憲法第9条と有事法制

2002.04.21

* この小文は、ある通信社の憲法記念日にあわせて配信する原稿として執筆することを依頼されて、書いたものです。短い文章なのであまり意を尽くしたとはいえませんが、いまこそ第9条を花開かせるときであり、有事法制はこれにまったく逆行する、許せないものであることを分かっていただけたらと思い、掲載します。(2002年4月21日記)

平和主義を宣明した憲法第9条は理想主義の産物だ、と言われて久しい。有事法制3法案が国会に提出されたいま、果たして第9条が単なる理想主義の産物であり、今日の時代状況にはふさわしくないものなのか、改めて根本的に検討する意味がある。

アメリカはありとあらゆる戦争シナリオを考え、それに見合う戦略を考えずには気が済まない国だ。そのアメリカには、日本が故なくして他国から攻撃を受けて始まる戦争シナリオはもはやない。これはどういうことか?

日本の諸外国にとっての魅力は経済力、科学技術力、人的資源だ。日本に戦争を仕掛けることは、この魅力を灰にすることだ。日本がよほど他の国を怒らせない限り、つまり憲法にいう「諸国民の公正と信義」を裏切ることを日本が犯さない限り、日本を攻める国はないのだ。つまり、日本の安全を保障するものは経済大国である事実そのものにある。

では、いま国会に提出されている有事法とくに武力攻撃対処法案とは何なのか。なぜ日本が攻撃されることを考えるのか。

アメリカ・ブッシュ政権は、イラク、イラン、北朝鮮を名指しして「悪の枢軸」と呼んだ。名指しはしないが、中国も「悪の枢軸」の一翼という位置づけもあるに違いない。大量破壊兵器を開発するこれら国々は、アメリカにとって脅威であり、彼らを封じ込めなければならないとする。そのためにはこれらの国々に対する先制攻撃もいとわない構えだ。

アメリカではまずイラク、その後は北朝鮮、というような筋書きが公然と口にされている。相手が何もしていないのに、先制攻撃でつぶす。これは自衛権の行使でも何でもない。こんなことが許されていいはずはない。

北朝鮮(中国)となると、筋書きはこうなる。朝鮮有事、台湾有事でアメリカが北朝鮮(中国)を攻撃する。北朝鮮(中国)は反撃する。戦争がエスカレートすれば、アメリカに全面的に協力する日本も反撃対象になる。こうして日本に対する武力攻撃となるのだ。

何のことはない。アメリカが戦争を始めるから、それに協力する日本が標的になるのだ。これが武力攻撃対処法の「武力攻撃(事態)」だ。日本はアメリカの理不尽な戦争に味方するために、相手の反撃を食うのだ。そのことに備えろ、というのが武力攻撃対処法案だ。

アメリカの先制攻撃を許さなければ、日本が攻撃されることはあり得ない。有事法案は必要でないのだ。それだけではない。アメリカの不法な戦争を許さないことで、日本はアジアの平和と安全にも貢献することができる。

私たちは、「諸国民の公正と信義に信頼して、我らの安全と生存を保持しようと決意した」(第9条)。私たちは有事法案を拒否することにより、アジア諸国民の日本に対する「公正と信義」を確かなものとするべきだ。そうすれば、これら諸国の「公正と信義に信頼」した日本の平和と安全を確実なものとすることができる。第9条はいまこそ存在理由がある。

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