コンピュータのことば

作成日:1998-05-09
最終更新日:

コンピュータのことばの肌合い

コンピュータ用語、情報技術の用語は英語が多く、日本語は少ない。 その少ない日本語で、日常の日本語と比べて違和感が残ることばがある。 少し調べてみた。

属人的

このページを作ろうとしたきっかけになったことばである。 懇意にして頂いているサリタナ株式会社の小池社長が以前書いていた 毒蠍日記参之巻(2002年後半)の11月3日の日記で、次のように記している。

属人的(”属人的”って広辞苑には載っていない様だが、 仕事の成果等がその担当者の能力に大きく依存している場合等に使わないかな?)

「属人的」は確かに広辞苑第4版には載っていない。意味は小池さんのいう通りである。 そして、このことばはコンピュータシステムを導入する目的に決まって使われる。 たとえば、システム導入の計画書には次のように記述される。 「今までの○○作業は属人的であったために質が低下しており、効率も低かった。 そこで××システムを導入して○○作業を行わせることにより属人性を廃し、 品質と効率の向上に役立てる。」 このようにシステム導入においては、属人的であることは排除すべきことと考えられている。

このように書いて、私は不安を覚える。 果たして、導入したシステムによる作業が、結果として高品質、高効率になるのだろうか。 熟練技術者の作業にはシステムが適わない、ということは十分起こり得る。 その場合の熟練作業者の成果は十分属人的といえるのではないか。 言い換えれば、システム導入は「平準化」にはつながるが、 「効率化」「高品質化」につながるとは必ずしもいえないのではないか、ということだ。

ついでに、「平準化」ということばも広辞苑にはない。平準ということばの意味も、 土地や価格の高低をならす意味の説明である。

ひも付け

コンピュータシステムでは多くのデータを互いに関連付けて扱わなければならない。 その関連付けのことをシステム屋は「ひも付け」と呼ぶ。もちろん、「紐付け」と書いてもよい。 関連という抽象的なことばより、「ひも」という実体を連想しやすいことばが好まれるのだろうか。 「ひも付ける」という動詞および活用形も使われる。

ところで、実物の世界では、AとBを一度紐で結べば、Aを動かさず紐をひけばBが手前に来るし、 Bを動かさず紐をひけばAが手前に来る。ところが、コンピュータの世界ではこうはいかない。 AからBに紐付けただけでは、BはAから紐でつながれていることは認識できないのだ。 WEBのリンクの関係を想像してもらえればよい。このあたり、なんとももどかしい。 (2005-05-30)

疎通

日常用語では「意思疎通を図る」のように、人間の意思の通い道を作ることをいう。 コンピュータで疎通というと、通信機器がネットワークで物理的につながれていて、 かつ、つながれた通信機器群が一体となって正しく動作することを指す。 単に線をつなぐだけでは通信機器は動作しないので、 システムが互いに動作することを確かめることを「疎通を確かめる」という。 それぞれの通信機器も意思を持つと思えば、疎通ということばが使われるのも理解できる。

疎開

一般に疎開ということばは、 戦争時に使われる。集団疎開というように、戦争に参加しない人間を、 戦争の激しい場所から避難させることをいう。

コンピュータでいう疎開とは、データや情報が記録されているテープなどの媒体を、 大火災や地震といった災害から守るため、 コンピュータのある場所とは離れた別の場所に避難させることをいう。

どういう場面が非常時か、大事なものは何か、扱いが異なるところが面白い。 (2003-07-09)

翻訳

通常は「日本語から英語への翻訳」というように、 書かれた言語を別の書かれた言語に変換する作業をいう。

コンピュータの言葉で翻訳とは、数字と記号からなるコードのように 人間には理解ができない数字や文字の列を、意味のある文字に変換する 作業をいう。

例: コード PQ0123 → 意味 ○○株式会社 ○○事業部

どちらも、相手がわかるのに自分にはわからない言葉を、 自分がわかる言葉に置き直すということでは共通している。 (2003-07-09)

ゴミ集め

このことばは、実生活とコンピュータ用語とでかなり性格が違う。 実生活のゴミ集めでは、使えないものを集めるということだが、 コンピュータの世界のゴミ集めとは、プログラムを実行していて不要になった記憶領域を 再利用できるように認識することである。実生活にとってのゴミは、 比較的誰が見てもゴミであるとわかるが、コンピュータの世界の記憶領域のゴミは、 認識して再利用するのに手間がかかる。とはいえ、いったん再利用できるように認識できたら、 それを使い回すのは楽なところが、コンピュータのいいところだ (2003-07-09) 。

番外

プログラマの格言集というのがあちこちにある。立派なものもあるし、マーフィーの法則の壮大な変奏曲もある。 私が好きなのは次の格言集だ。

私は「芸は身を Haskell」というダジャレが気に入っている。(2020-10-15)

このプログラマ格言に則ってダジャレでことわざ集を作ろうと思ったが、うまく作れなかった。 (2020-10-21)

あ:悪事千行を走る

プログラムを再利用できるような設計を怠ってしまい、 プログラムが走るようにコピーアンドペーストを繰り返していたら、 千行にもわたってしまった。

あ:Ansible より uum が易し

サーバーの構成管理ツールより、かな漢字変換フロントエンドプロセッサのほうがわかりやすい、 という意味ではない。用途の違うものを比較するのが誤り。(2021-04-29)

い:一字が万時

たった一字のバグを見つけるために一万時間を要した。

う:売りのツールに NAS は成らぬ

売り物のツールを使っていたらデータが肥大してしまったので、 あわてて NAS で急場をしのごうとしても手遅れである

え:円は下の力持ち

勘定系・財務系・会計系システムの仕様書で「400万の貸方が発生する」 などのように円を書いていないものがあれば、 その作成者は正しい仕様書を書く力に欠ける。

ご:Go に入りては Go に従え

Go 言語を使うプロジェクトでは Go 言語の環境に殉じなければならない。 go fmt は絶対だ。

み:身から出た錆

「プログラムの品質が低い!Null Pointer のバグが多すぎる! 高い品質が担保されている言語でなければ開発しない!」 と叫んでいると「じゃ Rust で開発よろしく」と上層部からリーダーを任された。 いざ開発してみるとコンパイルが通らず、悪戦苦闘し身もだえしている。 言わずもがなだが、英語で Rust は「錆」のこと。

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MARUYAMA Satosi