スカルラッティ作品の編曲

作成日:2012-06-29
最終更新日:

1. スカルラッティの作品は編曲されているのか

曲の有名度と名作度をはかる手っ取り早い方法として、編曲がどのくらいあるかを調べるという手がある。 スカルラッティの作品の場合はあまり編曲されていないのはないかと心配している。 なお、オーケストラ作品についてはスコット・ロスの全集についている解説を参考にした。 また、原則として作品はカークパトリック番号で引用し、私が個別に解説しているソナタにはハイパーリンクを付した。 ハイパーリンクをクリックすると、冒頭の楽譜も参照できる。

2. アルフレード・カゼッラのスカルラッティアーナ

イタリアの作曲家、カゼッラ(カセルラ、カセッラの表記もあり)は大先輩のスカルラッティを尊敬していたのだろう。 スカルラッティのソナタを題材に使ったオーケストラ曲「スカルラッティアーナ」Op.44 を作った。 全5楽章からなる。http://www.youtube.com/watch?v=l5GM5K42a_4 を参照されたい。 なお、Nicolas Slonimsky によれば、ちょうど 88 のテーマがあるという。

2-1 Sinfonia: Lento, grave -- Allegro molto vivace

Lento grave の冒頭は K.52 (L.267) である。 Allegro では引用されているテーマがかなりあるはずなのだが、私の力ではわからない。

2-2 Minuetto: Allegretto ben moderato e grazioso

ここにはメヌエット風の有名な作品が集まっている。冒頭は K.440(L.97) であり、 有名な K.380 (L.23) がよく出てくる。K.259(L.103)やK.162(L.21) も顔を出す。

2-3 Capriccio: Allegro vivacissimo ed impetuoso

ここにもいくつか彼の作品が集められている。 K.31, K.89, K.450 などが中心となっている。

2-4. Pastorale: Andantino dolcemente mosso

6/8 拍子系のリズムをもつ曲が集められている。K.446 など。

2-5. Finale: Lento molto e grave -- Presto vivacissimo

全体的かつはっきりと引用されているテーマがあると思うのだが、第1楽章と同じく私の力ではわからない。 それでもときどき、K.412 が場違いな形で出てくるのがおかしい。また、中間部で 猫のフーガ K.30 が重なるところがばかばかしくてよい。

3. エイヴィソンの編曲

チャールズ・エイヴィソン( Charles Avison, アヴィソンの表記もあり)はイギリスの作曲家である。 『ドメニコ・スカルラッティのソナタに基づく12の合奏協奏曲』 を作曲した。第1番と第2番は全 3 楽章、第12番は全 6 楽章であるほかは、 全 4 楽章からなる。 中にはスカルラッティのソナタにはない楽想もある。これはエイヴィソン自身のものだろう。 この編曲については、スカルラッティの長所を生かしたという讃辞もあれば、スカルラッティの躍動感が失われているという批評もある。 私は一部を聴いただけだが、どちらかというと讃辞を送る。というのも、私自身がアマチュアの弦楽合奏団の一員だからである。 以下、引用作品が明確であればそのカークパトリック番号もカッコ内に付す。

第3番ニ短調

Youtube では、第 3 番ニ短調が http://www.youtube.com/watch?v=1xYnxNEApT4 で聴ける。 全4楽章は次のとおり。

  1. Largo Andante (K.89b)
  2. Allegro Spiritoso (K. 37)
  3. Amoroso (K.38)
  4. Allegro (K. 1)

第 5 番ニ短調

第 5 番ニ短調 もYoutube にアップロードされている( https://www.youtube.com/watch?v=uI74BaE0ltg )。 全4楽章は次のとおり。

  1. Largo
  2. Allegro (K. 11)
  3. Andante moderato
  4. Allegro (K. 5)

第12番ニ長調

第 12 番ニ長調も、第3番と同じく Youtube にアップロードされている。第1楽章から第3楽章の前半が http://www.youtube.com/watch?v=DiEgA_vykqY で 第4楽章から第6楽章の後半が http://www.youtube.com/watch?v=dUkQgOv7R3A で聴ける。

