有事法制と朝鮮半島

2002.04.13

*この文章は、民族時報という在日の方たちが発行している週刊紙に寄稿したものを基礎にしています。有事法制が朝鮮半島をも視野に入れたとてもきな臭い内容を持っていることを中心に書いたものです。(2002年4月13日記)

1.朝鮮有事を視野に入れる日米軍事同盟

(1)有事論議の出発点は北朝鮮「核疑惑」

そもそも有事法制の出発点は一九九四年のいわゆる北朝鮮の「核疑惑」だった。北朝鮮の核施設を米軍が破壊する軍事行動を発動する。北朝鮮は反撃し、アメリカに全面協力する日本も標的にする。しかし日本には有事の備えがない。日本に拠点を置くアメリカも大打撃を受ける。したがってアメリカは、北朝鮮に対する攻撃そのものを思いとどまらざるを得なかった。これが当時の状況だった。

それ以来アメリカは、日本に有事体制を作らせ、「戦争する国」に変質させる方針を本気で追求することになった。その結果が新ガイドラインであり、とくに「対日攻撃対処」の部分の念入りな作成だった。しかしその後、対日攻撃対処の受け皿となる有事法制は作られないまま小泉政権となった。

(2)ブッシュ政権と有事体制作りの加速化

小泉政権に先立って登場したブッシュ政権は、日本に集団的自衛権への踏み込みを公然と要求するアーミテージを対日政策の最高責任者として、日本が本格的な有事体制を構築することを要求する姿勢を明確にしていた。

九.一一事件(いわゆる同時多発テロ)は、アメリカの対日要求を加速させたに違いない。事件直後から最高度の厳戒態勢に入った在日米軍に対し、日本は基本的に事件前の体制と変わることはなかった。そんな日本は、アメリカにとって許容できなかったからだ。

しかもブッシュ政権は、北朝鮮を含めた「悪の枢軸」論を打ち出した。同政権はイラクに対する侵略戦争を本気で考える。考えたくもないが、万が一ブッシュの思いどおりに事が運んだ場合、次の標的となる可能性が大きいのは北朝鮮だ。米朝関係は北朝鮮での原子炉建設問題をめぐって一〇月頃に危機を迎えると予測する向きもある。日本が有事体制を作り上げておくことは、朝鮮問題を考える上でも、アメリカにとって緊急不可欠なのだ。

2.有事法制の危険な内容

有事法案の国会提出は、当初は四月九日の予定だったが、結果的には一週間ずれて一六日になった。この間に政府が提出する有事法案の中身が明らかにされ、法案の危険な中身が明らかになった。その内容は多岐にわたるが、とくに重大なのは、その侵略的本質及び国民の生命・権利を踏みにじる憲法違反の本質だ。

(1)侵略的本質

北朝鮮「核疑惑」について述べたことから明らかなように、日本有事(対日攻撃事態)はアメリカの侵略戦争によって開始される。日本は、自衛権を行使して反撃する相手に対して、全土要塞化によって対抗することに有事法の狙いがある。相手の侵略に対して日本が自衛権を行使するという意味での対日攻撃対処ではなく、自衛権行使とは縁もゆかりもない侵略戦争の片割れとなることによって、自ら招く戦争事態への対処ということなのだ。

北朝鮮「核疑惑」のケースが明らかにしたのは、日本に有事体制がなかったから、アメリカは侵略戦争を思いとどまるしかなかった、ということだ。つまり、日本が有事体制を作らないことがアメリカの侵略戦争を発動させない大きな保障になる。有時法法制が侵略的本質をもつというのは誇張でもなんでもない。

(2)憲法違反の極め付き

日本に住む者にとって、有事法案は恐ろしいまでの内容をもつ。有事法があれば、アメリカは侵略を開始し、それは相手の反撃を必然にするから、私たちの生命と安全は危殆に瀕する。「備えあれば憂いなし」(小泉首相)ではなく、「備えが憂いを呼び込む」のだ。

米軍と自衛隊の行動をスムーズにするため、土地や建物、物品は収用され、処分される。公共機関も大々的に動員されるし、それに従うことを拒否することも許されない。それに抵抗すれば罰則が待っている。地方公共団体が中央の指示に従わないとしても、中央はそれを押し切る権限も手にする。強制疎開、物価統制、配給など、戦前を彷彿させる内容が盛り込まれている。とにかく身の毛がよだつ中身だ。しかも私たちの権利を制限する個別の法律はこれから二年内に整備するという。

私たちは、危険極まる有事法制成立を阻止しなければならない。その成立が日本に住むすべての者を巻き込み、近隣諸国に再びとてつもない惨害を強制するものであることを多くの国民に知らせ、一人でも多くの人が反対に立ち上がるよう、私たちは必死にならなければならない。時間はきわめて限られている。

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