本書裏から引用する。
大学数学の最初の一歩をよく理解する最新の入門書
上巻に引き続いて、大学数学の初年級の題材が解説されている。本書の目次は次のとおりである。
6 章 群・環・体の入口 7 章 線形空間と行列 8 章 行列と行列式 9 章 固有値と実対称行列の対角化 10 章 統計の基礎にある数学上の勘所 補章 代数学の基本定理の証明
上記の目次で分かる通り、下巻は代数分野と統計分野が解説されている。ただし、補章の「代数学の基本定理」の証明は、バリバリの解析学である。
本書にはジョルダン標準形の解説はない。これに関して p.216 に次のような記述がある。
余談ではあるが,筆者は若いころ,「線形代数を学ぶ者としては,固有値の一般的な分類である『ジョルダン標準形』まで学ぶことなく, 固有値の学びを終わらせるべきではない」と主張していた自分を,少し恥ずかしく思う次第である。
また、p.260 では次の記載がある。
本章(引用者註:9 章 固有値と実対称行列の対角化)の 1 節では固有値の一般論を学んだ。そこで学んだことをもとにして, 固有値の一般的な分類であるジョルダン標準形へ進むこともできるだろう。そこでは主に,単因子論や不変部分空間を用いる両方の方法がある。
まあ、ジョルダン標準形までいかなくても、たいていの応用ではなんとかなるものだ。ただ気になるのが、p.227 にある次の記述だ。
`n` 次正方行列 `A` の相異なる固有値全体を `lambda_1, lambda_2, cdots, lambda_s` とし,`A` の固有方程式が
`abs(xE-A) = (x - lambda_1)^(m_1)(x - lambda_2)^(m_2)cdots(x - lambda_s)^(m_s)`と 1 次式の積に分解されるとき(代数学の基本定理), `m_i` を `lambda_i` の重複度という。(中略) 一方,離散数学に目を向けると,とくに対称性が強い組合せ構造を扱うときは, 重複度が 2 以上の固有値がいろいろ現れることが普通である。そのように,同じ固有値の応用でも, 登場する固有値には大きな違いがあることを注意しておく。
離散数学で行列がでてきて固有値を扱うような分野にはどんなものがあっただろうか、マルコフ連鎖やグラフ理論があるのだろうが、具体例がどうしても思い出せない。本書にもその例がないので、 気になる。
数式は MathJax で記述している。
| 書名 | 新体系・大学数学 入門の教科書 下 |
| 著者 | 芳沢光雄 |
| 発行日 | 2022 年 6 月 20 日(第1刷) |
| 発行元 | 講談社 |
| 定価 | 1300 円(本体) |
| NDC | 410 |
| サイズ | 18cm 334ページ |
| ISBN | 978-4-06-527762-1 |
| その他 | 講談社ブルーバックス、草加市立図書館で借りて読む |
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