「まえがき」から引用する。
この本は,一般技術者ならびに理工系大学生のための実験計画法の入門書である.
「まえがき」から別の個所を引用する。
実験計画法の勉強に関しては,これを統計学の応用と位置づけ,データ解析の数理だけを追求してはいけない. そもそも,この数理はそんなに面白いものでもないし,これだけで実験計画法が理解できるものでもない. 実験計画法では,計画に関する議論の方が重要であるということを強調しておきたい.
最初の文でこれを統計学の応用と位置づけ
の句がどのようにかかるかがわかりにくい。きっとこの文は、
「実験計画法は統計学の応用だからデータ解析の数理を追求しよう」と考えてはいけない、
という意味だと思う。学問であれば学問の真理を追究するのは当然であろう。
だから「追求してはいけない」、とたしなめられると困ってしまう。
ここでは「データ解析の数理だけを」という限定に対する否定だから、過度の否定ではないだろう。
実験計画法は計画の議論が重要である、ということは個別の計画の議論が重要だ、
と私は理解している。フィールドワークのようなものだろうか。なお、面白いのは
「数理はそんなに面白いものでもない」と面白さを部分否定していることで、それがかえって面白い。
p.42 の例題3.1 を引用する.
ある合成樹脂成型品を製造している工程で,製品の抗析力を高めるために,因子,水準として, 成型時の圧力 (`A`) を 4 水準 (`A_1 = 140`, `A_2 = 160`, `A_3 = 180`, `A_4 = 200` (kg/cm2)),温度 (`B`) を 3 水準 (`B_1=160`, `B_2=180`, `B_3=200`(℃)) に選んだ.過去の実験より 2 因子間の交互作用をチェックする必要があったので,2 因子の各水準組み合わせを 2 回ずつ行うこととし,合計 24 回の実験はランダムな順序で行った.
得られたデータは図表 3.1 のようであった.このデータを解析して結論を出せ.― (図表は省略)
この抗析力
とは何かがわからなかったが、調べてみると正しくは抗折力(曲げ強さ)と呼ばれるもののようだ。
次の論文では、最初は「抗析力」という活字が本文中にあるがのちには「抗折力」という活字になる。
図表に入っている手書きの文字も「抗折力」である。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspm1947/12/2/12_2_55/_pdf
実験計画法を解説した永田靖:入門実験計画法の中で、Resolution Ⅳ を次に学ぶべき課題として挙げて、 本書を参考文献に挙げていた。ということで本書の Resolution Ⅳ について見てみた。
p.166 では、「§7.6 わりつけの工夫 ― Resolution Ⅳ のわりつけ」という節がある。少し読んでみると、p.167 に説明があるので引用する。
一般的にいうと,無視している 2 因子交互作用がたとえ存在したとしても, それが主効果と交絡することがないようにわりつけをするのがよい.このようなわりつけは主効果と 2 因子交互作用が互いに別名(alias)関係にならないわりつけ, または Resolution Ⅳ のわりつけとよばれている.
「Resolution Ⅳ のわりつけ」ということばで表される概念について、私はうすうす感じていた。たとえばこういうことだ。直交表の最初の導入で、 たとえば、「因子が `A, B, C, D` の 4 つで交互作用はないものとする.」と書かれていたとする。なるほど、初学者にとってこのような仮定は必要だ。しかし、 実務ではどうだろうか。「実は `A` と `B` のあいだに交互作用がありまして…」などと言われるのが現実なのだ。そうやってはしごを外される場面は数多く見られる。そして、 本書の p.137 を見てみると、因子を列番に割りつけた表がある。
列番 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
要因 | `A` | `B` | `C` | `D` |
なぜ、要因 `A, B, C` をそれぞれ列番 1, 2, 3 にわりつけておきながら、要因 `D` を 4 にわりつけるのではなくいきなり 7 に飛ばすのだろうか。そのあたりが不思議に思うのだった。 これが Resolution Ⅳ を導入するための伏線になっているような気がする。なお、上記のわりつけ表は Resolution Ⅳ ではないように思えるのでますます不思議である。 なお、Resolution はこの文脈では「分解能」という意味である。factorial design (要因計画)に関して、関心のある因子の水準の組合せすべてを実施するものを完全実施要因計画(full factorial designs)、 一部の組合せしか実施しないものを一部実施要因計画(fractional factorial design)というが、 Resolution Ⅳ は一部実施要因計画の一研究分野である。
分割法は難しい。本書の p.110 以降をさらっておく。
例題 6.1 ある焼結物の強度を高めるために,焼結温度(`A`)を `A_1, A_2, A_3, A_4` の 4 水準,原料の配合(`B`)を `B_1, B_2, B_3` の 3 水準にとりあげた. 繰返しを入れた 2 因子要因実験をしたいのであるが,焼結温度は水準の変更が困難であるので,分割法を採用することにした. まず,温度について,ランダムに水準を選び,同じ温度に対しては `B_1, B_2, B_3` の 3 試料を同時に焼結した. この実験を 2 回反復した.得られた強度のデータは図表 8 のようであった。このデータを解析せよ.
