高度計の仕組み ・ 登山での使い方考察

GPSが普及する前は、高度計というものが山では必需品とされたようです。特に4000m以上の高山には必須だったようですが、GPS普及の現在において改めて高度計というものについて考察してみました。(現在でも、高高度だと空気の薄さをマネージメントする必要があるため高度計は必須)

 

原理

気圧高度計とは、高さを計測するものなのですが、一般的には気圧計を使って作られています。高度が上がる気圧が減るという原理を利用したものです。

高度が高くなると気圧が下がる理由は意外と簡単で、気圧は上空の空気の量(重さ)で決まるからです。高い所に行くと単純に上空の空気の量が減るためです。(資料)

空気は思ったよりも重く、1立法メートル(1mx1mx1m)で約1kgもあります。(温度や湿度、高度で異なります。)この空気が積みあがることで、海面高度0m標準気圧の場合1気圧(=1013.25hPa)となりますが、これは1平方メートル(1mx1m)でなんと10トンもの強い圧力となっています。

数式は難しいので実際の観測データをみてみます。気象庁の実際のデータをグラフにすると下記のようになります。

(潮岬 2017119時観測データ)

横軸の高度(m)が高くなると、縦軸の気圧(ヘクトパスカル)が下がっていくことが分かります。つまり気圧を測定すれば高さが分かるということになります。

 

地表から5000m付近までは、ほぼ同じ率(線形近似)で変化しています。(潮岬 2017119時観測データ)

上記グラフは横軸が気圧(hPa)、縦軸が高度(m)ですが、約10.8m上昇すると1hPa(ヘクトパスカル)気圧が下がることが分かります。(つまり1hPa気圧が下がると10.8m上昇したことになります。)

 

蛇足ですが、高度と温度の関係は下記の通りです。(潮岬 2017119時観測データ)

登るにつれ気温が下がります。18000mから上は逆に温度が上昇しています。

 

(潮岬 2017119時観測データ)

地表〜4000m付近を詳しくみます。山頂での温度を見越した防寒対策が必要です。

 

高度計の気圧センサー

高度計には気圧センサーが付いています。

http://akizukidenshi.com/catalog/c/cfsensor

http://www.murata.com/ja-jp/products/sensor/baropressure

色々な種類がありますが、仕組みは、大気の圧力でセンサーの素子が歪み、その歪みを電流で測定するというものです。センサーの誤差は、メーカーそれぞれ違いますが、±20cmぐらいのものもありますので、1m前後と理解して良いのではと勝手に判断しています。

 

高度計の誤差について

高度計の誤差は、センサーの誤差とは一致しません。何故かと言いますと、理由は2つあります。

@気圧と高度の変換式が現実と離れている。

つまり計算式は近似的には作れても、問題は、外気温湿度地域による重力差など修正が難しい誤差の積み重ねがあります。たとえば八丈島と潮岬で別の時間と季節の実データで比較すると以下の図となります。

気圧と高度の関係が場所や時間等で変化しており上記オレンジと水色の線が一致していません。ということは同じ気圧の変化でも高度は異なることになりますので、誤差が生じます。

 

A大気圧は刻々と変化しています。

地球の気圧は、刻々と変化しています。高度計は、大気圧を測っているだけなので、高度変化によるものか気圧配置変化によるものか区別が出来ません。

天気図天気図

0128日上記は左が6時、右が3時間後の9時です。大阪は一見穏やかな気圧配置に見えていますが結構変動しています。

 

大阪(オオサカ)

20170128日 大阪(オオサカ)

上記は実際の気象観測データです。

1hPaの変化が10.8m相当とすると例えば高層ビルで計測したと仮定すると以下となります。

同じ場所に静止していても、10時から5時間ほどで50m上昇したことになります。

 

以上の事実から高度計は誤差を数メートルに保つためには頻繁に校正する必要があります。でも実際、登山中に気圧高度計の補正を行うなんて面倒な作業なので現実的ではありません。そのためGPSで測定された高度で自動補正をさせることになります。しかしGPSの誤差について記載いたしましたがGPSレシーバは誤差が伴います。

 

GPS高度計による気圧補正の限界

気圧高度計もGPSで補正されるものは大変便利です。しかしながら、やはり誤差が生じます。

@GPSの垂直方向誤差

GPSは水平よりも垂直方向の誤差が悪い可能性があります。

その理由を解説します。

DGPS図解

上記図は、GPS衛星からの信号をイメージしています。本来は実線がGPS衛星から計測された正しい距離を示しています。しかし実際は、電離層や対流圏やその他の影響で電波の到着が遅延するため実際より長めで計測されてしまったと仮定します。(点線で表示します。)

