ぼくの大好きなコロッケ

大好物がコロッケだといったら
ひとは笑うだろうか
庶民的な好み とでも
いうだろうか

結婚してからの好み だといったら
ひとはもっと笑うだろうか
きょうもコロッケ、明日もコロッケの歌を
思い出すだろうか

そこで、説明がいるだろう
ぼくの好きなのは コロッケ一般ではないことを
コロッケはコロッケでも
コロッケが違うことを

ぼくの好きなコロッケは
特製のコロッケ
菊枝のコロッケ
そう、キクロッケ

決め手はホワイトソース
精魂こめて慎重に
かたすぎず、柔らかすぎず
練りに練る

手練の技も
時には失敗に終わる
あれれ、コロッケは
グラタンに化ける

失敗のもとは何?
当人も気づかぬ原因を
長年の観察に探れば
それは心の安定度
だからコロッケはココロッケ

料理人の心理が微妙に映える
コロッケは繊細な料理
コロッケの出来ばえは
菊枝のいまを語る

具はカニがいちばん
エビもわるくない
ジャガイモはいただけない
ホワイトソースとの親密さがかなめ

ぼくはソースを加えない
コロッケの妙味を妨げる
舌の上にじんわりと広がる
生の味がいいから

でも、ひょっとして、もし
特製ソースができたら もっといいかな
そう、Croquette Sauce Kikue
これは研究に値する

ぼくの大好きなコロッケ
キクロッケはココロッケ
おいしいコロッケはぼくの幸せ
上出来のコロッケは幸せの菊枝

1982.8.25

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