反復 1 (`R_1`) `A`\`B` `B_1` `B_2` `B_3`
反復 2 (`R_2`) `A`\`B` `B_1` `B_2` `B_3`
データを変換する。`u_(ijk) = (x_(ijk) - 25.0) times 10`
`R_1` `A`\`B` `B_1` `B_2` `B_3`
`R_2` `A`\`B` `B_1` `B_2` `B_3`
補助表を作る。`A` と `B` との2元表、`A`と `R` との2元表である。
`A`と`B`との2元表 `A`\`B` `B_1` `B_2` `B_3` 計
`A`と`R`との2元表 `A`\`R` `R_1` `R_2` 計
平方和の計算は次のとおりである。
`CT' = (4)^2/ 24 = 0.7`
`S'_T = (-2)^2 + (-6)^2 + cdots + (-5)^2 + (6)^2 - 0.7 = 627.3`
`S'_R = ((-3)^2 + (7)^2) / 12 - 0.7 = 4.1`
`S'_A = ((-32)^2 + (12)^2 + (21)^2 + (3)^2 ) / 6 - 0.7 = 269.0`
`S'_(AR) = ((-21)^2 + (11)^2 + cdots + (-1)^2 ) / 3 - 0.7 = 302.0`
`S'_(e1) = S'_(A times R) = S'_(AR) - S'_A - S'_R = 28.9`
`S'_B = ((10)^2 + (-9)^2 + (3)^2 ) / 8 - 0.7 = 23.1`
`S'_(AB) = ((-2)^2 + (-7)^2 + cdots + (15)^2 ) / 2 - 0.7 = 579.3`
`S'_(A times B) = S'_(AB) - S'_A - S'_B = 287.2`
`S'_(e2) = S'_T - (S'_R + S'_A + S'_(e1) + S'_B + S'_(A times B)) = 15.0`
これらは変換された数値についての平方和であり,もとのデータの平方和は,これらを `(10)^2` で割ったものである.
ここで `CT` (修正項、Correction Term) や平方和 `S` にダッシュがついているのは、`u_(ijk) = (x_(ijk) - 25.0) times 10` によって変換された数値についてであることを明示するためである。
`CT'` は、以降の平方和を求めるときの 0.7 を意味している。
`S'_T` は、平方和の項が全部で 24 ある。これはわかりやすい。
`S'_R` の第1項の分母は `A` と `R` の 2 元表における `R_1`の計と `R_2` の計の平方和、第1項の分子は各 `R` のデータ数である。
`S'_A` の第1項の分母は `A` と `R` の 2 元表における `A_i (i = 1, 2, 3, 4)` の計の平方和、第1項の分子は各 `A_i` のデータ数である。
`S'_(AR)` の第1項の分母は `A` と `R` の 2 元表における `A_iR_k (i = 1, 2, 3, 4, k = 1, 2)` の計の平方和、第1項の分子は各 `A_iR_k` のデータ数である。
`S'_B` の第1項の分母は `A` と `B` の 2 元表における `B_j (j = 1, 2, 3)` の計の平方和、第1項の分子は各 `B_j` のデータ数である。
`S'_(AB)` の第1項の分母は `A` と `B` の 2 元表における `A_iB_j (i = 1, 2, 3, 4, j = 1, 2, 3)` の計の平方和、第1項の分子は各 `A_iB_j` のデータ数である。
ⅳ 分散分析表は次のようになる。ただし、本書では `F_0` の値に 5 % 有意および 1 % 有意を表すそれぞれ *, ** の印を載せているが、
転記に当たっては載せていない。その代わりに `P` 値を計算して載せた。本書本文の記載、`A, B` が 5 % 有意,`A times B` が 1 % 有意となり
ということがわかると思う。
変動因 | 平方和 | 自由度 | 平均平方 | `F_0` | `P`値 | 平均平方の期待値 |
---|
