更新日 2005.05.09 | ![]() |
My Heart Stood Still |
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(ジャンル:ロマンス、歴史もの ファンタジー) | |
著者:Lynn Kurland | |
邦訳:なし | |
おすすめ度:★★★☆☆ |
背景 | 21世紀のイギリスから、14世紀のスコットランドにタイムスリップした男の物語。 A Dance Through Timeから始まったシリーズの一巻。A Dance Through Timeの主人公、ジェイミー・マクラウドの子孫が主人公。A Dance Through Timeを読んでからの方が背景がわかりやすい。 |
あらすじ | トーマス・マキノンはアメリカで事業を営むやり手の実業家であり、オフには登山を楽しみエベレストも征服したというスポーツマン。 そんなトーマスが、夢に現れたイギリスの古城にとりつかれ、夢とそっくりの古城を買って修復にとりかかる。 ところがその古城は、ゴーストの棲家だった。スコットランドの戦士のゴーストたちにまじって、一人の女性のゴーストが600年の間そこに住み続けていた。 その名は、イオランス・マクラウド。14世紀に生きたハイランド人だった。 実の母を幼くして亡くし、父マルコムと異母きょうだいに疎まれ、イギリス人貴族チャールズに売られてこの城に連れられてきた。「マクラウドの城の秘密を教えろ」と迫るチャールズに、「一族に秘密を明かすくらいなら死ぬ」と勇敢に沈黙を守り、殺されたのだ。以来彼女はゴーストとなってその城にとどまり、観光客や城に住もうとした者を追い払ってきた。 新大陸からやってきたよそ者を追い払おうとしたイオランスは、トーマスを見て息を呑む。彼こそ、彼女が死ぬ前から夢に見ていた、自分を救ってくれるはずの男性だったのだ。 けれども彼は700年遅かった。彼は700年前、イオランスが殺される前に救いにきてくれなければならなかったのに。 トーマスもイオランスを見て、夢に見たことのある女性だと気がつく。そして恐怖や驚きを乗り越えて彼女と語り合ううち、生身の人間であるトーマスと、ゴーストであるイオランスは恋に落ちる。 だがゴーストが相手では、手を握ることさえかなわない。あきらめきれないトーマスは、イオランスの話を聞くうちにあることに気がつく。イオランスの祖父ウィリアムの祖父であるジェイミーだけには、死んだという記録がないのだ。これが、イオランスが命を懸けて守ったマクラウド一族の秘密に関係あるのではないかと考える。 仕事のためアメリカに一時帰国した際、偶然トーマスは、姉がマクラウドという男と結婚したという、アレックス・スミスに出会う。アレックスの義兄の名前はジェイミー・マクラウド。トーマスはアレックスから、マクラウド一族の秘密がタイムトラベルであることを知る。 そうなればトーマスの選択肢はただ一つ。タイムトラベルによってイオランスが殺される前の時代へ行き、彼女を救うのだ。ジェイミーに相談し、中世の敵を倒すための剣の訓練を受けたあと、14世紀へ向かう。 だが、そこには一つ大きな問題があった。14世紀で生きているイオランスはトーマスを知らないのだ。イオランスがトーマスと出会って恋に落ちるのは、死んでからのことなのだから・・・。突然未来からやってきて自分を救ってくれる男性を、イオランスは認識できるのか?「未来を記憶する」ことは可能なのだろうか?救出されたイオランスは、トーマスと再び恋に落ちるのか? |
感想 | このシリーズのほかの作品では、主人公がタイムトラベルするのは(少なくとも最初の一回は)偶然であり、本作品のように最初から「この時代へいく」という目的意識を持ってタイムトラベルするというパターンは珍しい(短編では他にもあるが)。ゴーストとタイムトラベルがこの物語の柱であり、その意味ではシリーズ中最もファンタジー度の高い作品。 殺される前のイオランスが、殺されてゴーストになってからトーマスと出会ったこと(つまり彼女にとっての「未来」)を記憶しているかどうか、というのは、考えれば考えるほど頭が痛くなる問題で、SFに詳しくない私にとっては非常に難しい。でも面白い設定であるのは確か。 また、「夢のお告げ」も大きな要素になっている。イオランスもトーマスも、実際に出会う前から互いを夢で知っていたのだし、トーマスは自分が買う古城も既に夢見ていた。イオランスはトーマスのアメリカの自宅も見る前から知っていた。すべては夢とデジャ・ヴの通りに事が運んでいく。 ここは正直、行き過ぎのような気がした。トーマスとイオランスは最初から(トーマスが実際に生まれる700年前の14世紀から)、結ばれる運命が決まっていたということになる。つまり決まった運命に沿って行動しただけの話で、そこに彼ら自身の自由意志はないのか、と言いたくなってしまう。 前述のように、他の作品では主人公の最初のタイムトラベル、つまり最初の出会いは偶然によるもので、彼らが恋に落ちたのも予定調和ではなく彼ら自身の感情と意志であるはず(A Dance Through Timeでは確かに二人は出会う前に互いを夢に見ていたが、そこから結ばれる過程までは彼らの選択によっていた)。それに比べると、あまりにも偶然でなく必然が支配する要素が大きい。 そこにひっかかりを感じたので★三つにとどまった。 ただし、あまり深く考えず楽しむには十分面白い話であるし、相変わらず脇役がなかなか良いキャラクターなので許せる。 また、イオランスの中世での生い立ちが、ジェイミーの弟パトリックが主人公であるA Garden in the Rainにも少しかかわってくるので、次につなげるためにも読んでおいて損はない。 |