爪

こんなにも　あなたが
日々　心を寄せ続けるとは
誰も　思わなかったでしょう
多分　あなた自身も

そんなに　気持ちが和みますか
そんなに　会うのが楽しみですか
そんなに　可愛いですか
あなたの　花穂が

もちろん
ふしぎな生命力で
伸びる　新芽そのままに
ぐんぐん成長して

表情や　しぐさが
微笑ましく　おかしくて
過ぎ行くときを　忘れるほどの
共にいる　ひととき

それが分からないではありません
ほんの　数日いるだけで
とても　面白く愉快です
ぼくも　満ち足りています

それにしても···
あなたの　変わりようは
とても　興味深い−

そして　あの日
突然　分かったのです
あなたを　惹きつけて止まない
誘引の秘密が····

花穂の　足の爪が
あなたの爪そっくり−
花穂に　あなたの
DNAが　受け継がれている印し

まぎれもなく
両親に　よく似ている
花穂が、そんなところに
ひそかに　伝えている血筋

みずからは　産む役割を
果たし終えて
次世代へ　さらに
次の世代へ　命を伝えてゆく

生命体の　不思議を
見る思いが
あなたに繋がります
不思議な　あなた

娘から妻へ
妻から母へ
母から祖母へ　変身して
でも　いつまでも　あなたはあなた

あなたとぼくの
暮らしは　いつか
三十年を超えて　周囲は
何もかも　変りました

家庭を慈しむ春菜
成長する花穂
伴侶を連れてくる岳彦
青春の夏苗
それでも　あなたとぼくは
やっぱり　かわらずに
いつまでも−
おこったり　笑ったり
困ったり　喜んだりして

ずっとずっと　遠くまで
遥かな遥かな
彼方まで　いつも
一緒に行きましょう

あなたと訪れた
国々の　美しい　とても
素敵な思い出を
これからどんどん

ずんずん増やして
行きましょう　まだまだ
もう　あきれるほどに
一緒に行きたいところは

あるのですから。いいえ
あなたと一緒なら
ほんの手近なところでも
とても素晴らしい

そうですとも
ぼくとあなたの周囲には
そのうちに　あなたの爪をもった
チビすけどもが

花穂を先頭に　どっと
あふれて　泣き喚き
駆け回る　そんな世界が
きっと実現するのですよ

1998.8.25

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