反復 `R` の `F_0` に線があるのは、本書 p.112 で反復は有意でない
という記述に呼応している。なぜ反復が有意でないかというと、
おそらく反復の平均平方 0.041 が 1次誤差の平均平方 0.096 より小さいからであろう(わざわざ `F_0` を計算せずとも有意でないことが明らかということ )。
ここから単なる写経ですらきついので取りやめる。ただ、分割法を使わない場合の分散分析表と分割法を使う場合の分散分析表を対比してみよう。 ここで1次因子を `A` (`a` 水準)、2次因子を `B` (`b` 水準)、1次因子 `A` の各水準の繰り返し数を `n` とする。左が分割法を使わない場合の分散分析表(p.87)、 右が分割法を使う場合(1次因子 `A` の繰返しを乱塊法で行なう場合)の分散分析表(p.87)である。
変動因 | 平方和 | 自由度 | 平均平方 | `F_0` | 平均平方の期待値 |
---|---|---|---|---|---|
`A`間 | `S_A` | `phi_A = a - 1` | `V_A` | `V_A // V_e` | `sigma_2^2 + b n sigma_A^2` |
`B`間 | `S_B` | `phi_B = b - 1` | `V_B` | `V_B // V_e` | `sigma_2^2 + a n sigma_B^2` |
`A times B` | `S_(A times B)` | `phi_(A times B) = (a-1)(b - 1)` | `V_(A times B)` | `V_(A times B) // V_e` | `sigma_2^2 + n sigma_(A times B)^2` |
ブロック間 | `S_R` | `phi_R = n - 1` | `V_R` | `V_R // V_e` | `sigma_2^2 + a b sigma_R^2` |
誤差 | `S_e` | `phi_e = (ab-1)(n - 1)` | `V_e` | `sigma_2^2` | |
総 | `S_T` | `phi_T = abn - 1` |
変動因 | 平方和 | 自由度 | 平均平方 | `F_0` | 平均平方の期待値 |
---|---|---|---|---|---|
反復 `(R)` | `S_R` | `phi_R = n - 1` | `V_R` | `V_R // V_(e1)` | `sigma_2^2 + b sigma_1^2 + a b sigma_R^2` |
`A` | `S_A` | `phi_A = a - 1` | `V_A` | `V_A // V_(e1)` | `sigma_2^2 + b sigma_1^2 + b n sigma_A^2` |
1次誤差 `(e_1)` | `S_(e1)` | `phi_(e1) = (a - 1)(n - 1)` | `V_(e1)` | `V_(e1) // V_(e2)` | `sigma_2^2 + b sigma_1^2` |
`B` | `S_B` | `phi_B = b - 1` | `V_B` | `V_B // V_(e2)` | `sigma_2^2 + a n sigma_B^2` |
`A times B` | `S_(A times B)` | `phi_(A times B) = (a-1)(b - 1)` | `V_(A times B)` | `V_(A times B) // V_(e2)` | `sigma_2^2 + n sigma_(A times B)^2` |
2次誤差 `(e_2)` | `S_(e2)` | `phi_(e2) = a(b-1)(n - 1)` | `V_(e2)` | `sigma_2^2` | |
総 | `S_T` | `phi_T = abn - 1` |
書名 | 実験の計画と解析 |
著者 | 鷲尾泰俊 |
発行日 | 1988 年 5 月 18 日 第1刷 |
発行元 | 岩波書店 |
定価 | 2400 円(税別) |
サイズ | B6 版 |
ISBN | 4-00-007764-3 |
NDC | |
備考 | 川口市立図書館で借りて読む |
まりんきょ学問所 > 統計活用術 > 統計の本 > 鷲尾泰俊:実験の計画と解析