エスペラントからドイツ語へ |
作成日:2000-04-09 最終更新日: |
私は日本語も、外国語も苦手だ。せめてもと思ってエスペラントに逃げ込んだのだが、 エスペラントもうまくいきそうにない。それならば、と思って考えたのは、 計画言語であるエスペラントから各地域で話される自然言語がどう導かれるかを考えればおもしろそうではないか、 ということだった。まず、ドイツ語から始める。それも、分野は音楽からとっている。
なお、r 類、e 類、s 類というのは思い付きである。たいていのドイツ語学書では名詞の分類を m, f, n として、 それぞれを男性形、女性形、中性形としている。しかし、この名称は生物学上のオスとメスを連想させてしまうので、私は好まない。 私はかわりに r, e, s を用いる。これは、清野智昭氏のテキストに書いてある方法である。これらのアルファベットを使った理由は、この次述べる。
類と格をはっきりさせるには、名詞を定冠詞つきで覚えるのが慣例である。まず、「が」格、la muziko に対応する格である。 言語学では主格という。名格という場合もある。
さて、r, e, s を使った理由だが、der, die, das の最後の文字を取ったものである。こうしておけば、 定冠詞を思い出しやすいだろう。なお、複数形は後回しにする。
これと、エスペラントの kaj に相当する und を覚えておけばどうだろうか。 シューベルトのリートから定冠詞が出てくる曲を並べておこう。
なお、最後の das Mädchen は乙女と訳される。生物学上は女性であるが、類は s 類だ。 s 類はふつう中性形というが、乙女は女性である。このような例からも、オス、メスを連想させない表示が私は好きだ。
次に代名詞について調べる。まず、単数主格からである。
エスペラントで、一人称のわたしは mi、二人称のあなたは vi である。 ドイツ語では、私は ich 、あなたは Sie である(冒頭 S は必ず大文字)。 なお、この Sie は距離の遠い人に対するあなたである。距離の近い人には du を用いる。 距離をはかる尺度は言語と文化によって違う。
エスペラントの三人称は、男性なら li、女性なら ŝi、モノなら ĝi である。 ドイツ語の三人称は、男性と r 類のことばを受けるときは er、女性と e 類のことばを受けるときは sie、モノや s 類のことばをうけるときは es である。 ここで、名詞の類を r, e, s と表現したことの効果を見てほしい。代名詞の末尾もちょうど r, e, s であることに気付いたと思う。
エスペラントの動詞は、不定形が i で終わる。 人称や主語の単複では変化せず、時制(現在、過去、未来)や法(直接法、仮定法、命令法)による変化は規則的である。
ドイツ語の動詞は、人称、主語の単複、時制、法などで変化する。この変化には、規則的なものもあれば不規則的なものもある。 特に不規則性は時制の場合に問題となる。不定詞・過去・過去分詞を、動詞の基本形という。不定詞から規則的に過去・過去分詞が作られる動詞を規則動詞、 不規則となるものを不規則動詞という。
時制が現在である限りは、不規則動詞であっても人称(主語の単複を含む)の変化はそれほど複雑ではない。 ただし、現在時制でも不規則な変化をする動詞もいくつかある。
日本語 | エスペラント | ドイツ語 |
---|---|---|
彼は演奏する。 | Li ludas. | Er spielt. |
彼女は演奏する。 | Ŝi ludas. | Sie spielt. |
それは演奏する。 | Ĝi ludas. | Es spielt. |
演奏する「それ」は何かとは考えないでほしい。私には適当な s 類のことばが思い浮かばなかったからだ(以下同様)。 なお、das Mädchen は s 類であるが、代名詞で受けるときには、sie となる。 生物学上はメスであることが優越するためである。
日本語 | エスペラント | ドイツ語 |
---|---|---|
彼は歌う。 | Li kantas. | Er singt. |
彼女は歌う。 | Ŝi kantas. | Sie singt. |
それは歌う。 | Ĝi kantas. | Es singt. |
日本語 | エスペラント | ドイツ語 |
---|---|---|
私は演奏する。 | Mi ludas. | Ich spiele. |
私は歌う。 | Mi kantas. | Ich singe. |
規則動詞なら、一人称はこのように e で終わる。
日本語 | エスペラント | ドイツ語 |
---|---|---|
君は演奏する。 | Vi ludas. | Du spielst. |
君は歌う。 | Vi kantas. | Du singst. |
ドイツ語の二人称には親称 du と敬称 Sie がある。親称は家庭内・親友・同輩・子供・動物に使う。神への祈りでも du を使う。 エスペラントにも昔は親称があったが、今は敬称 vi のみを使う。 なお、親称と敬称の区別はドイツ語以外の言語にもある。
日本語 | エスペラント | ドイツ語 |
---|---|---|
あの人たちは演奏する。 | Ili ludas. | Sie spielen. |
あの人たちは歌う。 | Ili kantas. | Sie singen. |
三人称複数を表す動詞は上の通りである。なお、敬称の Sie はこの三人称の複数形の sie と同じである。 ただし、文の途中でも大文字になることに注意する。三人称単数の sie とは動詞の活用が異なるので区別できる。
前の章で自動詞を見た。この章はドイツ語の対格をエスペラントと比較して調べる。
エスペラントは、対格でも定冠詞の形は変わらない。 また、エスペラントの対格は、名詞の末尾にnを付ける。
