有事法制に向けた現在の動き

2002.04.03

*有事法制に向けた政府の動きは、四月九日に国会提出というところまで来ています。その危険性を見据えるとともに、有事法制を阻止する可能性も十分にあるということをしっかり見ておきたいと思います。そういう気持ちを込めての現状分析です(4月3日記)。

(1)きわめて危険な情勢

政府は、4月9日に有事法案を国会に提出することを決定した(四月二日付赤旗)。有事法案とは、全般的事項を規定するいわゆる包括法案、安全保障会議設置法改正案、自衛隊の行動の円滑化に関連する法案の三つである。この三つに加え当初は、米軍の行動の円滑化に関連する法案(米軍に、有事の際における陣地構築のための土地利用や、緊急車両が通過するための通行規制などの私権制限を認めることを内容とするもの)も提出の方針だったが、「運用改善や政令、省令の改正で対応でき、新たな法整備は必要ないとの判断」(三月三〇日付朝日新聞)で見送られたとされる。

  有事法制に向けた政府・与党の動きは、一月四日の小泉首相の記者会見での発言(「政治というのは、備えあれば憂いなし。…できることから法整備を進めていきたい」)を皮切りに本格化した。自民・公明・保守の与党三党は、一月二一日に「国家の緊急事態に関する法整備協議会」を立ち上げ、その初会合では今国会での成立をめざす方針を打ち出した。

政府は、一月二二日に「有事法制の整備について」と題する文書を自民党国防部会に提出したのを皮切りに、三月一九日には、「武力攻撃事態における我が国の平和及び安全の確保に関する法制の整備について」(案)と題する文書を与党に提出した。このように、政府・与党は有事法制実現の歩みを強めている。

ここで注意しなければならないことが二つある。一つは、有事法制というまさに日本の進路を大きく左右する問題が眼前に迫っているというのに、マスコミ報道は、鈴木宗男、加藤紘一、辻元清美など一連の問題に目を奪われていることだ。人気急落の小泉内閣が有事法制を進める上では、マスコミの安易な報道姿勢はまさに儲けものということだろう。

もう一つ注目を要するのは、野党の民主党の動きだ。民主党は、一月二五日に緊急事態法制の必要性を確認し、二月九日には作業チームを設置し、三月下旬には「緊急事態法(有事法制)に対する基本的スタンス」を作り上げたとされる(三月二〇日付朝日新聞)。要するに、民主党は有事法制に基本的に賛成する方針であるということだ。

マスコミの報道姿勢、民主党の賛成方針を考えるとき、有事法制を阻止する戦いは決して予断を許さない厳しい状況におかれていることを知らなければならない。

(2)有事法制を阻止する戦いの可能性

しかし、有事法制を阻止する戦いにとって決して暗い材料ばかりではない。

まず、小泉政治の反国民的性格はますます明らかになってきており、小泉政治及び自民党に対する支持率は急落傾向にあることがある。改革を呼号した彼の政治はなんらの「成果」も生み出さず、逆に歴史最悪の失業率を生み出し、生活不安は広範な国民を直撃するに至っている。狂牛病、雪印その他に示された、信じられないまでの国民無視の農水行政に対する小泉首相の他人事のごとき対応は、彼に対する不信感を高めずにはすまない。

有事法制そのものについても、注意してみると、政府・与党が必ずしも一枚岩で動いているとは限らない。当初は三月中の国会提出をめざしていたのに、四月にずれ込んだことが一つ。詳しく述べるゆとりはないが、政府と与党の力点の置き方が少なくとも当初の段階では出入りがあったと見られることがその二。その後も、国民の強制動員、国民の人権侵害、地方自治体の長などに対する指示権、有事の認定に関する国会の関与などにかかわる問題では、国民の反応を気にした方針の二転三転があることがその三。

以上のことは、私たちが有事法制を絶対に認めない、許さないという立場を鮮明にすれば、有事法制阻止の展望が確実にあることを示している。しかし様々な集会にうかがう中で痛感するのは、有事法制の危険性に対する人々の危機感がきわめて薄いということだ。有事法制を許さないという決意を我がものにするためには、有事法制の危険性をハッキリ認識する必要がある。有事法制の危険性とは大きくいって三つだ。憲法違反そのものであること。アメリカによる朝鮮半島などに対する侵略戦争を可能にするための布石であること。そして日本に住むすべての者の権利を侵害し、生命そのものを奪うものであること。この三つの問題については、また機会を改めて述べることとする。

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