安田 亨:入試数学 伝説の良問 100 |
作成日:2011-11-19 最終更新日: |
著者はいう「良い問題で良い解法を学ぶ」。 1971 年から 2002 年に出題された大学入試問題から、 演習に値する良問を集めた。
著者が挙げている 100 題のほかに、妙な問題や超難問をコラムに集めている。 妙な問題とは、たとえば p.159 にある問題である。
を満たす自然数 n をすべて求めよ。
ふつう、この問題を見たら誰でも根号の中は非負であると思う。 ところが当局である出題者は根号の中が負の場合も想定した模範解答を用意していた。 出題者曰く「実数の問題と思う人がおかしい」とにべもない。 著者は(このような問題は)交通事故のようなものと諦めましょう、と締めくくっている。
入試問題なら、交通事故で済む。しかし、実生活では交通事故は山ほど起きる。 私がこの問題と解答を見て思ったのは、ソフトウェアの要求仕様(要件仕様)のすれ違いである。 要件を求める側、すなわち出題者は根号の中を複素数で解くべきと思う。 しかし要件を実装する側、すなわち解答者は与えられた式から根号内は実数であると思い込む。 この溝は埋まらない。世の中にはこのようなすれ違いはゴマンとある。
世の中のすれ違いとはどういうことか。この問題を見て思ったことを述べよう。 たとえば、ソフトウェアの実装で、コードを英数字で入力するという仕様があったとする。 要件定義者は、英数字として求められる文字が、ASCII (いわゆる半角)の英数字といわゆる全角の英数字の両方を念頭に置いていたとする。 ところが実装者は ASCII 文字のみに限られるとして実装する可能性が高い。するとどうなるか。要件定義者が「動かない、おかしい」といって 実装者を責めるのだ。
たかが入試問題からの発想でソフトウェアの要件定義にまで飛んでしまうのは我ながらおかしいと思う。 とはいえ、入試の数学問題は基本的に解けるようにできている。 だから実社会のギスギスした世界からみれば、入試の整った問題は安心できる。 たとえこのようなひっかけ問題であっても。
p.218 にある問題 65 の (2) は、パワーアップ離散数学の第1章練習問題と同じだ。
N を自然数とする。1 から 2N までの自然数の中からどのように (N + 1) 個の自然数を選んでも, その中に一方が他方を割り切るような 2 つの組が必ず存在することを示せ。
パワーアップ離散数学で解けなかったのでこちらを見ている。 さて、この問題を解くときに使われた論法は次である。
n 個の部屋があり,そこに (n + 1) 人を入れるとき,2 人以上が入る部屋がある。
この事実の言い方は次の3 通りある。
著者によれば、前2者が伝統的な言い方、鳩の巣原理は最近かつ組合せ論の理論家が好む言い方という。 最近は、鳩の巣原理の言い方が増えてきたような気がする。 なぜか。部屋割りやひきだしでは容器ばかりに目がいき、そこに入れるもの・ひとがあいまいになるからだ。 部屋だったら人なのだが、人以外に入れるものがある。 ひきだしはより抽象的になってしまう。ボールを入れるのが数学や物理のたとえでは多いのだが、 実感がわかない。鳩の巣というのは鳩と巣という、入れるものと入れられるものの両者が具体的なので、 この言い方が好まれるのではないか。
入試問題は計算をしたり、論証をしたりする。このような計算や論証は、大学の専門で学ぶ高度な数学につながるのか。そこが問題である。
この本に対して、<大学入試問題を素材にして、高度な数学世界の入り口を見せてくれる本との期待は見事に裏切られ>という批評があった。 これはやむを得ないだろう。素材としての問題をどう選ぶか、どのような分野が適しているか、考えるべきことは多い。 一つのヒントとしては、この本ではチェビシェフの多項式関連の問題がよく取り上げられている。 たとえば、pp.298-301 の解答などである。 それから、群論の入口になる問題も多い。このあたりからだろうか。
数式は MathML で記述している。
| 書 名 | 入試数学 伝説の良問 100 |
| 著 者 | 安田 亨 |
| 発行日 | 2011 年 5 月 23 日(第 20 刷) |
| 発行元 | 講談社(ブルーバックス) |
| 定 価 | 1100 円(本体) |
| サイズ | 新書判18cm 332ページ |
| ISBN | 978-4-06-257407-1 |
| NDC | 376.8 |
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