理想のピアニスト(第 25 回、本格派を考える)

作成日:2019-08-25
最終更新日:

本格派ピアニスト

前回のラフマノフ祭りでは、 月 1, 2 回某所でピアノを弾いていると書いたが、この1、2年は年に2,3回のペースになってしまった。 その理由なのだが、帰りが遅くなるし、外でピアノを弾く気分になれないということがある。

話題を転換して、今回は「本格派ピアニスト」を考える。何をしたら本格派ピアニストになれるだろうか。 なお、他のページと同じく、今回はクラシックの分野に絞ることをお許し願いたい。

本格の対義語

本格派の定義を考える前に、本格派、あるいは本格の対義語は何かを考えてみる、という手がある。 本格の対義語としてはまず、異能ということばが思い浮かぶ。たとえば、相撲取りでいえば、栃赤城などがその代表だ (時代が知れてしまいますねえ)。栃赤城は、珍しい決まり手で、しかも逆転勝ちをおさめていたところから 異能派の名前が高かったのだろう。http://sumo-rikishi.com/?p=158 のページにある通り、 技能派力士というより、異能力士。である。

本格とは異なる、という意味で変格ということばはある。これはしかし、人に用いる言葉ではなく、和声学でいう「変格終止」のように、 常道である「完全終止」とは異なる、という意味で使う。 その他、言語学でも「変格」を使うことがある。これは別の格「様格」との対比として使われたり、 「ラ行変格活用」のように、例外をあらわす意味で使われたりする。

本格とは異なるという意味が強いのは「異端」だろう。ただ、異端はその人のもつ個性が強すぎて、 「異端派」というくくりにはならないところは「異能」とは異なる。 なお、異端の対義語は「本格」ではなく「正統」が普通であろう。

本格の反対語は「破格」であるとのご託宣が、検索エンジンにより得られた。しかし、本格派ピアニスト、との反対語として、 破格派ピアニスト、という言葉は用いられるだろうか。おそらくはないだろう。破格は「破格のお値段」というように、 相手の耳目を引き付けるためだけに使われているのが現在だろう。

もう少し調べないといけないが、本格、あるいは本格派への対義語としては、異能、あるいは異能派が、私にはしっくりくる。

本格派が使われる場面

さて、本格派が使われる場面をもう少し探そう。「本格派推理小説」というのがある。 これは Wikipedia によれば「謎解き、トリック、頭脳派名探偵の活躍などを主眼とするものである。」 では本格派でないものとすれば、私が思い浮かぶのは倒叙型が思い浮かぶが、これは本格と併存するのかどうか、わからない。 なお、本格派、という名前が起こったころには、本格派ではないジャンルはすべて変格、として取り扱っていたらしい。

本格派は何を弾くのか

私はアマチュアのピアノ弾きであるから、どんなレッテルを貼られることもないのだが、 プロともなると形容詞がつく。そのなかで典型的なのは「本格派ピアニスト」だろう。 では、本格派ピアニストは何を弾くのだろうか。 クラシックの主流は、ドイツ・オーストリア系である。だから、モーツァルト、ベートーヴェンから、 シューベルト、シューマン、ブラームスは欠かせないだろう。だから、 主なレパートリーはこのあたりでなければならない。 また、ピアノの詩人と言われたショパンも弾けなければならない。 それに、コンポーザーピアニスト、つまり自身が作曲家でもあり、ピアニストでもあるという、 超人的な活躍をした方々の作品も手中に入れる必要がある。 だから、リストとか、ラフマニノフなどもレパートリーに入っている必要がある。

もちろん、周辺各国の作品が弾ければ申し分ない。ロシアにはラフマニノフ以外にも多くの作曲家がいる。 フランスはドビュッシー、ラヴェルという優れた作品を残した作曲家がいる。 ほかにも、スペイン、スイス、北欧、東欧、南北アメリカなど、手を広げれば無数にある。

私は、上記の観点でいえば、本格派ピアニストではない。また技巧派ピアニストでもない。 ましてや異能派のピアニストでもない。ただ、ベートーヴェンをまじめにやっていなかったことを悔やんでいる。 それはあとで述べる。

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MARUYAMA Satosi