電波の遅延により地面よりも下に交点が出来ますが水平誤差は少ないことが分かります。電波遅延の補正は一般的に4個以上衛星が捕捉されると訂正出来ると説明している資料がありますが、そんなに簡単には修正出来ません。

(ただしDGPS信号を受信している場合は、1〜6m程度の誤差に抑えることは可能です。)

DGPS図解2

もし上記の図のように、水平線より下の衛星を受信することができれば、電波が遅延したとしても垂直方向の誤差は比較的抑えることができます。

上記の図では、水平方向の誤差が電波の遅延により大きく発生していますが、垂直方向(つまり高度)は影響が少なくなることが理解できるかと思います。つまり地面から上の衛星を受信する限りは、垂直方向の誤差がどうしても大きくなります。

「みちびき」のサブメータ級測位補強サービスや「ひまわり」のSBASが受信出来た場合は、垂直方向の誤差を2〜4mに収めることが出来る可能性があります。

 

Aジオイドによる高度誤差

山の高さというのは海面から計測しているのではなく、ジオイド面から計測したものです。

http://www.gsi.go.jp/buturisokuchi/geoid.html

地球が完全に球体であるとか、完全な楕円球体であれば簡単なのですが、高度の基準が場所によってかなり違っていることに注意する必要があります。つまりGPSレシーバ側が正しくジオイド高の情報をもっていないとGPS高度に狂いが生じます。

http://www.gsi.go.jp/buturisokuchi/geoid_model.html

 

GARMINもジオイド情報を持っているはずだと思ったのですが、Garminのサポートページを確認すると

https://support.garmin.com/faqSearch/en-GB/faq/content/QPc5x3ZFUv1QyoxITW2vZ6

GPSの高さは楕円体(地球の形状の数学的表現)』だと書いてありました。つまりなんとジオイド情報を持っていません!

そうなると、気圧高度計はGPSで高度補正された場合でも、海岸付近は比較的精度が良いはずですが、山岳部では3040メートルぐらい標高と違いがでる可能性があります。

 

ガーミンのページでは、プラス・マイナス400フィート(約120m)違うことは『別に普通だ』“It is not uncommon” と書いています。(原因はGPS高度誤差のせいにしています。でもGPS衛星の軌道誤差は精々3m程度なので、この回答は疑問ですが電離層誤差も含めて書いているのかもしれません。)

 

上記図はhttp://qzss.go.jp/column/geoid_151225.html のものです。

 

航空機での気圧高度計補正は?

まったくの余談ですが、航空機の重要な計器となる高度計の気圧補正は、離着陸時ATIS(空港からVHFなどで放送)もしくは空港の管制担当者から航空無線で海面気圧値が指示されます。QNHと呼ばれ、インチ単位ですがパイロットはその値を高度計にセットします。

高度14,000フィート(約4000m)以上(国により違いあり)に上昇すると気圧配置に関係なく全ての航空機はQNE (国際標準大気 1013.2 hPa=29.92inHg)をセットします。すると高度は現実からは違いが生じますが、どの航空機も同じ誤差で飛行するため、高度補正の違いで衝突が発生しない仕組みです。

 

GPSログから分かる高度誤差の実際

実際山頂付近でのGPSログを見てみると、高度誤差は、30〜60m位は誤差が発生しているように見えます。

GPSeTrex30)の例です。eTrex30は気圧高度計も持っています。GPS高度補正もオンにしています。

プレゼンテーション11

上記はGoogle Earthでログを表示したものです。(金剛山山頂付近)ステレオ画面となっていますので重ね合わせて見ると立体にログが浮かび上がります。(見方)ログはカシミール3Dからkmlファイルで出力させる際に、『地表に合わせる』チェックボックスをオフにしています。

 

高度グーグル

金剛山の石ブテ稜線なのでGPS受信良好な場所での軌跡です。Google Earthの高度表示も誤差がありますのであくまでもログの相対的な違いに注目してください。これを見ると横幅の誤差に比べ、高度誤差が大きいことが分かります。(地面に埋もれている部分もありますが、振れ幅が30m〜40m位あるように見えます。) (右上の青い線は、飛行機でのログです。)

 

岩湧山3D

上記は岩湧山での例です。水平誤差は10m程度なのですが垂直誤差は最大30m位あるように見えます。山頂近くの稜線はGPS受信数が多いのです。気圧高度計はGPS高度で補正されているはずなのですが、条件が良い場所でも30m位の誤差を覚悟する必要はありそうです。

