アメリカと国際テロリズム

2001.09.14

世界貿易センタービル(アメリカの経済的なシンボル)及び国防省(アメリカの軍事的なシンボル)が正面攻撃されたこと、多数の無辜の民が巻き添えを食って命を失ったことは、言葉で表せないほどの衝撃でした。TVでくりかえされる衝突の映像を見るたびに、打ちのめされる気分になります。しかし、ブッシュ大統領の発言、小泉首相の発言を聞いて、私は、さらにいたたまれない気持ちに襲われました。この悲劇を二度と繰りかえさせないためにも、私たちは真剣に考えなければならないことがあると思います。

1.問題の根本原因は何でしょうか

今回の悲劇を引き起こした者は誰かということは、いまの段階ではハッキリしていません。ラディン氏の名前が取りざたされていますが、これまでのアメリカのやり方からすると、動かぬ証拠がしっかりと公開される保証は必ずしもありません。しかし、過去における「国際テロリズム」の圧倒的に多くのケースが中東問題と深くかかわっていることはまぎれもない事実です。今回もそうであるとすれば、私たちが考えなければならないのは、なぜ中東なのか、ということです。

原因がアメリカの中東政策にあることはハッキリしています。アメリカは戦後一貫して、イスラエルを一方的に支持し、アラブの主張に耳を傾けない政策に固執してきています。アメリカがそのかたよった政策を根本的に改めない限り、アラブの人々のまっとうな感情・主張に応えることはできず、したがって「国際テロリズム」の温床を根絶することはできないのです。

2.ブッシュの発言・政策を認めることができるでしょうか

ブッシュは、今回の悲劇を「国際テロリズム」によるものと断定し、断固とした対応をとる方針を明らかにしました。過去の例に照らしても、おそらくアメリカは、報復の手段を選ばないでしょう。「目には目を」「歯には歯を」というむき出しの憎悪しかありません。しかも、CTBT、京都議定書、地雷、生物兵器禁止条約さらにはABMで国際世論を省みない勝手な行動をとってきたブッシュ政権が、今回に限って、国際的支持のとりつけに熱心に取り組んでいます。今後の軍事行動についてあらかじめ正当化の根拠を確保しようとしていることは見え見えです(欧州主要国及び日本の政府は、のきなみブッシュの強硬姿勢を支持する発言を行い、ブッシュはこれに力を得て、感謝の気持ちをあらわしています。NATOに至っては、集団的自衛権行使までコミットする始末です)。

私は、ブッシュの発言・政策ほど危険なものはないと思います。アラブの人々が、絶対に許されない行動に訴えるまでに追いこまれたのは、アメリカの誤った政策に対する異議申し立ての絶望的かつ最終的手段であることを、ブッシュは徹頭徹尾無視しているからです(欧日諸政府に関していえば、この悲劇に直面してなすべきことは、アメリカの報復を支持することではなく、問題の根本原因についてアメリカが深刻に考えなおすよう促すことにあるはずです)。

3.小泉首相の発言を認めることができるでしょうか

小泉首相は、今回の事件は「民主主義に対する挑戦」であり、日本はアメリカを「強く支持し、必要な援助と協力を惜しまない」、と発言しました。自由と民主主義とは最も遠い体質をもつ小泉首相の発言であるだけに、私はとてつもない違和感と味気なさとを味わう羽目になりました。

今回のテロを徹底的に批判することは当然です。しかし、このような大惨事、悲劇を二度と繰りかえさせないためには、アメリカの間違った中東政策を改めさせることがもっとも重要な課題のはずです。ましてや、アメリカの報復としての軍事力行使を無条件で支持するなどということは絶対にあってはならないことです。小泉首相の発言は、二重、三重の意味で認めることはできません。

4.危険な保守政治層の動きに警戒感を高めましょう

今回の事件をきっかけに、自民党、保守党からは、テロ対策を強化するため、と称して、有事法制の検討を本格化するべきだ、という主張が声高に唱えられるに至っています。自民党の外交調査会と国防部会の合同部会では、「時期通常国会で有事法制の成立をはかる」という決議が全会一致で採択(12日)される始末です。NATOが、今回の事件に対して、アメリカと共同行動するため、集団的自衛権行使を決定したことは、集団的自衛権行使を憲法で禁止されている日本の対米軍事協力のあり方を、憲法解釈を改める方向で見直す動きを強めています。すでに今回の事件の前に、宮沢元首相が、アメリカに対する軍事協力ができるようにするために、憲法解釈を改めることを提案しています(9月6日)。

アメリカは、日本がアメリカと一緒に「戦争をする国家」に変わることを本気で要求しています。それが「集団的自衛権行使にふみきる」ということです。5月に訪米した小泉首相は、ブッシュ大統領との共同声明で、実質的にその約束をしてしまっているのです。アメリカ側に言質を与えてしまった小泉首相としては、とにかく突っ走る構えでしょう。だからこそ、今回の事件をも自分たち都合のいいように利用しようという、およそ許されてはならない動きが公然とでてくるのです。

今回の事件によって、国際経済の見通しはますます不透明になっています。その影響をもっとも強く受けるのは、すでに気息奄々の日本経済です。いま政治になによりも求められているのは、国民経済を立て直すことです。そのためには、平和な国際環境を確保することが、日本が率先して取り組まなければならない課題であるはずです。そういう観点からも、私たちは、今回の事件の本質をしっかりと見極め、アメリカそしてアメリカの言いなりになろうとする保守政治層の危険な動きを許してはならないことを強調したいと思います。

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