更新日 2005.05.09
A Garden in the Rain
(ジャンル:ロマンス、歴史もの ファンタジー)
著者:Lynn Kurland
邦訳:なし
おすすめ度:★★★★☆


背景 場所はイギリス・スコットランドの北部、ハイランド地方。
21世紀を主舞台とするが、途中14世紀へのタイムスリップもあり。

A Dance Through Timeから始まったシリーズの一巻。A Dance Through Timeの主人公、ジェイミー・マクラウドの弟が主人公。A Dance Through Timeを読んでからの方が背景がわかりやすい。また、My Heart Stood Stillの登場人物との関連もあるので、そちらも先に読んでおいた方が良い。
あらすじ マデリンは傷心でスコットランドに降り立った。同じ法律事務所で働くベントレーと婚約していたのに、一方的に破棄されたばかり。二人で計画したスコットランド旅行に、一人で来たのだった。
ところが予約した宿に来て驚く。ベントレーが待っていたのだ。それだけではない。予約した部屋に居座り、しかも彼女のスーツケースを盗んで身動きを取れなくして困らせる。マデリンにはベントレーの思惑が理解できない。
なんとかベントレーを振り切って一人で観光に出るが、そこで一人の男性に出会う。パトリックだ。

パトリックは実は14世紀にハイランドに生きた領主の弟。9年前タイムスリップして現代に暮らすようになった。ある女性と結婚したが彼女は出産のとき亡くなり、今は同じくタイムスリップしてきた兄夫婦のそばに住んでいる。
マデリンとパトリックは出会った途端、なにか運命的なものを感じ、惹かれあった。

マデリンはしつこくつきまとい嫌がらせをするベントレーから逃げたいという思いもあり、パトリックにあちこち案内してもらってスコットランドを見て回る。その間に二人は互いに離れられない想いを抱くようになる。

だがパトリックは、前の結婚で傷ついた上、亡くなった妻の父から、「おまえが娘を殺した」といわれのない疑いをかけられ、報復の危険も感じている。マデリンを愛するようになりながらも、本心を告白できずにいる。

ベントレーは、マデリンの父を利用して有力者と近づきになるためにマデリンに言い寄ったのだった。マデリンのつてが不要になったと思って一度は彼女を捨てたが、まだ利用価値があることに気がついて再び彼女に近づいてきたのだ。
マデリンはベントレーへの気持ちは冷めているし、パトリックを愛し始めている。しつこく言い寄るベントレーから逃げて森へ入った彼女は、14世紀にタイムスリップしてしまった。

マデリンが森で行方不明になったことを知ったパトリックは、彼女を助けに過去へ。敵に捕まっていたマデリンを救い出して現代に戻る。
だがそこでは、かつての妻の父がパトリックの家に放火していた。マデリンと暮らせばマデリンまで危険にさらすことになる。それを恐れたパトリックは、愛の告白をしないまま彼女をアメリカに送り返した・・・
感想 パトリックはハンサムで優しく、思いやりあふれる男性。A Dance Through Timeの主人公ジェイミーは武骨を絵に描いたような男だったが、弟のパトリックの方は良く似た外見ながらも、かなりソフトな性格。
最初の妻はパトリックを愛しておらず、お腹の子どもも愛人の子どもだった。そんな不幸な結婚をいつまでもひきずって、マデリンとの仲も進みそうで進まないところがじれったいといえばじれったいのだが、それが彼の優しさなのだろう。自分に対する攻撃から彼女を守るために、戦うのでなく彼女と別れようとするところは、必死で「現代人」になろうという彼の苦悩の現われと見た。
けれども彼女に、「(自分を救うために勇敢に戦ってくれた)中世のあなたの方が好きだった」と言われ、立ち向かうことを決心する。が敵を殺してしまわなかったのは彼を「殺人者」にしないための作者の思いやりだ。
対するマデリンは、アメリカでは弁護士をしていたというだけあって非常に頭のいい女性だが、それほど気は強くない。自分を捨てた男からの執拗な嫌がらせに閉口するが、宿の主人ロディや、パトリック、パトリックのいとこイアンなどから厚意を示されて感激する。結構遠慮しつつ徐々にその厚意を受け入れていくところなどは、アメリカ女性にしてはかなり謙虚で好感が持てた。

タイムスリップがメインテーマではないと言っても、実はキーポイントとなるところで何度かタイムスリップが登場し、「えっ、あの人もタイムトラベラーだったの?」ということまであって(誰かはナイショです)、ハイランドのあちこちでスポッスポッと滑りまくっているようで面白かった。
また、ゴーストが何人も出てきて、そのうちの一人とはタイムスリップした中世でのかかわりがあとで明らかになる。このあたりはMy Heart Stood Stillとの関連もあって、そっちを読んでいないとややわかりにくい感あり。

現代が中心なので、A Dance Through Timeのような中世の香り(というより臭い)があまりしないのは残念。でも、パトリックの剣捌きが見られるところは何箇所かあり、やはり魅力的だった。

お話全体としては少しA Dance Through Timeに比べると重苦しい(不幸な結婚を悔やむパトリック、元婚約者にストーカーのようにつきまとわれるマデリンの二人が主人公なので)雰囲気があるのだが、いくつか他の登場人物の絡んだユーモアたっぷりのエピソードもあって救われている。

男臭さが薄まってその分ロマンチック度が増した作品。