理想のピアニスト(第14回、ショパンの人気)

作成日:2004-09-20
最終更新日:

前回は「好きなピアノ曲ベスト30」による、 理想のピアニスト判定クイズを作った。 その後、2004年9月19日に、 やはりテレビ朝日の「題名のない音楽会21」で、 こんどは「好きなショパンピアノ曲ベスト20」が発表されていた。 そこで、これらを書いてみた。 今回は1位から20位まで、ただ記すだけである。名称も略式なので、 各自補ってほしい。

  1. 別れの曲
  2. 革命
  3. 英雄ポロネーズ
  4. 華麗なる大円舞曲
  5. 子犬のワルツ
  6. 幻想即興曲
  7. ノクターン嬰ハ短調(遺作)
  8. 木枯らし
  9. 軍隊ポロネーズ
  10. 雨だれのプレリュード
  11. プレリュード第7番
  12. ワルツ第7番嬰ハ短調
  13. 黒鍵
  14. 別れのワルツ
  15. ピアノ協奏曲第1番
  16. スケルツォ第2番
  17. ワルツ第14番ホ短調
  18. ソナタ第2番「葬送行進曲」
  19. マズルカ第5番
  20. ノクターン第2番

私にとって意外だったのは「ノクターン第2番」が低い順位だったことである。 一方で、ノクターン嬰ハ短調(遺作)が第7位と高くなっている。 昔はもっと順位が低かったろう。 だんだん人気が出てきて、映画「戦場のピアニスト」でも使われたから、 この順位なのだろう。 私が全音楽譜出版社から出ているショパンのノクターン集を買ったとき、 このノクターン嬰ハ短調(遺作)は収録されていなかった。 ピアノピースで買ってみようかな、と思いつつ、未だ買わずに今に至っている。

注:実は持っていた。ショパンの作品にはいろいろな版があるが、 その中でパデレフスキー版の遺作に入っているのだったが、全然私は認識していなかった。 (2009-02-01)

また意外だったのは、バラード第1番が入っていなかったことだ。 ある程度腕の立つアマチュアピアニストは好んで弾くけれど、 あまりなじみがないのだろうか。 今回はテレビによる順位発表であるし、どこまで信頼がおけるかわからない。 そもそも、対象者の層もわからない。話の種としておくのがいいのかもしれない。

ショパンのピアノをある程度弾き込んだり聞き込んだりした人達ならば、 違う順位になるだろう。

学生時代にピアノの仲間で「ショパンのピアノ曲ベスト5」 というのを誰かが募った時があった。 私はどう答えたか覚えていないが、 今でも覚えている答がある。「ピアノ協奏曲は第1番より第2番」、 「ピアノソナタは第3番より第2番」。 断言できるほどの思い入れがあるということは、 何とうらやましいことか。

仲間の間でも、ショパンの曲の変遷があった。あるときはバラード第4番だったり、 あるときは舟歌だったりした。 H さんは「今に幻想ポロネーズの時代になる」と予言したが、 残念ながらはずれてしまった。

註:この予言が気になって、 その後なぜか幻想ポロネーズを練習したことがある。 2005年の年末、余興でHさんの前でその幻想ポロネーズを弾いたので、 「M氏は幻想ポロネーズを練習している」とインターネット上で書かれた。 しかし、実際に練習していたのは20年前のことである。 (2006-04-30 追記)

ところで、ショパンを弾かないピアニストはいるのだろうか。 心配になって調べた。 ブレンデルやグールド、ケンプ 、バックハウスなどは、あまり弾かない。 そういえば、この人たちのショパンは聞いたことがない。 (注:以前は単に「弾かない」と書いていたが、梅介さんの指摘により、実は弾いていることがわかった。 訂正します。2005-04-23)

調べた限りでは、次のようである。 グールドはピアノソナタ3番を弾いている。 ブレンデルはポロネーズ(英雄、嬰ヘ短調、幻想、ハ短調、アンダンテ・スピアナートと華麗なポロネーズ)を弾いている。 (ヴィルヘルム)ケンプは、子守唄、マズルカ、幻想即興曲などの録音がある。 バックハウスは、練習曲(Op.10)、子守唄などを録音している。

そこで、ショパンは弾かなくとも理想のピアニストになれるのか、という問を考えてみた。 私の第一命題「理想のピアニストは、どんな曲でも弾けなければならない」に従えば、 ショパンの曲も弾けなければならない。 しかし、ショパンの曲を弾く意義はどこにあるのだろうか。 よく皆が知った曲では、あらゆる解釈が考えられ、あらゆる表現が与えられている。 そのような曲を、自分が弾く意義がどこにあるのか、 考え直す必要があるのではないだろうか。 聴衆がいることを前提とする職業演奏家であればなおさら、熟考が求められる。 ショパンの曲はとりわけ、弾く意義が求められる作品であると私は思う。 皆がよく知っているし、曲の完成度も高いからだ。

だんだん頭が回らなくなったが、私の結論はこうである。 「理想のピアニストが、ショパンも弾けるのは当然だ。 しかし、ショパンを弾く努力はそこそこにして、 他の曲を弾く努力に傾けるべきではないか」 ということである。

今思い返すと、「ショパンのピアノ曲ベスト5」についていえば、 「どれでもいい」と答えた人がいた。 私にはその真意がわからなかったが、今となって多少わかるような気がしてきた。

追記:直近のショパンコンクールの本選出場者の演奏を聞いた。当たり前だが、みなうまい。 だからなのか、しかしなのか、 理想のピアニストがショパンも弾けるのは当然だ。 しかし、ショパンを弾く努力はそこそこにして、 他の曲を弾く努力に傾けるべきではないか という主張が確信に近いものになってきた (2016-03-26) 。

まりんきょ学問所まりんきょと音楽理想のピアニスト > 理想のピアニスト(第14回)


MARUYAMA Satosi