上記は金剛山水越峠の例です。結構高度にバラつきがあります。

 

山での高度計の使い方

上記の事実から分かるように気圧高度計(GPS補正が付いているタイプでも)は、30〜50m程は誤差を含んでいる可能性があります。

実際皆さまがどのようにつかっているのかWEBで色々調べてみました。Webの情報は、時計メーカーの『必須だ』『便利だ』などの宣伝が多い割には、具体的に有効な使い方を見つけることが出来ませんでした。

そこで自分なりの活用方法を探ることにいたしました。一つの考え方としては、従来の水平方向のナビではなく、垂直方向のナビについて考察してみます。一般的に高い山、傾斜のきびしい山ほど登頂に時間が掛かると思われます。

 

過去のGPSログから、標高差と距離、時間の関係を調べてみます。

new

上記の例は26925日 北葛城山に登ったログを分析してみました。550m付近から940m(390m差)登るのに67分位なので単純計算で1分間に4mの上昇速度となります。時速で換算すると350m/時が平均的な上昇速度です。

 

詳細に分析してみると、勾配がキツイほうが垂直上昇速度は高いことが分かります。(上記パーセント表示勾配を示しており、100m進んで10m上昇すると10%ということを示します。)

水平方向の速度を見ると下記です。

つまり勾配(斜度)が高いと速度が比例して遅くなります。

この二つから出る結論は、勾配(つまり坂のキツさ)は水平方向では遅くなりますが、垂直方向では遅くなっていないことになります。

たとえば目標があと300m高い場所であるとすると、到達時間は、中ぐらいの坂道(勾配20%)で、あと1時間ぐらい。急登だとそれよりもう少し早く到着するということが分かります。→(到達時間の予測に使えそうです。)

 

上記は2016年蓼科山のログの例です。

このケースですと登りは傾斜があっても400m/時が限界となっています。(これが実力ですね・・・)

 

下りのケースを考えますと、これは人それぞれですが、膝や股関節に負荷がかかるため健脚な人は、猛スピードとなりますが、そうでない人は登りより逆に遅くなる人もおられるかと思います。

 

ログから分析した情報によると下りが勾配と速度があまり比例していません。

健脚な人は、きれいな1本の線になるはずです。上記のグラフでは勾配と下降速度の関係性がバラバラです。

 

水平方向の速度も下り勾配がキツイほうが速度は逆に遅くなっていることが分かります。

結論としては、例えば目標があと500m下と分かった場合でも、降下速度による到着時間の予測が難しいということです。

 

高度計の位置特定利用(ナビ利用)についてのウソ

高度計を使って位置特定(ナビゲーション)に利用するなどのWeb情報がありましたが、まったくのデタラメです。理由はGPSでの高度誤差が水平誤差より高いと思われるためです。(頻繁に正しく高度校正しているのであれば話は別です。)

 

高度計による位置特定

例えば仮に高度誤差が100mあったと仮定します。(現実は1060m位)すると水平の位置誤差が600m6倍に拡大されてしまいます。つまり高度情報を使って位置を特定させるのは誤差が大きい為リスクが高くなります。(分岐の場所を誤るなど道迷いの原因となりえます。) 高度計を位置特定に利用される場合は、よほど斜度がある4000m以上の高山です。

高山は酸素量をマネージメントする必要があり高度情報は重要です。しかし日本の山では高度計は必須ではありません。このような気圧高度計付き時計を売りたいだけの偽情報にはご注意下さい。

 

気圧計の天候変化を知る手段ついてのウソ

日本の登山のインストラクターを育成するような組織に所属する、アドベンチャー事業会社でのWEBページに、「本来示すべき標高より高い位置を示すような場合、低気圧が急激に近づいていたり、または近くで急激に発達している可能性が考えられます。」と記載されており、あたかも高度計で天候変化が分かるような記述があります。正直これをほんとうに真面目に言っているのでしょうか。

文章から想像すると、たとえば山頂に到着して、山頂にある標高よりも気圧高度計が高めの場合は気圧が下がっていることを言いたいのかもしれません。

気圧高度計は気圧を測っているだけなので、高度計は気圧計も兼用している訳です。しかしあまりご存じない方は登山しながら気圧も同時に測れると勘違いしてしまう内容です。高度計は気圧配置に変化が無いことを前提として気圧変化を高度に換算しています。 もし気圧計として利用したい場合は、長時間その場に留まる場合で且つ、標高がはっきり明記されている場所である必要があります。

