登山でのGPS位置精度の実際_Garmin事例
GPSの位置精度について皆さま気になることかと思います。
よく雑誌等のテストで街を1回だけ歩いて精度(誤差)や機器比較されていますが、実際山では谷や木々も季節により違い、また天候・電離層の状態なども日々変化しますので、1度での比較では結論が出ないかと思います。
このページはGarmin eTrexを何年か利用しての結論となりますのでご参考になれば幸いです。
まずGPS精度は、仕組み・原理でもご紹介しましたが大きく9つの原因があります。まずは受信感度を上げ、位置精度を上げる為には取り付ける位置に注意が必要です。 理想は受信し易い位置としてリュックのトップに入れることなのですが、見るのが大変なので、リュックの肩紐の上部に取り付けが良いかとおもいます。
上記は、GARMIN eTrex30 での受信例です。
画面上で米国GPSが5個、ロシアGPS「GLONASS」が5個受信していることが分かります。グレーに消えている衛星は、障害物があり電波が届いていないことを示しています。上記の例では誤差が4mと表示されていますが、これは実は本当の誤差とは言えません。
(上記左は、山等で電波がブロックされた衛星のイメージ図。 右は谷道から上空を見上げた写真。 山と木々が電波を妨害します。)
GPSに表示される誤差は、衛星同志が計算した位置にどれぐらい矛盾があるかを示しています。電離層などの誤差影響は補正されず、実際の誤差の量を正しく表していません。
(イメージ図のため実際を表しているものではありません。)
それぞれの衛星で計算された位置(青)がゴムを引っ張り合う(最小二乗法)ように現在置(黄色)を推測します。表示精度より誤差が大きい場合がありますので注意が必要です。
上記はGPSレシーバの誤差表示(左側図)が、実際と違っている可能性があるケースです。 青崩道の出口付近ではいつも位置精度5mぐらいとなっていますが、登山道から20m位の振れ幅があり、10mぐらい離れている可能性があります。(上記右は、GPSログを「カシミール3D」で表示したものです。)
金剛山は毎週のように通っていますが、同じ道を何度も通りますので、GPSの精度が高い場合はログの線が重なり細くなるはずです。精度が悪い場合は、ログの線が日によってばらつきます。
場所は、金剛山、青崩(あおげ)から石ブテルートへの林道での受信状況です。物差し(ものさし)の位置では、道幅は4m程度ですが30mぐらいの誤差があることが分かります。 左側の尾根道(青崩道)でも、30〜40mぐらいのバラつきがあります。
赤色=GARMIN eTrex Vista HCx(2007年モデル)
緑色=GARMIN eTrex30(2012年モデル)
上記は、Google Earth上にログをプロットしてみました。右側が青崩道、中央が石ブテ谷林道、左側が丸滝谷に向かう林道です。これでみると、谷道は結構ログが荒れていることが分かります。
青崩トイレ付近の登り口付近をズームしてみました。右側の黄色い線の計測では30mブレています。赤い線は手書きですが登山道です。これを見るとカーナビのように曲がり角をナビで指示という訳には行かないことが分かります。
金剛山の北側斜面全体をGoogle Earthで表示してみます。期間は数年分のログを表示していますが、尾根道と比較して谷道はバラツキがあることが理解できます。白い矢印の部分を少し詳しく見てみます。
注目1:水越峠のバス停付近。
注目2:丸滝谷ルート(谷道)
注目3:ダイアモンドトレール(藪漕ぎではありません・・・)
注目1:水越峠のバス停付近。
まず、金剛山水越峠のバス停付近です。 5年分ログ表示しています。(毎回GPSを持参している訳ではありませんが)50m位の振れ幅があります。 ひどい場合は90mも振れるケースも1件あります。
Google Earth上での角度を変えたクローズアップです。2017年7月9日ログ(水色)は道からの距離(黄色い線)を計測すると約15m外れています。
この場所は、GPS上での誤差は6mと表示されています。下記カシミール3Dと上記GoogleとGPS画面上から判断すると15mなのでGPS画面上の誤差より実際はもう少し大きい可能性があります。(もちろんカシミール3D地図やGoogleEarth写真の位置に誤差がある可能性はゼロではありません。)
同じ所ですが、念のためステレオ画像です。(見方参考)
