、軍事行動に参加することを合法化し、「専守防衛」の軍事戦略方針を完全に変更するものであり、日本の軍事力の機能を「内向型」から「外向型」に転換させるものだった。そして去年の12月中旬、日本政府は「有事法制」を通過させることを決定した。

〇日本はすでに戦略核兵器を発展させる実力を身につけている。戦後の日本は口先では「非核3原則を堅持すると称しているが、一貫してひそかに核兵器の研究開発を行い、すでに先端を行く核専門家を養っている。…実際上の秘密裏に先端の核研究を行っている。国際社会では、日本は核保有国以外の第1の潜在的核大国だと見なされている。

核兵器を発展する上では、有効な運搬手段と切り離すことはできない。この分野で日本は相当な実力を有している。数十年来、日本の航空宇宙技術の発展はかなり先進的であり、大陸間弾道弾の基礎技術を解決しているので、小型核兵器を運搬する実践上の必要を満たすに至っている。

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