北朝鮮は「お化け」でしょうか?

2002.03.26

*この原稿は、雑誌『クレスコ』のために書いたものです。有事法制に「理解」を示す多くの人が、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を「お化け」のように受けとめる心理にあることが、多くの集会、学習会に伺う中で、深刻なまでに浮かび上がってきているというのが、私の印象です。北朝鮮を「お化け」とする雰囲気をなんとかして払拭する必要がある、そうしないと有事法制を防ぐ国民的意識が育たない、とすら感じます。

 この原稿は、そういう思いを込めて書きました(2002年3月26日記)

政府・与党が有事法制へ向けた動きを本格化させるなか、各地の学習会でお話しすることが多くなりました。その中でとても気になる状況があることに気づきました。「私自身は有事法制に反対だが、不審船の問題を考えると、多くの人が有事法制に理解を示すことに強くいいにくい」という方が多いのです。

「不審船」といえば、北朝鮮を連想する人が多いのです。そして「なにをするか分からない北朝鮮」に対する警戒感と結びつくのです。多くの日本人にとって、北朝鮮はまるで「お化け」です。昨年12月に大々的に報道された不審船撃沈事件は、そういう多くの国民の心理に強烈な印象を与えるものでした。

この事件については、いくつかの重大な問題があります。その船舶は日本の領海の外で航行していただけなのに海上保安庁の何艘(一説では20隻!?)もの巡視艇が出動して停船を命じたこと、命令を無視したことを理由に射撃を開始したこと、相手が反撃すると集中砲火で沈没させたこと、そしてこれらすべてが公海上で行われたこと、などです。

海上保安庁法によれば、射撃が認められるのは、その船舶が「無害通航ではない航行を我が国の内水又は領海において現に行っている」場合に厳格に限定しています。政府はまた正当防衛と主張しました(安倍官房副長官)が、巡視艇が先に砲撃したのですから、正当防衛は成り立つはずがありません。

そもそも日本籍ではない船舶に対する公海上での実力行使は、国際的には軍事行動そのものであり、憲法第9条の禁じる武力行使にほかなりません。中国外交部スポークスマンが、「日本が東海(注:東シナ海)海域で武力を行使したことに関心を表明する」(下線は筆者)と述べたのも当然のことでした。

しかし、国内の報道ではこうした重大な問題点をほとんど不問にし、北朝鮮に対する警戒をあおり、北朝鮮を「お化け」とする国民感情を揺さぶったのです。有事法制を進める政府・与党にしては、「してやったり」でした。

この事件について桂敬一氏(東京情報大学教授)は、関東軍が柳条湖事件をでっち上げて満州事変を起こし、日本軍が廬溝橋事件を言いがかりに日中戦争につっこんでいったことが「今更ながら、生々しく思い出されてくる」と発言しています。私も同感です。

北朝鮮を「お化け」に仕立て上げない国民の冷静な判断が確立しないと、有事法制強行の危険性は高まるばかりです。

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