広島平和研究所主催の連続市民講座での鎌田七男先生のお話について

2005.10.23

広島平和研究所主催の連続市民講座で、鎌田七男先生のお話を聞く機会がありました。原爆の放射線による人体への影響についてのお話で、私にとっては初めての体験でした。いろいろ学びましたが、とくに二つのことについて書き留めておきたいと思います。

一つは、鎌田先生が淡々としてお話になる内容の「恐ろしさ」ということでした。放射線によって染色体が破壊され、それは元に戻らないということ、そのことが様々な病気の原因になること、とくにかなりの種類のガン発症との因果関係がハッキリしていること、被爆者の場合におけるガンの多発性が顕著に見られること、被爆者の血清中には発ガンにかかわる因子が含まれていること、等など。

私は今、ロバート・リフトン著の“Hiroshima in America”を読んでいますが、リフトンは、原爆投下、なかんずく放射能が人体に及ぼす影響の問題、がアメリカ人の思考・潜在意識に対して非常に重い影を落としていることを明らかにしています。まさに放射能を伴う兵器である点において、そして放射能による人体に対する影響が長い時間にわたって人体を蝕むという点において、核兵器は通常兵器と区別されるということを、アメリカの指導者及び国民は直視することを避けようとして葛藤することを強いられてきているというのです。しかし鎌田先生のお話は、そういうアメリカにおける良心を麻痺させる国を挙げた努力に対する、医学上の事実による鋭い告発の意味を持っていると思います。

もう一つは、出席した市民の中には被爆者や体内被爆者の方もおられましたが、鎌田先生の以上の内容のお話をどういう気持ちでこれらの方々がお聞きになったのか、私には想像を絶することだったということです。鎌田先生が被爆者に対して献身的に取り組んでこられた方であることが皆さんにもよく理解されていることが、このような「恐ろしい内容」のお話にもかかわらず、会場が不思議なまでの冷静な雰囲気を可能にしたのでしょうか。

ちなみに私は、原爆症に関する別の会合で、出席した医学者の間で「サンプル」という言葉が平然と飛び交う場面に遭遇して気持ちが動転する思いがしたことを思い出します。「サンプル」というのは、彼らが観察対象としている被爆者のことです。同じ医者でも、鎌田先生とは大違いです。鎌田先生のお話の中でも、この会合を主催した研究所の成果を何度か引用されていたので、この研究所が大切な仕事していることについては認識することができましたが、被爆者を「サンプル」としてしか見ない研究者の心根にはまったくついていけません。