赤い屋根

ネクタイが素敵だと みんながいう
幅広の襟 パンタロンの背広
カラーシャツに薄手のストッキング
洒落たスタイルは誰のせい 誰の好み

こんなぼくの 今日の日々を
演出したのは誰
今日のぼくを ぼくたらしめたのは誰

ぼくがいま ここにある不可思議

父が死んで
国民学校2年生だったぼく
母と弟を残して
集団疎開に加わったぼく
ひもじさと淋しさの中に
活きる厳しさと必然の勇気を
幼な心に感じた日々

原爆が落ちて 戦争が終わり
あなたが生まれ
そして茫々三十年·······

岳彦が小学二年生
わが家は赤い屋根
ピアノを弾く春菜
Made In SWISSのネクタイ

今日あるぼくの
きっかけは
二十歳のあなた

二十一歳結婚
二十二歳出産、それから········
母が逝き、婚礼二回、再び出産
寛治の死、転勤、引越し
ぼくと過ごして十年

十年ひと昔
ぼくはいまここにある
今日、あなたは三十歳

  1975.8.25


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