「被爆60周年と『国民保護計画』」と題する短文

2005.07.16

広島の医師会関係の雑誌から8月号の巻頭言を書くようにとのお誘いがあり、「被爆60周年と『国民保護計画』」と題する短文を書きました。一人でも多くの広島の人たちにも、「国民保護計画」の恐ろしさを知っていただきたいので、前にも書いたことがありますが、重複をいとわず、ここに採録します。

いわゆる国民保護法制ができ、その下で「国民の保護に関する基本指針」が作られ、都道府県では今年度中に、市町村では明年度中に、「国民保護計画」を作成することになっていることは、皆さんもご承知だろうと思います。しかし、そのとんでもない中身については、まだ広く認識されていない状況があります。

特に被爆60周年を迎える広島県や広島市が基本指針の以下のくだりにどう反応するのか、私は重大な関心を持っています。医師会の皆さんが、このくだりをどう反応してくださるかも、私には非常に気になるところです。

「(核兵器を用いた攻撃による被害について)熱線による熱傷や放射線障害等、核兵器特有の傷病に対する医療が必要となる。」

「避難に当たっては、風下を避け、手袋、帽子、雨ガッパ等によって放射性降下物による外部被ばくを抑制するほか、口及び鼻を汚染されていないタオル等で保護することや汚染された疑いのある水や食物の摂取を避けるとともに、安定ヨウ素剤の服用等により内部被ばくの低減に努める必要がある。」

どうしてこんな恐ろしい内容が盛り込まれているのでしょうか。それは、政府が本気で日本に対する核攻撃が起こる事態を想定しているからです。政府は、北朝鮮が「日本に直接侵攻してくるとは見ていないものの、朝鮮半島有事で自衛隊が米軍支援に動けば日本が攻撃される可能性もあると判断」し、「北朝鮮の中距離弾道ミサイル『ノドン』を想定し、核搭載の場合は1発で数十万人の死傷者がでると予測」し、「日本への到達時間は7分程度とあって『有力な対抗手段はない』」と判断しています(6月8日付朝日新聞広島版)。

アメリカが仕掛ける戦争によって、同国に協力する日本が核兵器による反撃を受ける事態を、政府はいとも簡単に想定し、しかも「対抗手段はない」と開き直り、基本指針では1945年8月6日と同じ対応しかできない(つまり、国民の見殺し)と白状しているのです。

核被害という惨劇を未然に防止することこそ、政府が国民に対して負っている最大の責任です。そのためには、なんとしてでもアメリカが戦争を仕掛けることを食い止めることが被爆国の政府のとるべき唯一の対応のはずです。被爆60周年に当たって、医師会の皆さんを含む広島市民が結束して声を上げ、県と市が、政府の反国民的な政策に従って、核被害を前提にした「基本指針」策定に動かないよう厳しく監視することを切に望みます。