理由は、気圧高度計は、気圧変化が低気圧接近によるものか、移動して高度が上がったことによる気圧減なのか区別がつかなくなるためです。気圧配置による変化を知るためには、高度を固定する必要があります。

(船の場合は高度変化がほとんど無いので、移動していても低気圧接近が気圧計で分かります。)

 

実際の気象データを見てみますと、201787日の台風接近による気圧の変化は、大阪の場合以下です。

時刻

気温

降水量

風向

風速

日照時間

湿度

気圧

mm

16方位

m/s

h

%

hPa

1

29.2

0

北東

2.9

 

70

999.4

2

29.4

0

東北東

2.5

 

68

998.7

3

29.3

0

北東

2.8

 

68

997.8

4

26.1

3

北東

5.6

0

89

997.5

5

25.7

7.5

北北東

4

0

94

996.7

6

26.1

1

北東

4.6

0

92

995.8

7

26.4

0.5

北東

4.5

0

91

995.5

8

26.3

2

北東

3.9

0

93

995.6

9

27

0

東北東

5

0

89

994.1

10

27.9

0.5

東北東

6.9

0

84

992.4

11

28.1

0

北東

5.8

0

79

991.4

12

26.5

3

北東

6.3

0

90

990.2

13

26.5

7.5

北東

6

0

93

988.6

14

27.3

0.5

北東

8

0

87

986.8

15

26.6

3.5

北東

8.1

0

91

985.1

16

26.5

1.5

北北東

6.5

0

90

983.4

17

26.1

7

北北東

8.3

0

92

981.6

18

26.6

6

6.7

0

92

982.2

19

26.7

3.5

西南西

3.5

0

91

984.3

20

25.7

9

西南西

4.9

0

95

985.5

21

25.8

10

西南西

7

 

93

986.8

 

グラフにすると台風接近により気圧がどんどん下がっているのが分かります。

これを仮に高さに換算すると午前1時から午後5時の気圧変化は約190mに相当します。

正直高さが分からないので高度計を使っているのに、「本来あるべき高度」から高めに表示されるからと言って低気圧接近を予測している人は本当に存在するのでしょうか。出来もしないことを出来るというのは、信じたかたが遭難する可能性もあるので危険です。

また利用方法として小屋に到着した気圧と翌日の気圧を比較して天気を占う方法も紹介されていますが、そんな面倒なことをせずとも、山小屋に張り出す天気図を見れば一目瞭然です。(テントの方は山小屋まで確認に行きましょう。)

 

気圧低下が悪天候と関係あることは、みなさまなんとなくご存じかと思いますが、実際は以下です。

天気図 天気図

上記は、気象庁http://www.jma.go.jp/jp/yoho/からダウンロードした天気図です。87日の3時(左図)と18時(右図)です。台風が極端な例ですが、空気が山や低気圧・前線などの影響で上昇すると急激に冷やされ、空気に溶けていた水分が霧状の水滴となり雲が発生します。この雲により気流が複雑となり風や雨などにつながるという流れです。

上記は天気図(気圧配置)と雨雲レーダーを強引に重ねたものです。(地図投影法が違っておりますので単なるイメージ図です。) 気圧低下と雨雲との密接な関係がある極端な例です。

上記は気圧と降水量のグラフです。データは気象庁http://www.data.jma.go.jp/gmd/risk/obsdl/index.php# 201710月分です。気圧の変化だけで天候予測は無理です。

現地で気圧低下を気にするぐらいなら、出かける前に天気図を見るとかラジオを聞くか、場合によってはスマホで見る方がよほど精神衛生上良いかと思います。→山の天気予報はここをご参考にしてください。

余計なことですが、台風接近中での入山はやめましょう。(土砂崩れ、川の氾濫など大変危険です。)

 

高度計についてのまとめ

1)気圧配置による気圧変化があるため、精度を維持するためには、頻繁に校正する必要があります。

 GPSによる高度補正を利用する場合でも数m〜60m位の誤差があるという認識が必要です。

2)高度計の使い方としては、登りは高度差から到着予測時間を大まかに推測出来ます。

3)下りは到着予測としての利用は難しいです。(個人的感想ですが…)

4)誤差が大きいため、水平ナビ(位置特定)には利用出来ませんのでご注意下さい。

5)天候の急激な変化を高度計によって知ろうというのは幻想です。

 

高度計も上手く使えば便利かもしれませんが、正直あまり参考にしていません。・・・

 

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