楽章はそれぞれ次の通りである。

  1. Grave Tempo Reggiato
  2. Largo Tempo Giusto
  3. Allegro Spiritoso (K.23)
  4. Lentemente (K.22)
  5. Tempo Reggiato
  6. Allegro (K.33)

3. は K.23 のほぼ原曲通りの編曲だ。なお、Youtube サイトでは誤って K.2 と表記されている。
4. は原曲は Allegro、ト短調である。Lentemente は意表をついている。
6. は原曲冒頭の左手3連符は除かれて通常の16分音符に変更されているが、それ以外はほぼ原曲に忠実である。

4. ヴィンチェンツォ・トマジーニの編曲

ヴィンチェンツォ・トマジーニ(トマシーニの表記もあり)(Vincenzo Tommasini) は、イタリアの作曲家である。 彼はバレー音楽《機嫌のよい女 Les Femmes de bonne humeur 仏、The Good-Humoured Ladies:英、Le donne di buon umore:伊》を書いたが、 これはスカルラッティの音楽からとりいれている。どれだけの数かというと、文献によって 23, 20, 5 とばらばらである。 5 とある文献は、ある CD から参照していると思われる。 この 5 であれば運よく youtube で聞ける。たとえば 第1曲は http://www.youtube.com/watch?v=LimGqGcocio で聞ける。 引用された曲は私の突合せでは次の通りだ。

I. Overture では、K.63(L.84)
II. Presto では、K.2(L.388)
III. Allegro では K.435(L.361)
IV. Andante では K.87(L.33)
V. Non presto, in tempo di ballo では K.430 (L.463)

がある。特に木管が美しい編曲だと思う。

5. アーサー・ベンジャミンの編曲

アーサー・レスリー・ベンジャミン(Arthur Leslie Benjamin) は、オーストラリア出身のイギリスの作曲家。 フルートと弦楽のための組曲:Suite for Flute and Strings (1945) では、 副題にドメニコ・スカルラッティによるソナタの自由な引用、 とある。フルートとピアノに編曲された版もある。私は残念ながらこの作品を聞いたことがない。

6. ゴードン・ブライアンの編曲

ゴードン・ブライアン(Gordon Bryan) には、 スカルラッティのソナタをもとにした一連の協奏曲群がある。たとえば、 https://www.youtube.com/watch?v=VfjzC1EZgSo などがある。上記リンクでは次のようになっている。

	1. Canzonetta  (Sonata in F-Sharp, L. 31, K. 318)
	2. Polonaise  (Sonata in B minor, L. 34, K. 376) (at 2:42)
	3. Minuet  (Sonata in G, L. 82, K. 471) (at 4:46)
	4. Aria  (Sonata in D minor, L. 423, K. 32) (at 8:07)
	5. Tarantella  (Sonata in F-Sharp, L. 31, K. 318 - opening only) (at 10:06)	

このオーボエ協奏曲は、なかなか楽しい。

7. 吹奏楽への編曲

7-1. ショスタコーヴィチの《D.スカルラッティの2つの小品》

Op.17 がついているこの作品は、それぞれ K.9 (http://www.youtube.com/watch?v=XyesPZqZ0RQ)と K.20 (http://www.youtube.com/watch?v=6i4NQhbZ5wo)から取られている。 K.9 は管楽合奏の王道だが、K.20 の脱力した表情はなんだろう。ショスタコーヴィチは得体のしれない人物だ。

7-2. フィリップ・ジョーンズ・ブラスアンサンブル

フィリップ・ジョーンズ・ブラスアンサンブルによって3曲のソナタ ( ホ長調 K380ニ長調 K430, ニ長調 K443)が編曲されている。 残念ながらまだ聞いたことがない。

