小泉政権の経済政策

2001.09.10

経済問題には素人の私ですが、いまの日本経済の状況、そして小泉政権のとりくみの姿勢に対しては、底知れない不安と怒りを感じています。

小泉政権がやろうとしている構造改革なるものは、要するに、市場にすべてを委ねることです。その発想を正当化するのは、市場原理にもとづく経済のグローバル化は押しとどめることができないし、日本経済を立て直すためには市場にすべてを委ねたほうがいいとする主張です。この主張は、アメリカを発信地(震源地)としたものですが、アメリカの言いなりになることに慣れきった、国民生活に対しては冷淡をきわめる日本の保守政治は、この主張には根本的に問題があることをまったく無視しています。

市場にすべてを委ねることを主張する資本主義は、経済的強者のみを利するものであり、経済的弱者を切り捨てるにひとしいということは、歴史的にひろく知られていることです。資本主義に対決する社会主義は、資本主義によって虐げられる圧倒的多数の人々の「人間としての尊厳」を回復することを主張するものとして登場しました。そして、人権と民主主義の思想が普遍的に承認されるにともない、資本主義国家においても、市場原理によって引き起こされる社会的不公正をそのままにしておくことは許されない、という認識が確立しました。「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」(憲法第25条)は、国際的に確立した認識を確認したものなのです。

しかし1991年にソ連が崩壊してから、「ソ連の崩壊=社会主義の崩壊」という誤った認識が国際的に広まってしまいました。その結果、アメリカを震源地にして、人間生活を市場に委ねるべきだとする主張が急速に力を得ることになってしまいました。経済のグローバル化、市場経済原理、規制緩和の主張がそれです。小泉政権は、アメリカの主張を鵜呑みにして、構造改革の名のもとに、日本経済、そしてなによりも国民生活のすべてを市場原理に委ねようとしているのです。

しかし、アメリカや小泉政権の思うままにまかせたら、つまり資本主義の市場原理にすべてを委ねてしまうならば、日本をふくめた各国の国民生活は成り立たなくなることは目に見えています。人間らしい生き方、人間としての尊厳を実現する可能性が奪われることになるでしょう。

国際的に見るとき、アメリカや小泉政権が行っている主張は、決して当たり前でもなんでもありません。欧州諸国は、それぞれの国情に応じたきめの細かい政策を心がけています。市場経済原理にすべてをまかせるなどという無責任な考えではないのです。欧州は、資本主義の弊害を認識し、社会的公正の実現に取り組んできた長い歴史をもっています。アメリカのいうとおりにはならないその自主性から、私たちが学ぶべき点は少なくありません。

また、お隣の中国では、社会主義市場経済という考えにもとづいて国造りを進めています。資源の無駄のない配分を保証する上での市場経済の役割を認める。しかし、市場経済が生みだす社会的不公正を許さないために、国家が国民経済、国民生活に積極的にかかわっていく。これが、中国のめざす社会主義市場経済の要諦です。社会主義をとるかどうかということではなく、社会的公正をあくまで重視する中国の行き方には、私たちが見失いがちな政治の原点を見る思いがします。

いま、日本経済は本当に危機的な状況をむかえていると思います。小泉政権が押しすすめようとしているのは、資本主義の窮状を救うことだけを基準にし、そのためには国民生活を犠牲にすることを意に介さないことを本質にする、日本経済の「構造改革」政策なのです。本当に無責任をきわめる反国民的な政策である、と断定するほかありません。

寺島実郎氏をはじめとして、経済専門家のなかにも、小泉政権の進めようとする政策は危険きわまりないものであるとし、国民生活を重視する政策こそが日本経済の危機を克服する道であることを指摘する方々が増えています。私もまったく同感です。経済政策は、資本主義のためにあるのではなく、主権者である国民の生活を保障することを第一の目的とするべきです。日本経済の危機を克服する政策は、国民生活を守り、健全な軌道に乗せることを最大の目的とするものでなければならないと確信します。

根拠のない「小泉人気」にまどわされず、小泉政権が行おうとしている反国民的な政策を、私たち主権者が1日も早く拒否しなければなりません。そして、国民生活を保障することを軸として日本経済を立て直す政策が行われるようにしなければならないと思うのです。 最悪の事態に直面してからあわてても、もう遅いのです。「私(私の家族)だけは大丈夫だろう」と思っている人がいます。しかし、じつは「明日は我が身」なのです。

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