井上ひさしさんの『父と暮せば』を読んで

2005.05.18

井上ひさしさんの『父と暮せば』を引きずり込まれる気持ちで読みました。前口上で井上さんが「おそらく私の一生は、ヒロシマとナガサキとを書き終えるときに終わるだろう」書いているのにとてもずっしりする思いを味わいました。私はこの映画版をまだ見ていません。見たい見たい、という気持ちは強かったのですが、その機会を失していました。最近、ある集会で共産党の志位委員長とお話しする機会があったときに、彼がこの映画を絶賛していたこともあり、ますます気になっていたのですが、昨日本屋で文庫版の本を見つけ、早速読んだというわけです。

私はまだヒロシマのことを何も分かっていません。井上さんも広島の人ではない。しかし、私の読後感は、正にヒロシマそのものの何かがヒシヒシと伝わって来るという感じでした。この映画、本に対する広島の人たちの感想を是非聞いてみたいと心底思いました。被爆で、自分より生きる意味があると主人公が感じる友人が死んでしまい、しかも、瓦礫に埋まってしまって救出しようのない父親にせきたてられて、自分だけが「生き残ってしまった」という贖罪感を持って生きている主人公の心の動き・変化の過程、そして最後には生き残った自分を積極的に見つめ直す姿を見事に描ききっていると思わずにはいられませんでした。わずか100ページの台本(?)に込められた井上さんの深い思いに、自分はどこまで近づけられるだろうか、とも考え込まずにはいられませんでした。