ログは水平だけではなく垂直にも誤差があることが分かります。
注目2:丸滝谷ルート(谷道)
下図は2016年9月、丸滝谷(谷道)でのeTrex30(緑色)とeTrex VistaHCx(赤色)です。谷道でみると、2つの差がはっきり分かるかと思います。緑色のログがほぼ正しいルートを示しているように思われます。この場所は両岸高い崖に囲まれている所です。
上記矢印の所で小休憩を取りました。
上記は同じ場所をGoogle Earthで逆方向北側から見たものです。白い矢印が休憩した場所です。尾根道と比べ、谷道はログが乱れていることが読み取れます。
下図は上記休憩場所でのGPS画面です。
この画面を見るとeTrex VISTA は、03、17、19、28 の4つの衛星を捕捉しましたが、eTrex30はそれに加えて、「GLONASS」と「みちびき」で合計9個の捕捉していることが分かります。赤い線が米国GPSのみなのでGLONASSを捕捉したほうが精度は高いことが分かります。
上記GPS画面では12mと誤差が計算されています。
上記は休憩場所を拡大したところですが、停止しているはずが20m揺れ動いています。表示しているポイントから本当の位置の差が±12m離れている可能性が有るとすると、2倍の24m振れ幅が生じる可能性がありますが振れ幅はGPS表示と矛盾(むじゅん)がないことが分かります。
受信環境の比較的良い山頂近くで誤差
視点を変えて受信環境の良さそうな山頂付近での誤差を計測してみます。
上記は金剛山山頂付近の大日岳です。
道幅1m位しかありませんが、15m位の振れ幅があります。平均しても道の中心から8m程度の誤差があることが分かります。
右の写真は計測場所(冬)を撮影したものです。山頂部分でも回りは木々に囲まれています。
上記は同じ場所でのGPS受信画面です。
グレーに消えている衛星が無く、受信状況は良いことがわかります。 (50番は「ひまわり7号」です。)
精度は4mと表示されていますが、これも実際はそれ以上の誤差が疑われます。
山頂の広場から青崩道におりる急斜面は35m程度の振れが生じます。(eTrex30のみで比較)上記中央の青い旗の下側のログの乱れはトイレの建物に入ったためです。
同じ場所をGoogle Earthで計測すると登山道から最大19m外れています。(中央左の黄色線)中央のログのかたまりは休息場所です。(eTrex30のみで表示) GPSレシーバごとリュックを肩から降ろしたため受信感度が悪くなったせいか5〜20mの範囲でうろうろしています。
衛星受信数と精度(誤差)の関係調査
Garmin eTrex30(緑)とVISTA HCx(赤)を使い衛星受信数と誤差を比較してみます。(緑がeTrex30,赤がeTrex Vista HCx)
下記GPS画面はeTrex30のみ記載しています。二上山位の山では比較的衛星受信数が多く、表示上の精度が2〜6mと表示されます。
駐車場から右回りで一周しましたが、前半はeTrex30がHCxより2〜3m精度高く表示されました。しかし不思議なことに、衛星50番「ひまわり7号」をHCxは受信し、グラフに「D」が表示されましたが、eTrex30は受信しませんでした。山頂から戻るルート上では、eTrex30も衛星50番を受信しており「D」マークが表示されています。
上記観測の結果からは、受信衛星数と誤差の関係が明確になりませんでしたが、GPS画面上に表示されている誤差は、DOP(資料P7)と密接に関係するかと想像されます。GPS衛星受信数は、6〜9個でした。(みちびき、ロシアの衛星を含めると、最大17個)となりました。
DGPSの有効性
大気や電離層等の誤差を取り除くためには、DGPS情報(WAAS、MSAS)を受信する必要があります。(詳細) 二上山で下りの道は、Garmin eTrex30とVISTA HCxはMSASを受信しました。となるとこのトラックはかなり精度が高いはずなのですが、よく一致している白矢印だけでなく、15mずれている赤矢印の箇所があります。(山頂でさすがブレ幅が極小となっています。)
つまりDGPS信号を受信している場合でも10m程度の誤差が生じる可能性があります。
高度誤差
ログは、GPSと気圧計を使って標高を記録しますが、平面誤差同様に上下の高度誤差が生じます。
上記は、Google Earthで表示したものです。ステレオ画像となっていますので3Dメガネなしでも左右の画を上手く重ねてみていただくとトラックが立体的に浮き上がって見えるはずです。(見方参考)