8. ピアニストによる編曲

8-1. ハンス・フォン・ビューロー

ハンス・フォン・ビューローはスカルラッティの作品を校訂した、 というより編曲したというのが当たっているのかもしれない。 そんな編曲がある。

8-2. レオポルド・ゴドフスキー

編曲といったらこの人、ゴドフスキーにもスカルラッティの編曲がある。 ルネサンス第4巻 - 第19番 協奏的アレグロ イ長調 (原曲は K.113)がある。原曲に音を増やした編曲なので、 オマージュの章ではなく、こちらで扱う。とはいえ、前半は12小節、後半は11小節、ゴドフスキーによって挿入された部分がある。

8-3. カール・タウジッヒ

カール・タウジッヒ(タウジヒともつづる。通例 Carl Tausig, ポーランド語ではKarol Tausig) にも編曲がある。 パストラーレとカプリッチョである。移調した上で、原曲の風情をこわさない程度の音を加えている。

9. オマージュ、パスティーシュ、レスペクト

この項の情報の一部は、http://www.allmusic.com/album/music-of-tribute-vol-4-scarlatti-mw0000260908 から得た。

9-1. アムランのパスティーシュ

ピアニストのマーク=アンドレ・アムランが自作の練習曲第6番「スカルラッティを讃えて」("Omaggio a Domenico Scarlatti")を弾いている。 両手の交差や、和音の連打、手の跳躍を織り込んだ演奏で、讃えているのかおちょくっているのかわからないが、 私としては讃えていると見たい。 ニコニコ動画ほか、いくつかの動画サイトにある。

9-2 クルターグ・ジェルジー

クルターグ・ジェルジ(Kurtág György)はハンガリーの作曲家。Hommage à Domenico Scarlatti という作品を書いている。

9-3 ジャン・フランセ

ジャン・フランセ(Jean Françaix )はフランスの作曲家。Hommage à Scarlatti というピアノ曲がある。

9-4 マルセル・ド・マンツィアーリ

マルセル・ド・マンツィアーリ (Marcelle de Manziarly) はフランスの作曲家。やはり、Hommage à Scarlatti というピアノ曲がある。

9-5 シャルル=ヴァランタン・アルカン

シャルル=ヴァランタン・アルカン(Charles-Valentin Alkan) はフランスの作曲家。エスキス-48のモチーフ Op.68 の第14曲の Duettino (小さなデュエット) 曲は、途中で"alla - D:Scarlatti" という指示がある。 楽譜はインターネットで公開されている。

9-6 レイモンド・レーヴェンタール

レイモンド・レーヴェンタール(Raymond Lewenthal)はアメリカのピアニスト、作曲家。 「スカルラッティ風トッカータ」(Toccata alla Scarlatti)という小品がある。インターネットで公開されている。

9-7 ヴァルター・シュテフェンス

ヴァルター・シュテフェンス(Walter Steffens) はドイツの作曲家。Hommage à Scarlatti というピアノ曲がある。

9-8 ヴラスティミル・ニコロフスキ

ヴラスティミル・ニコロフスキ(Vlastimir Nikolovski)のピアノソナタ ト長調は、きっとスカルラッティを意識しているのだろう。

9-9 カール・ツェルニー

ピアノの練習曲で有名なカール・ツェルニー(Carl Czerny) には、ドメニコ・スカルラッティの様式によるソナタ Op.788 がある。

(2015-03-01)

9-10 イグナツ・ヤン・パデレスフキー

パデレフスキーはポーランドの作曲家。メヌエット ト長調 がよく知られている。このメヌエットは、6 つの演奏会用ユモレスク ( 6 Humoresques de concert ) Op.14 の第1曲であることはあまり知られていない。 同じ作品番号の第3曲は、スカルラッティ風カプリス (Caprice à la Scarlatti ) と名付けられている。 両手の交差が現れたり3度や6度の音階進行が続いたりする特徴は、明らかにスカルラッティを模している。 この曲と似ているスカルラッティのソナタには、同じト長調の K.13 や、調こそ異なるが軽快な響きの ホ長調 K.20 がある。

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MARUYAMA Satosi