アメリカの暴走を許してはならない

2001.12.16

21世紀を迎えた世界は、唯一の超大国となったアメリカがユニラテラリズム(アメリカ中心主義)を強めることによって、非常に危険な情勢に直面している。2000年9月11日におこったいわゆる同時多発テロ(以下「9.11事件」)は、ブッシュ政権がアメリカ中心主義をさらに露骨に追求し、力によって世界に覇権を確立しようとする動きを加速した。アメリカの動きをくい止め、押さえ込むことができるかどうかに、世界が平和と安定を回復することができるかどうかのカギがある。

<世界覇権をめざす過去の事例に学ぶこと>

歴史上、世界覇権をめざす試みはすべて挫折してきた。近世・近代だけでも、ルイ14世、ナポレオン、ヒットラーの野望は、諸国が連合して対抗し、その実現を阻止した。

しかし過去の事例と現在のアメリカとの間には重要な違いがある。過去の事例は、征服による世界帝国の実現をめざす動きだった。しかしアメリカは、他の国々をアメリカの支配のもとにおく形の世界覇権をめざしており、征服によって世界帝国を実現する意図はない。ここに、アメリカ中心主義の真骨頂がある。

<アメリカ中心主義の土壌とあらわれ>

アメリカ中心主義とは、国際関係をアメリカの利害に基づいて(あるいは、利害を実現する方向に)動かす考え方・政策である。アメリカ中心主義は、アメリカの伝統的な国際観に基づく考え方・政策の今日的あらわれだ。

アメリカは建国以来、世界で最初に自由と民主主義を実現したことに誇りを持ってきた。自由と民主主義の理念を世界規模で実現することは、アメリカの重要な指針であり続けた。

問題は二つある。一つは、そこでいう自由と民主主義が、アメリカは普遍的価値としながら、実はアメリカが理解する意味での「自由」、「民主主義」だったことだ。受け入れを求められる側にとっては、アメリカ的尺度(価値基準)の強制となることである。

もう一つの問題は、アメリカの国力にかかわる。アメリカが弱小国のときは、古い価値を代表する欧州列強に対して自らの独立確保が至上課題だった。対外政策における孤立主義は、そういう時代のあらわれである。しかしアメリカは、2度の世界大戦を経て、世界最強国家になった。その対外政策の特徴は国際主義である。最強の経済力を背景に、アメリカの価値観を共有した(とアメリカが判断する)国々に積極的なテコ入れを行った。

アメリカの国力が相対的に下がり、ソ連が崩壊したことをうけて、対外政策においてアメリカ中心主義が露骨になってきた。アメリカ中心主義とは、孤立主義と国際主義のもっとも醜悪な要素を集中したものでもある。

それは、関心のないことには背を向ける点で孤立主義と共通する。しかし、自国の利益のためには他国に平然と犠牲をおしつける。孤立主義にはあった自己規制の力がまったく働かない点で、それとは大きく異なる。

また、価値観を振りかざす点で国際主義と共通する。しかし、アメリカ中心主義の本質は国益追求である。国際主義にはあった価値・長期的利益のためには当面の犠牲・代価を受け入れる度量がまったく働かない点で、それとは本質的に異なる。

アメリカ中心主義は、すでにクリントン政権時代に姿を現していた。しかしこの時代にはまだ、国際主義へのこだわりが残っていた。ブッシュ政権は、国際主義へのいっさいのこだわりをかなぐり捨て、アメリカ中心主義を対外政策の中心にすえた。

<アメリカ中心主義の危険性>

9.11事件をうけたブッシュ政権のアメリカ中心主義の危険性はとくに次の点にある。

①アメリカの暴走:9.11事件が国際犯罪であることは国際的に確立している。犯罪事件である以上、法律に基づいて対処しなければならない。ところがブッシュ政権は、軍事報復を正当化するため、むりやり「戦争」と規定した。国連安保理は、本来アメリカを制止するべき立場にあったが、逆にアメリカの主張を正当化する決議を採択し、アメリカの暴走を認めた。これによって、世界は「法による支配」を実現する機会をうばわれ、アメリカによる力の支配を許してしまった。

②二重基準の横行:ブッシュ政権は、9.11事件を文明・人権・民主主義に対する挑戦と性格づけながら、野蛮きわまる報復戦争によって、文明・人権・民主主義を踏みにじる行動を重ねた。戦争遂行のためとなれば、反人権・反民主主義の政権(パキスタン、中央アジア諸国)・勢力(北部同盟)をも公然と利用した。

③国際法無視:内政干渉禁止は国際法の大原則だ。アフガニスタンに対する軍事行動は、およそ許されない。ところがブッシュ政権は、「テロリストをかくまうものもテロリスト」と決めつけること(それは「殺人犯をかくまうものも殺人犯」というに等しい)により、自らの行動を正当化した。ブッシュ政権はさらに、大量破壊兵器を開発するものも同罪、という乱暴をきわめる主張で、イラク、北朝鮮以下の目障りな存在をすべて軍事行動の対象にする可能性をちらつかせている。

<国際社会の課題>

世界はいま、きわめて危険な情勢を迎えている。アメリカの暴走を許すならば、国際関係の諸原則(主権国家の対等平等、主権尊重、内政不干渉、武力不行使)は崩れ去る。二重基準が横行し、国際法無視がまかり通れば、安定した国際関係は望むべくもなくなる。

世界の平和と安定を回復することが国際社会の急務である。その中心課題は、アメリカの世界覇権確立をなんとしてでも阻止することだ。その要諦は、アメリカ中心主義の考え方・政策を改めさせることだ。

歴史が教えるとおり、アメリカを押さえ込む強力な力を早急に作り上げなければならない。ただし、歴史の教訓が意味を持つのはそこまでだ。アメリカに対抗する軍事力を国際的に組織するという答えはない。いま必要なのは国際世論の良識の力だ。アメリカ中心主義に対する懸念は国際的に高まっている。その懸念を明確な世論とすることができるかどうかに、今後の世界の方向がかかっている。

平和憲法をもつ大国・日本は、良識ある国際世論の先頭に立つ大きな可能性をもつ。日本がアメリカ中心主義を批判する立場を明確にすれば、国際世論は必ずそれに呼応する。いま私たちが実現しなければならないことは、そういう日本をつくることだ。それは、私たちが日本政治の主人公になり、保守政治に引導を渡すことによって可能になる。

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