ドイツ語の対格では、定冠詞は対格を表す形に変わる。これは r 系、e 系、s 系によってことなる。 名詞が対格になる場合、r 系の一部の名詞のみ en が付く(例は省略)。他はつかない。 なお、ドイツ語の動詞は、動詞により結びつく格が決まっている。対格とのみ結びつく動詞が一番多いのでまずこれから進める。
s 類のdas Lied (リート)の場合、対格の定冠詞は das である。
日本語 | エスペラント | ドイツ語 |
---|---|---|
彼はリートを歌う。 | Li kantas la kanton. | Er singt das Lied. |
彼女はリートを歌う。 | Ŝi kantas la kanton. | Sie singt das Lied. |
それはリートを歌う。 | Ĝi kantas la kanton. | Es singt das Lied. |
e 類のdie Musik (音楽)の場合、対格の定冠詞は die である。
日本語 | エスペラント | ドイツ語 |
---|---|---|
彼は音楽を愛する。 | Li amas la muzikon. | Er liebt die Musik. |
彼女は音楽を愛する。 | Ŝi amas la muzikon. | Sie liebt die Musik. |
それは音楽を愛する。 | Ĝi amas la muzikon. | Es liebt die Musik. |
r 類のder Takt (拍子) の場合、対格の定冠詞は den である。
日本語 | エスペラント | ドイツ語 |
---|---|---|
彼は拍子を指示する。 | Li indikas la takton. | Er gibt den Takt an. |
彼女は拍子を指示する。 | Ŝi indikas la takton. | Sie gibt den Takt an. |
それは拍子を指示する。 | Ĝi indikas la takton. | Es gibt das Takt an. |
ドイツ語では終わりに an という単語のような文字が付け加わっている。この an は gibt と関係があることだけを注意して、詳しくは次に述べる。
先に、ドイツ語の次の例を出した。
Er gibt den Takt an.
ここで、文末の an は本来は動詞の gibt と結びついて angibt の形(3人称単数)で使われる。 しかし、文の終わりに動詞がこないときは angibt の最初の an が分離し、文末に移行する。 このように、最初の分離部分が取れてしまう動詞を分離動詞という。 分離の前部分はドイツ語の前置詞として使われることが多く(そうでないこともある)、 後部分は通常の動詞として使われることがほとんどである。
エスペラントでも、前置詞+動詞で新たな動詞が作られることが多い。ただし、動詞が分離することはない。 例:alveni = al + veni で「到着する」、aldoni = al + doni で「付け加える」
ドイツ語の geben と angeben の違いを見よう。 ドイツ語では、er gibt den ... は「彼は・・・を与える」であり、er gibt den ... an は「彼は・・・を指示する」である。
ドイツ語の an は前置詞として「側面における接触、近接」を表す。gibt と angibt の関係は、何となくわかるような気がする。 ちなみに、「上面における接触」は auf を使う。er gibt den ... auf は、「彼は・・・を委託する」である。
エスペラントは、接触を表す前置詞は、上面、側面に限らず sur を用いる。英語では同様に上面、側面に限らず on である。
エスペラントの動詞は、自動詞か他動詞である。他動詞の場合は対格のみを取る。 ドイツ語の動詞にも、自動詞と他動詞がある。他動詞で目的語として取るものは、対格だけでなく、与格もある。 動詞や前置詞などが特定の格と結びつくことを格支配という。
日本語 | エスペラント | ドイツ語 |
---|---|---|
彼はあなたに楽譜をあげる。 | Li donas la muziknoton al mi. | Er gibt mir die Partitur. |
彼女はあなたに楽譜をあげる。 | Ŝi donas la muziknoton al mi. | Sie gibt mir die Partitur. |
それはあなたに楽譜をあげる。 | Ĝi donas la muziknoton al mi. | Es gibt mir die Partitur. |
エスペラントでの前置詞の格支配の場合は2種類ある。主格だけをとる前置詞と、 主格と対格のいずれかをとる前置詞がある。 後者の例を3つ示す。
日本語 | エスペラント |
---|---|
の上(を|に向かって) | sur |
の中(を|に向かって) | en |
の下(を|に向かって) | sub |
場所を表すこれらの前置詞は、動きがあるときは対格をとり、動きがないときは主格をとる。
ドイツ語での前置詞の格支配も似ている。ドイツ語では4種類ある。 属格のみ、与格のみ、対格のみ、与格と対格のいずれか、である。与格と対格のいずれか、 に相当する前置詞を、エスペラントの場合と同じように掲げる。
日本語 | ドイツ語 |
---|---|
の上(を|に向かって) | auf |
の中(を|に向かって) | in |
の下(を|に向かって) | unter |
場所を表すこれらの前置詞は、動きがあるときは対格をとり、動きがないときは与格をとる。
このページを作ってみたくなった目的はこの相似を書きたかったからだ。 これでまずはおしまい。(2013-01-19)
なお、私がドイツ語に挫折した話は「外国語について」にある。
エスペラントの形容詞には、付加語的用法と述語的用法がある。これは日本語も同じである。
ドイツ語の形容詞も同様に、付加語的用法と述語的用法がある。また、副詞的用法もある。
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