左右と上下にバラツキが生じていることが分かります。
高さも50〜60m誤差があります。(GPS利用中はあまり高度計を気にしていませんが、気圧計が付いているGPSの高度誤差の原因は歩行開始前の校正を行っていないことかと考えています。)
空中を浮遊しているログは、設定ミス(固定気圧モードで使ってかつ自動補正を行わない設定)と思われます。
上記は、GPSレシーバの高度計の自動校正が「オン」で大気圧モードが「可変」と正しく設定された場合、登山を開始して、GPSが高度を認識すると最初は268mだった高度が387mまで急に上昇しています。
高度計については別ページにまとめましたので、ぜひご参照下さい。
eTrex Vista HCx(2007年モデル)の誤表示
注目3:ダイアモンドトレールでの乱れ
5年前購入のeTrex Vistaが大きく場所を間違える病気をもっています。これは個体不良なのかGPS全体の問題かは不明ですがご参考までにご紹介いたします。
(その1)
2016年12月金剛山ダイアモンドトレールの林道ですが、80m外れてしまいました。GPS受信機は肩に露出して付けたのですが・・・。
(その2)
2016年12月金剛山太尾根を水越から登るルートで比較的受信場所の良い尾根で発生、50m位外れています。他の場所では問題ないので不思議な現象です。
(その3)
2016年11月石ブテへの林道で発生しました。140mを超える誤差です。帰りは正しく表示されているので間欠的に発生しています。
(その4)
2016年10月西穂高ロープーウェイで発生しました。60m誤差です。行きは正確で、帰りに発生しました。リュックのトップに入れたので他の荷物に邪魔された可能性もありますが…。
(その5)
上記の病気を過去に遡り調べてみると・・・
2014年にも発生していました。120mもずれています。この場所は毎週のように通っているところなのでGPSも見ていませんでしたが・・・
これはあくまでも推測なのですが、米国GPSだけだと上記のような現象がたまに発生する可能性があります。このような現象がたまにでも発生するとなるとGPSも100%信用という訳にはなりません。(新しくeTrex30を導入しておいて良かったです。)現時点では「みちびき」の効果は無いとしても、GLONASSを有効にしておいたほうが良いと個人的には考えています。
皆さまのGPSも日ごろから自分のGPS精度(スマホも同様)を確認しましょう!
2018年11月から「みちびき」運用開始
いよいよ「みちびき」の本格運用がスタートしました。
GARMINの英語版では、255番が2つ受信しているように見えています。
でもトラフィックは道から6mは離れているように見えます。
GARMIN英語版は255番衛星を測位に利用していない可能性もゼロではありませんが…。
http://sys.qzss.go.jp/dod/naqu.html
では、運用開始後でも結構活動停止している点が気になります。(^-^;
結論
@山でのGARMINを使ったGPSの精度は比較的受信状況の良い場所でも9m程度です。 (Garmin eTrexでの経験上の話。 またGPS画面上の誤差は実際より過少で表示されている可能性があります。) 谷道ではGLONASSを併用しても30m以上誤差が生じる可能性があります。
AロシアのGLONASSは、平坦な視界の良い場所では精度を落としている可能性もありますが数mであり誤差の範囲です。谷道ではGPSだけでは数十m誤差が生じる可能性があるためGLONASSは有効なことは間違いありません。(尾根上での多少の精度悪化を犠牲にしてでも有効にすべきと考えます。)
B「みちびき」は山においては、精度改善にあまり関係しません。また山ではWAAS,MSAS(DGPS)による精度改善は過度な期待できません。(「ひまわり」を捕捉しない。また捕捉したとしても精度があまり向上しない。 将来「みちびき」がDPGS補正信号を発信した場合でも同様の可能性があります。)
余談
@不思議な現象ですが、eTrex30は衛星42番と50番(つまり「ひまわり」)の捕捉は苦手のようです。
A2016年11月に打ち上げられた「ひまわり9号」は気象衛星データ精度向上でデータ量が増えたため、MTSAT機能を「みちびき」に譲るため、GPS/MSAS機能を搭載していない様子です。